映画「ボストン ストロング ダメな僕だから英雄になれた」平成30年5月11日公開 ★★☆☆☆

(英語  字幕翻訳 松浦美奈)

 

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ボストン在住のジェフ・ボーマン(ジェイク・ギレンホール)は、

別れた恋人のエリン(タチアナ・マズラニー)とよりを戻すため、彼女が出場するマラソンの会場に行く。

だがゴール地点近くで爆破テロが起き、彼は両足を失ってしまう。

昏睡から目覚めたボーマンは警察に協力し、そのおかげで犯人の目星がつく。    (シネマ・トゥデイ)

 

 

2013年のボストンマラソンでの爆弾テロ事件。

この事件を扱った作品としては、ボストン市警の警官が主役の「パトリオットデイ」がありますが、

本作はこの事件の被害者のひとりで、両足を失う傷を負いながらも、犯人を目撃したことから

脚光を浴びたジェフ・ボーマンという青年の自伝がもとになっています。

 

ジェフを演じるのはジェイク・ギレンホール。

彼が今まで演じてきた主人公は、精神的にも肉体的にも恐ろしくタフな人物が多く、

良くも悪くも「ギラギラした人物」がほとんどだった気がしますが、

このジェフ・ボーマンという人物はどうしようもなく、等身大。

いやフツー以下のヘタレ男ですね。

 

突然の事故で非常に恐ろしい思いをし、両足を失うという悲劇に見舞われる。

ただ目撃情報を提供したことから世間からは英雄のように言われ、

あれこれ翻弄されてしまったダメ男が自分の人生とどう折り合いをつけていくか・・・

というような話になっています。

 

みんなが知っている実在の事件を背景に「映画映え」する話ではないと思うんですが、

下手に脚色して美談に仕上げなかったのは好感がもてます。

でも、犯人逮捕へのサスペンスフルな要素はないし、個人的にはビミューでした。

 

以下、あらすじです。

 

コストコの従業員のジェフ・ボーマン。

彼はある日、自分の不注意で、オーブンの中のチキンを真っ黒こげにしてしまいます。

もちろん自分の責任で後片付けして帰らなきゃいけないのに、レッドソックスの応援があるといって、

仲間に頼んでさっさと帰ってしまいます。

当然、スタジアムのチケットを買ってあるのかと思ったら、そうではなく、

なんとスポーツバーでのテレビ観戦で盛り上がりたいだけだったんですよ。

まあ、彼はそのレベルの人物なんです。

 

そこへ、元カノのエリン登場!

いつも約束を守らないテキトー男のジェフにエリンが耐えられずに一方的に別れを切り出し、

でも、ちょっとするとヨリが戻り・・・・みたいな腐れ縁の関係だったんですが、

エリンがボストンマラソンにチャリティランナーとして出場することを聞いて、

(多分また彼女に振り向いてほしくて)

そこにいる仲間にカンパを募ります。そして。

「オレも応援にいく」

「ゴールで待っているから」と。

 

翌日マラソンの応援に行くといって、応援グッズを作っているジェフに母親のパティは

「なんでこんな女に執着するのよ」と不機嫌になります。

どうやら、息子のことを何度もフッているいるエリンにいい感情をもっていないようです。

 

いつもだったら約束しても守らないのに、たまたまこの日はちゃんとゴールでエリンを待っていたジェフに

あの瞬間が訪れるのです。

 

ゴール付近で二度の爆発音が響き、無差別に観客を殺傷したあのテロ事件。

爆発物から至近距離にいたジェフも両足を激しく損傷します。

命は助かったものの、病院で心配する家族には、両足切断の無情な宣告が・・・・

 

意識を取り戻した彼は、

「bag, saw the guy, looked right at me」とメモを書き、FBIに情報提供をします。

そしてこれが犯人のスピード解決につながったということで、一躍ヒーロー扱いされることになります。

 

私はこの事件の報道はリアルタイムで見ていたし、「パトリオットデイ」の内容からも

スピード逮捕につながったのは、防犯カメラとか、観客たちの撮っていた動画の解析とか、

どこかの家の庭のボートに潜んでいた犯人を赤外線による熱感知のカメラで見つけたりとか、

そんな画像やデータの分析によるものと思っていました。

目撃者の記憶による証言なんてどの程度信頼できるのか?と思ってしまうんですが、

ともかく彼は実在の人物なので、こういうことがあったのは事実なんでしょうね。

 

ジェフがちやほやされるのに一番喜んでいるのは、実は彼の家族たちで、

テレビに出たり、有名司会者にインタビューされたり、有頂天になっています。

母親はアルコール依存症だし、家族も親戚も一族そろって、けっしてレベルの高くない人たちで、

いわゆる「プアホワイト」のがさつさ、あつかましさ全開でした。

「息子のすばらしさを人に知ってもらうのは悪いことじゃないでしょ?」

 

一方、マスコミにヒーロー扱いされるのに戸惑っているジェフの気持ちの一番の理解者がエリンです。

彼女は(自分が頼んだわけじゃないけど)自分の応援に来てくれて事故にあったわけから、

やっぱり責任を感じてしまっているんですね。

彼の身の回りの世話をするために家に引っ越してくるのですが、母親のパティとは気があわず、

居心地の悪い状況で、献身的につくすエリンでしたが、

ある日、ジェフとの子どもを宿したことに気づきます。

 

「小さくてすてきなものがやってくる」

「もう5か月になるの」

笑顔で告白するエリンに、ジェフも喜んでくれるかと思ったら

「僕には無理」

「足がないんじゃ、子供の面倒なんてみられない」

 

いやはや、全く・・・・

それでも障碍者となったジェフの世話をし、酔っぱらいの鬼姑とやりあいながらも

エリンは子どもを産む決断をするのだから、たいしたものです。

 

実は、ジェフが世間から注目されるようになったのは、「犯人を目撃した」ことと、もうひとつ、

救出シーンが撮影されていて、それがテレビ中継されたものだから

「あの時のあのひどい怪我の青年は助かったのか?」ってことになったんでしょうね。

ジェフの救出に手を貸した一般人がカルロスという人物で、彼もまたこの事件をきっかけに

「ジェフ・ボーマンの守護天使」として、ことあるごとにマスコミに称えられていました。

 

そんな彼らのもとへ、レッドソックスから「開幕始球式の投手」の依頼が来ます。

それまでも、地元のアイスホッケーチーム、ブルーインズのホームアリーナの氷の上でフラッグを振る・・・

みたいな依頼はありましたが、「レッドソックスの開幕戦の始球式」というのは、とんでもなく名誉なことです。

ふたりがセットでみんなの前に姿を現す・・・・って、いかにも大衆が飛びつきそうな話題で、

私は個人的にはこういうの大っ嫌いなんですが、

「悲しい出来事のあとには、なにか明るい話題を」というのは定番なんでしょうね。

「ボストン・ストロング」とは、「ボストンよ、強くあれ!」という、レッドソックスのスローガン。

阪神淡路大震災のあとに、オリックスの選手たちがユニフォームの袖に書いていた

「がんばろうKOBE」みたいなものでしょうか?

 

カルロスという人物、

彼は、イラクで息子を失い、それがきっかけで次男も自殺。

自暴自棄になっているときに、目のまえでテロが起き、ジェフを助けたことで、息子を救った気持ちになれた、

ジェフのおかげで自分は助けられたというのです。

「私に助けられてくれてありがとう」

ということですね。

 

自分たちが観衆のまえに元気な姿をあらわすことで、みんなを勇気づけることができる・・・・

というわけで、ふたりはこの依頼を受け、フェンウェイパークのマウンドに立つのです。

(「マルチネスにサークルチェンジを習った」とかいって、はしゃいでいただけですけどね。)

 

結局は「PR活動に利用された犯罪被害者」としか思えないんですけど、

ただ、「こんな自分でも何かの役に立った」という達成感は、

2時間の映画にするにはあまりにちっぽけですが、

本人にとっては非常に重大なことだとは思います。

(落ち込んでいるときに、なにか自分のしたことで「ありがとう」とかいわれると、

一発で元気になる・・・なんてことは私でもよくありますから)

 

そういえば、「テロの被害者が翌年のボストンマラソンを完走した」というのを聞いたことがあったので、

もしや、それがジェフだったかと思って、エンドロールをどきどきしながら待っていたんですが、

車いすでゴールしたテロ被害者はマーク・フライカルという、全く違う人でした。

彼らでいうと、完走したのは、ジェフの妻となったエレンの方。

ジェフはそれをゴールで待っていたんだって!

 

どこまで頑張るんだ!エレン・・・・

 

他人の目からは、こんなダメ男に尽くしていて、楽しいの?って思ってしまいますが、

実は彼女はこういうのが好きな人なのかもしれない。

ダメってことは「伸びしろがある」ってことで、自分の力で少しずつでもまともになっていくのをみるのが

彼女の生きがいなのかもしれません。

 

(ジェフがエリンに)

「君は大きい子(多分自分のこと)の扱いがうまいから、

きっといい母親になれるよ」

っていうシーンがあるんですが、

こんな父親の自覚ゼロのことばは、私だったら激怒するけど、

エレンにとっては嬉しい一言だったのかも。

 

ともかく、ジェフは、なんにもしなくても、ちゃんと人の役にたっているから、これで良いのです!

ってことですね。

 

一点、気になるのは、この映画が公開されることを、あのパティ・ママはどう思っているのかな?

大っ嫌いな嫁ばかり良く描かれてるのに怒っているのか??

映画のPRでテレビに出られて喜んでいるのか??

多分両方なのかもね。