映画「メアリーの総て」 平成30年12月15日公開 ★★★★☆

(英語 字幕翻訳 牧野琴子)

 

 

19世紀のイギリス。

小説家になりたいメアリー(エル・ファニング)は、異端の天才と称される詩人のパーシー・シェリーと出会う。

彼らは互いの才能に惹(ひ)かれ駆け落ちするが、メアリーに数々の悲劇が訪れる。

ある日彼女は、滞在していた詩人バイロン卿の別荘で、怪奇談を披露し合おうと持ち掛けられる。

                                                    (シネマ・トゥデイ)

 

「フランケンシュタイン」といえば、、文学にとどまらず演劇や映画の世界でも大いに取り上げられる

怪奇小説の超古典なんですが、それを書いたのは18歳の少女だった!

とそれだけでもびっくりですが、彼女は単なる早熟な才能あふれる少女だったわけではなく

壮絶な出自や体験に基づいて、偶然の思い付きと言うより、

必然的にフランケンシュタインを生み出した・・・ということがよくわかりました。

 

 

 

シネマ・カリテのロビー展示だと、こんな暖炉の前で、くつろいだ様子に見えますが、

実際、この衣装のときはメアリーは↑のタイトル画像のように墓場にいたし、

実際にフランケンシュタインを書いたときはもっと鬼気迫る状況で書いていたんですよね。

ともかく、いい意味で、思っていたのとは全然違う映画でした。

 

以下、ストーリーを追いながらだらだら感想を書いていくので、

早い段階からネタバレになりますから、ご注意ください。

 

 

ロンドンで書店を経営する父と、口やかましい母とそれに従順な妹と弟と暮らす16歳のメアリー。

彼女は墓地で怪奇小説を読んだり自分でも書いたりするのが大好きな少女なんですが、

とにかく継母と折り合いが悪く

「店番もしないで書きもの?」

「こんな怠け者の娘とは暮らせない」

とか毎日言われているのを見かねた父は

「お前には避難所がいる。孤独のなかで自分と向き合え」

といって、スコットランドに住む古い友人のバクスターの家にメアリーを送り出します。

 

父はメアリーがこっそり怪奇小説を書いているのも知っていたようで

「人まねはだめだ、自分の声をさがせ」

とも言っていました。

 

メアリーの母は聡明な女性解放論者でしたが、メアリーを産むのと引き換えに

命を落としてしまったのでした。

バクスター家の娘のイザベルも病気で母を失っており、二人はすぐに打ち解けます。

「降霊術で母の魂を呼び寄せて寂しさを紛らわせている」

というイザベルに、

「母は私が殺したようなものだから、きっと会いたがっていないわ」とメアリー。

 

ある日、読書会で、新進気鋭の21歳の詩人バーシー・シェリーと知り合い、

ハンサムな彼に惹かれるのですが、実家から「義妹のクレアが重病」と知らせが入り、

ロンドンへと引き換えします。

 

ところがそれは、メアリーに帰ってきてもらいたいクレアの仮病だったようで・・・

また書店の店番をする生活に逆戻りしますが

そこへ、突然現れた「父の信望者」だという青年が、なんとパーシーでした。

父はそこそこ有名な無神論者の作家でしたから、まんざら嘘でもないんでしょうが、

明らかにメアリーを追いかけてやってきたようで、親の目を盗んではめちゃくちゃ口説いてきて

メアリとも次第にいい雰囲気になってきます。

(そんな様子を、うらやまし気に見つめるクレアの姿・・・)

 

それなりの授業料を払うからしばらく滞在したいというパーシーに

書店の経営が火の車だった両親も承諾するのですが、

なんと、パーシーは既婚者だったことが判明!

 

パーシーには妻のハリエットと幼い娘アイアンシーがいて

メアリーは直接ハリエットから

「夫に近づかないで!」といわれてしまいます。

このことは両親の知るところとなりますが、

授業料は大事な収入源だし、これでメアリーもあきらめるだろうと、むしろ歓迎している義母。

「あの男は色情魔だけど、大事な収入源だから、

スキャンダルは起こさないで」

「あなたがお母さまみたいな愚かで尻軽な女性解放論者じゃなくて、

きっとがっかりしたでしょうね」

 

 

このあたりで、「メアリーの母は実は父と結婚していなかった」

という、「パーシーが既婚者」以上の驚くべき事実が明らかになってきます。

 

つまり、それまでの流れだと、

「メアリーの出産のときに実母が亡くなり、

そのあと父が結婚した後妻に、血のつながらないメアリーはいじめられている」

と理解していたのですが、実は

「メアリーの母は既婚者の父と恋に落ち、子どもを産むが、

そのときに命を落とした」

ということだったようです。

メアリーは「三人婚」といっていましたが、こんなの今だってNGだと思いますけど

当時の「女性解放論者」としては、最先端の女性の生き方だったのでしょうか??

 

メアリーは義母のいうように、パーシーが既婚者と知ってドン引きするのですが、

そんなことはお構いなしに、ガンガン口説いてくるパーシー。

 

「妻とは養育費を払うだけの関係で、すでに破綻している」

「自由恋愛を尊重すべき」

「価値のある人生を過ごそう」

「結婚しなくても共に生きる道はあるはず」

 

詩人だから、ロマンチックな言葉を並べてその気にさせる術に長けていて、

拒否しながらも、メアリーはだんだんその気になってしまうんですね。

 

若いころの父はまさにパーシーの立ち位置にいたわけですが、

さすがに可愛い娘を既婚者の餌食にはできず、激怒してパーシーを追い出します。

 

ふたりは駆け落ちの約束をしていて、それを知ったクレアはメアリーにこういいます。

「出ていくのね、メアリー」

「これからは前だけを見て生きるのよ」

「この家を出たら、この家に住む人のことは忘れていい」

 

ここまでは、なかなかカッコイイ言葉だと思って聞いていたのですが、

次の瞬間、クレアは驚くべきひとことを発します。

 

「わたしも連れて行って!!」

 

なんと、「義妹を連れて駆け落ち」という、前代未聞の流れになるのですが、

パーシーも面白がって、クレアを歓迎し、セントパンクラスでの奇妙な三人の生活がはじまります。

 

パーシーは詩人としての収入がそれほどあるとも思えず、親の金を当てにしているようですが、

勘当されて無一文になったり、勝手に土地を抵当にいれて借金し、

突然召使付きの豪邸に引っ越ししたり、それがバレて夜逃げしたり・・・・

経済観念が破綻しているとしか思えないのですが、それ以上にメアリーを苦しめたのは

貞操観念の圧倒的な欠落。

 

パーシーの友人ボッグスを家に招いた夜、彼から迫られ、怖い思いをしたメアリーは

それをパーシーに話すのですが、彼の返事は、ボッグスに対する怒りではなく

「君が好きならつきあえばいいのに」

「君の自由意志だ」

 

「私にはあなたしかいないの」というメアリーを

「なんて重い女なんだ」というような冷ややかな目でみるパーシー。

当然のように、クレアとも関係しているパーシーに

「思っていた男と違う」

「幸せを求めて無防備になりすぎた」

と気づくのですが、すでにメアリーは妊娠していて後には引き返せません。

 

ある日3人は、「甦る死者たち」という怪しげな「生体電気ショー」に出かけます。

死んだカエルに電気をあてて動かすという陳腐なものでしたが、

これを観たメアリーは、このときに「フランケンシュタイン」のヒントを得るのですね。

またこのときに、バイロン卿を紹介され、有名人好きのクレアは彼の愛人となったようです。

 

やがてメアリーはクララを出産し、母となった喜びに満たされますが、

借金取りに追われて雨のなかを逃げるうちに最愛のわが子を失ってしまいます。

絶望のメアリーを救ったのは、意外なことにクレアで、

バイロン卿の子どもを妊娠したから、いっしょに彼のいるジュネーブに行こう!

とメアリーを誘うのです。

 

1816年。レマン湖のほとりのバイロン卿の別荘。

招待もしてない3人がやってきて驚くバイロン卿でしたが、

彼はパーシー以上に理解不能なくらいなおおらかな自由恋愛主義者で、彼らを歓迎してくれます。

この館にはバイロン卿の不眠症治療の主治医として医師ポリドーリが同居していて

彼をふくめた5人で、夜な夜な芸術の話をしては、退屈しのぎに

「みんなでひとつずつ怪奇小説を発表しあおう」ということになります。

これが有名な「ディオダディ荘の怪奇談義」とよばれる、文学史に残る出来事で、

「フランケンシュタイン」「吸血鬼」が生まれたといわれています。

 

wikiで「ディオダディ荘の怪奇談義」のページを読むと、メアリーのことも書いてあり、

映画に出てきた以上のいろんな経緯があったようで、驚くばかりです。 → こちら

 

家に帰ったメアリーは取りつかれたように執筆をはじめ

「フランケンシュタイン あるいは現代のプロメテウス」を完成させて出版社に持ち込みますが、

18歳の女性が書いたと信じてもらえずに、

結局、匿名でパーシーの序文を条件に初版500部が決まります。

 

出版記念のスピーチでパーシーは

「私なしにこの作品は生まれていなかったが、

私が果たした役割は、絶望感を作者にあたえたことだけ」

「本当の作者は、メアリー・ゴドウィンで、彼女が単独で書き上げたのです」

と。

そして2版から、作者はメアリー・シェリーと実名で出版されました。

(妻のハリエットが入水自殺したため、メアリーはパーシーの正式な妻となったようです)

 

なお、「吸血鬼」の本当の作者はポリドーリ医師だったのですが、こちらもバイロンの名前で発表され

失意のポリドーリは服毒自殺したとか。

 

彼はこのドラマに登場する、唯一の「まともな人格者」だと思ったんだけど、

彼といい、パーシーに捨てられてけなげに娘と生きるハリエットとか

まともな人が死を選び、頭のネジがおかしい人が生き残るのが納得いかないし、

そもそも時代をけん引する文学者たちの恋愛観がちょっと狂っていて、

「共感できない」というレビューがとても多いのもわかりますけど・・・

 

とくに閉塞した生活に飽き飽きしていた一般人のクレアを

「観客の目線」で登場させるのかと思ったら

彼女が誰よりも突拍子もない行動をするので、なんか、驚いてしまいます。

架空の人物かと思ったら、なんと「メアリーの異母姉妹であるクレア・クレモント」は実在の人物で

バイロン卿の子どもをホントに出産していました。びっくり!

 

本作は、メアリーがノートにひたすらしたためるペンの音ではじまり、

書くことで自分を取り戻した成熟した女性の姿で終わります。

 

「私の声を見つけた」

「後悔はしていないわ」

 

「フランケンシュタインの誕生秘話」というわりには、

フランケンシュタインのプロットは具体的にはでてこないのですが、

「少女らしい突飛で斬新な発想」で生まれたわけではけっしてなく

フェミニズムの先駆者だった同じメアリーという名前の母から受け継いだ血を感じつつ、

夫への愛は錯覚だったのかと悩み、死なせてしまった最愛の娘を蘇らせたい思い

生体電気ショーで体験した超自然現象、人まねでない自分の声をさがせという父の言葉・・・

彼女に訪れた様々なことから、必然的に生まれた小説だったことがわかりました。

 

メアリーを演じたエル・ファニングがまさに適役で、

闇、神秘、退廃、異端、死・・といったゴシックの世界を

18歳の等身大の女性の内面に映し出してくれたように感じられました。