映画「ゲティ家の身代金」 平成30年5月21日公開 ★★★☆☆

原作本「ゲティ家の身代金」 ジョン・ピアーソン ハーパーブックス★★★★☆

1973年、大富豪ジャン・ポール・ゲティ(クリストファー・プラマー)は

孫のポール(チャーリー・プラマー)を誘拐され1,700万ドルという高額の身代金を要求されるが、

守銭奴でもあったゲティは支払いを拒否する。

離婚して一族から離れていたポールの母ゲイル(ミシェル・ウィリアムズ)は、

息子のために誘拐犯、ゲティの双方と闘う。

一方、犯人は身代金が支払われる気配がないことに苛立ち……。    (シネマ・トゥデイ)

 

実際に起きた身代金誘拐事件を描いているのですが、

本件が特殊なのは、大富豪の祖父がケチで、身代金を払おうとしないこと。

普通は犯人と被害者の親との間で身代金の額や受け渡し方法の交渉があったりするんですが、

ここでは、お金の話は被害者の母と被害者の祖父の間でもめる・・・というわけです。

 

大富豪の孫の誘拐犯から1700万ドルの身代金、というニュースが流れると

(ほんとうに誘拐されているのに)まず誰もが狂言誘拐を疑い、そのうち

世界中から名乗り出る「我こそは誘拐犯」という偽者に無能な警察は翻弄されます。

ゲティは、自分の部下でもある交渉人のチェイスに孫の保護を託しますが、

なかなか払われない身代金にしびれをきらした犯人グループは、

新聞社に切断したポールの耳を送り付けてくる・・・・といった話です。(実話!)

 

 

海外版のポスターはこんな感じ。

耳を切るシーンはかなりグロいので、ご注意ください。

 

 

 

原作も(原題の「All The Money In The World」もふくめ)同じタイトルですが、

孫のポールの誘拐事件に関しては25章あるうちの1章だけで、

その部分を思い切り膨らまして映画になっています。

本のほうには、大富豪のジャン・ポール・ゲティの父親の代から始まって

その兄弟や妻たちやほかの子どもや孫たちのことも詳細に書かれていて

系図もこんなに複雑です。

 

 

映画に登場する主要人物のみ赤線を引きましたが、

まず、ジャン=ポールはなんと5回の結婚歴があり、5人の妻の間に5人の子どもがいます。

4番目の妻との子どもポール・ジュニアの最初の妻がゲイルで

その長男が誘拐されたポールということになりますが、

ゲールとの8年の結婚生活の間に4人の子どもを授かるものの2人は離婚し、

ポール・ジュニアは、さっさと次の結婚をしています。

 

名前が同じなので紛らわしいですが、

祖父のジャン=ポールの名前を引き継いだ父は薬物中毒で廃人同様。

誘拐されたポールも正確にはジャン=ポール三世なんですが、けっして素行がいいとはいえません。

彼は養育費ももらわずに離婚した母ゲイルに育てられていたから、けっして裕福ではないのに

なんでまた誘拐されちゃったのか、結局わかりませんでした。

ゲイルにしてみれば、大富豪の孫だったがために誘拐されたんだから、

なんとしても払ってもらいたいところですが、ジャン=ポールは

「ここで払ったら13人の孫が次々に誘拐されるから、脅迫には屈しない」といっています。

それはそれで正論ではありますが、(原作本によれば)

彼は5番目の妻との実の子どもティモシーの治療費も出さなかったそうなので、

高価な美術品には金を惜しまなくても、家族への出費をケチるような人物だったということ。

 

ただ、ゲティ家の財産は、ジャン=ポールの母の代から、「信託」の形で築かれていたから

投資に使うことはできても、自由に処分することができない・・・

というのが、『ケチの真相』のようなんですが、

そのあたりのことが難しくて、私には良く理解できませんでした。

 

ところで、この作品が有名になったのは、「取り直し事件」

ジャン=ポール役をケビン・スペイシーで撮影し終わった後に彼がセクハラで糾弾され、

わずか9日間でクリストファー・プラマーを代役にたててすべてのシーンを撮影しなおし、

ちゃんと公開にまにあったというから、おそるべし、リドリー・スコット監督!

そしておそるべし、クリストファー・プラマー!

彼が(受賞はなりませんでしたが)

この作品でアカデミー賞にもゴールデングラブ賞にもノミネートしたのにも驚きました。

 

映画を観る限り、プラマーはまさに適役に思えるのですが、

そもそもジャン=ポールは、5人の妻のほかにもたいへんな女性遍歴があり、

性欲バリバリの人物だったようで、むしろ実像はケビンのほうが近いのかな?

なんて思ってしまいました。

 

「取り直し事件」には続きがあって、プラマーとのシーンがあるキャストにも当然取り直しが必要ですが、

ミシェル・ウィリアムズがわずか1000ドルで受けたのに対し、

マーク・ウォルバーグが150万ドルも吹っ掛けた、というのも話題になりました。

 

映画のなかのミシェル(ゲイル)は、最後

信託財産の管理を一手にまかされてリッチになったような終わり方でしたが

いくら相続権のあるコドモが4人もいたとしても、すでに離婚した身で、なんか不自然に思えましたが・・・

 

ともかく、この一族の話はとても込み入っているので、1本の映画で完結させることは難しく、

シリーズものにして、じっくり描いて欲しい気がしました。