映画「バッド・ジーニアス 危険な天才たち」 平成30年9月22日公開 ★★★★☆

(タイ語 字幕翻訳 小田代和子)

 

 

頭のいいリン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)は、進学校に特待生として転入する。

彼女はテストのときにある方法で友人を救ったことが評判になり、

さらに指の動きを暗号化する「ピアノレッスン」方式を編み出して、多くの生徒を高得点に導く。

彼女は、アメリカの大学に留学するための大学統一入試「STIC」に挑もうとしていた。(シネマ・トゥデイ)

 

男でひとつでリンを育ててきた教師の父は、貧しさのために娘の可能性を潰したくなくて、

名門校へ転校させようとしていて、校長室でリンの優秀さをアピールします。

今までのオールAの成績や、国際クロスワードや数学コンテストでの優勝歴など・・・

「あなたは特待生。授業料免除だけでなく、ランチもタダで提供しましょう」

という校長のひとことで転校することにします。

 

クラスメートのグレースは、可愛くてひとなつっこい子で、リンとすぐに仲良くなります。

「成績が3.5以下だと舞台に立てない。

ミルクシェーキおごるから、数学を教えて!」といわれ、家庭教師をしてあげます。

テストには教えてあげた和集合の問題が出たのに、グレースは答えられない様子。

しかたなく、答えを書いた消しゴムを上履きにいれて後ろの席のグレースに送り、

このカンニングで、グレースはなんと、3,87の成績をとることができました。

 

グレースにはパットという大金持ちの彼氏がいて、こいつがやっぱりバカなくせに

同じ進学校に通っています。(裏口入学でしょうね)

リンのおかげで成績アップした話を聞いたパットは、リンにカンニングを依頼してきます。

依頼者はあと5人いるから、一人、1科目につき3000バーツ払うと、

13科目で合計23万4000バーツ!

 

実は自分の入学のために、苦しい家計の中から

父が学校に20万バーツものわいろを払ったことをこのころリンは知ってしまったので、

この無謀なオファーを受けることにしてしまったのです。

 

学校のテストは基本ABCDのマークシートなので、これにそれぞれピアノ曲をあてます。

「エリーゼのために」→A 「メヌエット」→Dのように、指使いで答えを教えるのです。

カンニング指南をする「リン先生のピアノレッスン」は大盛況。

 

クラスにはもうひとり、リンと同じくらい優秀なバンクという奨学生がいて、

彼の家庭は母子家庭の貧しいクリーニング店。

機械が壊れては手洗いをしたり、バイクで配達を手伝ったりする毎日ですが

カンニングをもちかけられても絶対に断る、清廉潔白な人物です。

「バンジョンがカンニングしてるかも」とバンクが教師に報告したものだから、

リンは父親とともに校長室に呼ばれ、疑いの目を向けられます。

退学はさけられたものの、奨学金は取り消し。

シンガポール大使館からの留学選考の学校推薦枠までバンクに取られてしまうのです。

(もちろんバンクはそのためにチクったわけではないのですが)

 

 

高校三年生になり、「ボストンの大学に(バカ息子)パットを行かせたい」という両親は、グレースに

「息子の勉強をみてほしい。費用はすべて出す」

「とりあえず、STICの試験でいい点を取らせて」といってきます。

「もう危ない橋はわたりたくない」と断ったものの、

ホテルの世界時計を見て、時差をつかうことを思いつきます。

世界中で同じ日に行われるので、一番早いオーストラリアで試験を受け、

その答えを4時間後に試験のはじまるタイに送信する、というもの。

問題数は多いし休憩時間も短いので、リンひとりでは無理なので、

バンクも誘おう!ということになります。

 

バンクはシンガポール大使館の留学試験の前日、ヤクザたちから暴行を受け、

遠くのゴミの山に捨てられてしまって、入院。テストを受けられなかったのです。

「客」を募って60万バーツ集め、経費を引いて、リンと山分け・・・・

この条件で、バンクも仲間に引き入れようとします。

「不正は何かを失うことだけど、

私たちはお金を得、みんなは合格を得る」

「バンク、わたしたちはうまれついての負け犬よ」

「興味があれば、あしたグレースの家、オネストコマース印刷所に来て」

 

果たして、翌日そこにはバンクの姿がありました。

スマホをトイレに隠し、休憩時間に手分けして答えをタイに送信する。

答えは、試験場に持ち込みできる2B鉛筆のバーコードに(ABCDで太さを変えて)印刷し

テスト前にみんなに配ることで、たくさんの「客」が集まります。

 

その手順や、捕まった時の言い訳までみんなでシミュレーションするのですが、

そのなかで、パットが、バンクの暴行事件のことを話してしまいます。

「そのことは、だれにも話していないのに、なんで知ってる!?」

やくざを雇ってバンクを殴らせ、彼のチャンスをつぶしたのは、パットの仕業だったとわかり、激怒しますが

「こうなればリンにも責任をとってもらい、確実に金を手にして、洗濯やではおわりたくない」

と、協力することにします。

そして、バンクとともにオーストラリアに旅立つリン。

さて、国をまたにかけたこの計画は成功するのか・・・?

 

 

 

この話は、韓国などでおきた実際の事件がモデルになっています。

なので、当然、中国か韓国の映画だと思っていたんですが、

なんと、タイ映画ときいてびっくり!

評価も高かったので、予定にはなかったけれど、観に行くことにしました。

 

タイの映画って、まえに「すれ違いのダイアリー」の時にも書いたんですが(→こちら

日本での公開はほとんどないし、ドタバタコメディやほのぼの系でレベルもまだまだ・・・

って感じだったんですが、

これは、長尺ながら、テンポもよく、最後まで緊張感を持続できたし、

ビジュアルもスタイリッシュで、見ごたえありました。

まあ、現実にはありえない場面もあるにはあったけれど、それが映画ってもんですからね。

むしろ「タイらしさ」をほとんど感じなかったのが物足りなかったくらい。

(エンドロールのタイの筆記体の文字が美しいな、と思った程度です)

 

リンがトイレや靴にスマホを隠したり、試験官に追いかけられるところなんて

スパイ映画をみているようで、心臓バクバクしてしまいました。

試験官が(正しい人なのに)スパイ映画の悪役みたいな強面で、

主役のリンを演じている女優さんが、高身長のモデル体型だから、なおさらそう思ったのかも。

 

ちなみに↑上のタイトル画像では、優秀なエージェント4人衆みたいに見えますが、

賢いのは左の2人だけで、右の2人はバカです(あえて言えば、資金集め担当?)

 

家が金持ちが貧乏かで子どもの将来が限定されてしまうのは不幸なことで

そのために「奨学金制度」があるんですが、それを得ようとするにも

進学校に通ってなければだめだったり、わいろが必要だったり、結局どこかで金が要るという・・・

お国事情もありますが、日本ではどうなんでしょう?

 

最近「塾に行くお金がなくて、学校の授業についていけない子どもたちを、公費で支援する」というのは

地元でもやっていて知っているのですが、

それはあくまでも「落ちこぼれ対策」なので、

逆に、せっかく賢いのに、レベルの高い塾に通えず

公立高で甘んじてる・・・というのには支援ないんですよね。

その辺は塾が特待生扱いにしろ!ってことなんですかね。

今の進学事情は分かりませんが、「上に薄く下にあつい」って印象はぬぐえません。

「お金がなくても東大に行ける」って国にしてほしいです。

 

最後にネタバレしてしまいますが、

映画の中では、トイレからなかなか出てこないバンクが疑われ、彼だけが捕まり、

大使館からの連絡で彼は退学になってしまうのです。

捕まらなかったリンがこのビジネスから足を洗うことを決意し、

あれだけ真面目だったバンクのほうがダークサイドに落ちてしまう、という展開。

 

裏口入学もだけれど、カンニングはひとりで完結する犯罪ではないので、常に

「一蓮托生」ということばが つきまといます。

これ、絶対にビジネスにしてペイできないと思うけどな。

賢いのになんで気づかないかな?

 

とか、結局、ありきたりの感想ですみません。