映画「ハロルドとリリアン ハリウッド・ラブストーリー」 平成29年5月27日公開 ★★★★☆

 

(英語 字幕翻訳 原田りえ)

 

 

第2次世界大戦中にアメリカ空軍パイロットとして戦ったハロルドは、1945年に生還して間もなく、

聡明な女性リリアンと知り合い恋に落ちる。

だが、ハロルドの家庭は厳格で、身寄りのないリリアンとの結婚に反対されてしまう。

そして数年後、彼らはハリウッドで駆け落ち同然の状態で結婚する。

その後ハロルドとリリアンは、サミュエル・ゴールドウィン・スタジオで一緒に働く。(シネマ・トゥデイ)

 

ハリウッド映画の全盛期を支える裏方を60年も勤め上げた仲良し夫婦の話。

「ラブストーリー」とあるけれど、彼らのかかわった名作映画がたくさん登場して

映画好きにはたまりません。

 

夫のハロルド・マイケルソンはストーリーボード・アーティストとよばれる、「絵コンテ作家」。

日本の監督は絵コンテ自分で書く人が多いから、これは基本監督の仕事だと思ってたんですが、

分業化の進んだハリウッドではそういう人がいたんですね。

それも「監督のいうとおりの構図で絵を仕上げる」んじゃなくて、脚本を読んで監督の意図をさぐり

カット割りも構図も絵コンテ作家が考えるようで、

映画史に残るような名場面の多くはハロルドの仕事だったんですよ!

 

 

絵コンテ作家がみんなそこまでやるのか、ハロルドが特別なのかはわからないけれど

(多分後者かな?)

彼のかかわった作品は大監督の名作ぞろいです。

 

脚本から絵を起こすのなんて、映画作家冥利につきる部分だと思うんですけど、

絵コンテ作家というのはあくまでも裏方で、エンドロールの短かった昔は、名前すら載らなかったとか。

のちにプロダクションデザイナーとしてクレジットされることも増え

79年の「スタートレック」がアカデミー賞美術賞にノミネートされたときは、

しっかり彼の名前も発見できましたが、そういうことには彼は全く無頓着みたいでした。

 

一方、妻のリリアンは、映画リサーチャー。

作品作りにおいて必要な情報を収集する仕事で、作品にかかわる資料集め、時代考証など

彼女の裏付けによって作品にリアリティーを持たせるのはもちろん、

彼女の提案が物語の構想を練るヒントになることも多かったとか。

やはり映画を裏から支える仕事です。

親の暴力から施設に保護され、孤児として育った彼女は

本から想像の世界の豊かさを人一倍受け取ってきたから、まさに天職だったのでしょうが、

何か、この仕事、魅力的にしか見えないんですけど・・・

 

リリアンは当初ボランティアで入って、その後能力が認められてプロになったようですが、

自分のライブラリーを充実させて「そこへ行けば答えが見つかる」とまでいわれるなんて

本当にうらやましい!

その分類もNDCとか全く無視して、(宇宙と宗教を並べるとか)自分の価値観で

巨大なライブラリーを管理するのって、マジ私の夢でもあります。

今は誰でもネットである程度の情報は簡単に集められるけれど、

やっぱり本で調べるのは大事!

麻薬王のことを調べるのに、直接乗り込んでいって麻薬王に会ってしまうリリアンの行動力にも拍手です。

 

 

二人がかかわった映画作品は名画ばかり。

夫婦そろって映画のオールドファン、というのは珍しくないけれど、

夫婦の人生そのものが作品のなかの一部に収められているなんて、なんと幸せなことなんでしょう!

 

ただ夫婦生活は楽しいことばかりではありません。

リリアンに身寄りのないことから、ハロルドの親は結婚に大反対で

全く祝福されないまま結婚生活が始まり、

三人の息子に恵まれたものの、長男が自閉症。

今でこそ障害児に対する理解や支援も深まってきましたが、

60年前の働く母親がどんな苦労をしたかは想像に難くないです。

その後もハロルドの足の骨折が長引いて失業したり、

ハロルドを馬鹿にしたテッド・ハワーズに激しく抗議したり、

困難を二人で乗り越えてきた結婚生活も

「ラブストーリー」という言葉がいちばんぴったりのように思います。

 

最後にドビュッシーのピアノ曲「月の光」が流れ、

なんかイメージ違いにも思えますが、この曲が心に沁みて、思わずこみあげてしまいました。

 

1920年生まれのハロルドは2007年に87歳で亡くなり、

現在90歳のリリアンは映画関係者専用の老人ホームでお元気だそうです。

 

映画関係者の老人ホームってどんなんだろう?

映画見放題なんでしょうね、いいな・・・・

 

映画の絵コンテのことを考えたことなかったのですが、

こんな本が出ているようです。→Amazonのサイト

ハロルド以外の作家のものも載っているので、読んでおきたいです。