映画「ブリグズビー・ベア」 平成30年6月23日公開 ★★★☆☆

 (英語 字幕翻訳 高田朝子)

 

 

 

25歳のジェームスは、物心ついたときから外の世界を知らず、

小さなシェルターで両親と一緒に生活してきた。

毎週ポストに投函される教育ビデオ“ブリグズビー・ベア”を見て成長してきた彼は、

映し出される世界の研究に没頭する。

ある日、突然ジェームスは警察に保護され、衝撃的な事実を知ることになる。  (シネマ・トゥデイ)

 

自分の部屋で大好きなブリグズビーベアのキャラクターグッズに囲まれた25歳のジェームズ。

実は彼はただのオタク青年ではなく、赤ちゃんの時に誘拐され、

以来ずっと地下シェルターに監禁されて 外の世界と隔絶されて育ってきたのです。

つまり、ジェームズがパパ・ママと思っていたのが誘拐犯。

父親が作った教育ビデオ「ブリグズリーベア」だけを楽しみに育ってきたのですが、

それは724話にも及ぶ壮大なSFファンタジーで、これを偽の父親はジェームズだけのために

ずっと作り続けてきたのです。

PCはネットにつながっておらず、フォーラムに書き込んでいたのも偽の両親で、

外の世界へはマスクをつけなくては死んでしまうとか、嘘ばっかり教えられてきたんですね。

 

この奇妙な監禁生活のお話がしばらく続くのかと思ったら、

冒頭10分か15分かで警察が踏み込み、両親は逮捕されてしまいます。

そしてジェームズは、25年間息子の帰りを待ち続けていた本当の両親のもとへ戻されます。

 

「今までジェームズができなかったことを家族みんなで一緒に楽しもう」

と、実の父親は嬉々としてリストを作りますが、

水泳、カヌー、石の水切り、魚釣り・・・・なんて、ジェームズは全然興味なし。

「じゃあ、何がしたい?」

と聞かれて、ジェームズが答えたのは

「ブリグズビー・ベアの新作が観たい」と。

 

そもそも彼と偽両親しか知らないドラマをどうやって作るの?

ジェームズ以外に誰が見るの?

って思いますが、なぜかいい方向へと転がっていきます。

 

まず誘拐事件をずっと追っていた担当刑事のヴォーゲルが協力的で、

膨大な量の「証拠品」から劇の制作につかえそうなものを、こっそり持ち出してくれ、

彼は演劇経験者だったから、出演もひきうけてくれました。

妹オーブリーと出かけたパーティーで、映画オタクのスペンサーと知り合い、

ダイジェスト版のVHSを見て興味を示し、手伝うことを申し出てくれます。

また、たまたま行ったカフェのウエイトレス、ホイットニーが

偽父の作ったビデオにアリエルの役で登場していたこともわかります。

 

協力者の輪はどんどん広がり、いろいろ障害もありながらも、彼の自主映画はついに完成します。

めでたし、めでたし・・・・

 

劇中の「サンスナッチャー」みたいな敵役は全く登場せず、頭の固そうなカウンセラーやドクターや

警官や両親までもが最後には協力してくれて、大きなストレスなくハッピーエンドが訪れます。

誘拐犯の偽両親も、ジェームズを愛していたのはまちがいなくて(「万引き家族」っぽいですね)

25年の監禁生活という壮絶な過去にもかかわらず、不幸の影は薄く感じます。

 

ただこれは実話ではないので、もしこんなことが本当にあったら、

社会に適応するのにどんな苦労があるのかは想像できませんけどね。

 

最近の本のタイトルで

「人生で大切なことはすべて〇〇で学んだ」と言うのが多いですが、

ほんとうに「すべて」を学ぶことなんてできるはずもなく、

子ども向けのおもちゃなどの「教材」だって、それを乗り越えて行って、

はじめて成長があるものと思います。

ジェームズは続編の映画をつくることで、この「教材」を超えることができたということかな?

 

この作品はシネマカリテで、6月23日に私が観た「ガザの美容室」と同じ初日だったんですが、

なんかこっちのほうが盛り上がっていて、失敗した~!と思い、ずっと気になっていました。

「感動した」レビューばかりだったので、ちょっと期待しすぎたかな?

ほのぼのした「いい話」ではありましたが、感動するまではいきませんでした。

 

子ども時代があまりに遠くなってしまったからかもしれませんが、

私自身は、子どもの頃大好きだったものを「懐かしい」とは思うけれど、

うーん、「好き」と言う気持ちがそんなに蘇ることはないです。

学生時代に人形劇をやっていて、脚本も書いたし人形も作ったけれど、

当時すでに完全に作り手側の立ち位置で楽しんでいたように思います。

 

「みんなで協力して映画を作り上げる」高揚感も、コメディタッチで

「カメラを止めるな!」のような臨場感もなくて、個人的にはちょっと期待外れだったのが残念。