「妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ 」 5月25日公開 ★★★☆☆

ノベライズ本「妻よ薔薇のように 家族はつらいよⅢ 」小路幸也 著 山田洋次・平松恵美子 脚本  講談社文庫 ★★★★☆

平田家に泥棒が入り、
長男・幸之助(西村まさ彦)の嫁・史枝(夏川結衣)がひそかに貯めていたへそくりが盗まれる。
自分の身を心配せずにへそくりをしていたことに怒る幸之助に対し、
史枝は不満を爆発させ家を出ていってしまう。
家事を担当していた彼女がいなくなり、母親の富子(吉行和子)も体の具合が良くないことから、
父親の周造(橋爪功)が掃除、洗濯、炊事をやることになる。
しかし、慣れない家事に四苦八苦するばかりで……。    (シネマ・トゥデイ)
 
「妻よ薔薇のように」という副題が先みたいですが、索引でタイトルを並べたいので、
見出しのみ、「家族はつらいよⅢ」を先にさせていただきます。
 
小津監督の「東京物語」のリメイクともいえる「東京家族」が公開されたのが5年前。
その後、同じ家族構成で、一部設定を変え、「家族はつらいよ」のシリーズが始まりました。
1作目が2年前、2作目が去年、そして今年と、毎年順調に新作が公開されて、
「男はつらいよ」にかわる国民的喜劇を目指しているようです。
1作目が「熟年離婚」、2作目が「免許返納」と「無縁社会」、
そして今回のテーマは「専業主婦の家事労働」というところでしょうか。
 
平田家の家族の設定は成長した子役のキャスト変更があったくらいで、安定のメンバーです。
 
ある日の昼間、長男の妻の史枝だけが二階にいるときに、家に泥棒が入り、
史枝が冷蔵庫に隠しておいた40万円のへそくりが盗まれてしまいます。
出張先から帰ってきた夫の幸之助は、それを聞いて激怒。
 
「家に帰ってうまいビールを飲もうとしてたのに、
こんな嫌な思いさせやがって」
「俺が仕事しているときに、二階で昼寝か?いいご身分だな」
「へそくりだって、結局俺が稼いだお金じゃないか」
 
あんまり勝手な物言いに、史枝はショックを受けて、家を出てしまうのです。
やがて、墓参りにいっていた周造と富子が帰ってきますが、
史枝は空き家になっている実家にいることがわかると、当面の問題は明日からの家事。
富子は腰痛を起こしてしまい、あとに残るのは戦力外の男たちだけ。
朝ごはんも作れず、弁当も持たせられず、家の中は荒れ放題です。
 
さて、幸之助は、へんなプライドを捨てて、史枝に頭をさげて、家に連れ戻せるか?
っていう話です。
 
とにかく、メインストーリーがあまりに時代錯誤で、ちょっと呆然としてしまいます。
まず、専業主婦が「家事労働者」としか評価されていないのにびっくりです。
だいたい「夫から妻に一定額を生活費として渡し、そのなかでやりくりする」
なんて家庭、今どれだけいるんだか・・・?
 
あるだけ使っちゃうような浪費家の妻だったら、カードも通帳も渡さず、現金を渡すことはあるでしょうが
6人家族のすべてを管理すべき妻が家計を管理することが許されないってどういうこと?
いまどき、授業料も塾代も口座引き落としでしょうに、なんか平田家では、それすらも
「もらったお金のなかでやりくりしてる」みたいなのも、不自然です。
幸之助が特別家計の管理にスキルをもってるというのならともかく、
「家のことは妻任せ」の仕事人間なのに、財布のひもは自分が握ってるって、そんなのはダメです。
だいたい、この奥さんは、ネットでなにか買ったり、
クレジットカードで買い物するのも許されてないんでしょうかね。
80歳くらいの姑は、弟の印税をネット銀行で受け取り、指紋認証のアプリを使っているというのに、
時代設定はいつの話なのか、意味不明です。
 
富子と史枝と憲子の「嫁チーム」は、集まるとすぐに意気投合するんですが、
共働きの憲子、専業主婦の史枝、趣味に生きてる富子、と、年齢も立場も違うのに
「同じ嫁というカテゴリー」にまとめてしまうところとか、なんだかステレオタイプな価値観が鼻につきます。
 
冷蔵庫の中にジップロックに入れてへそくりを隠すのも、私には理解できません。
泥棒に見つかったのは不幸としか思えませんが、
それ以前に家族に見つかるか、なんかの拍子に捨てられてしまう危険性のほうがずっと高いですよね。
 
今の「へそくり」はどこかに隠すものではなく、「予備費」のような公明正大なものになりつつあります。
平均額は「400万円」ともいわれているから、これは現金ではなくて、ちゃんと口座を作っているんでしょうね。
 
それでも家の中に多少の現金は必要なはず。
私の実家の親は、「命乞い」と書いた封筒に10万円ずついれて、家のあちこちに置いていました。
強盗に遭遇したとき、お金がなかったら殺されるかもしれないから、だそうです。
ちなみに我が家では、急にお祝いとかでピン札が必要なときを想定して
「新札」をためておく引き出しがあったのですが、
それが発展して今は「現金を入れる引き出し」になっています。
もちろん夫婦間に秘密めいたことはなく、ここからお金を使うのは自由ですが
「必ず家計簿マムに入力する」というお約束になっています。
泥棒に見つかる危険はゼロではないですが、何百もある引き出しからこれを見つけられるかは不明です。
 
映画がイマイチだったので、関係ないことをダラダラと書いていますが、
「専業主婦」を15年くらいやっていた立場で言わせていただくと、
もし「三食昼寝付き」って認識だったら、それは大間違い。
掃除や洗濯などの家事の負担よりも、(具体的にはいわないけれど)
「仕事を持っていたら逃げられることがすべて降りかかってくる」というのが一番大きいですね。
結婚当初は、
「かかってくるかもしれない電話を待って家にいなくてないけない」
なんかがけっこう負担でしたが、これは現代では携帯電話で軽減されたし、
家事労働自体も家電の進化で、楽になったのも事実ですが・・・
 
平田家は男たちがなにもやらず、すべての負担が史枝ひとりにかかっているのだから
それは大変だとは思うんですけど、
掃除したりアイロンかけたりするシーンのひとつひとつが
かなり手際悪い!!と私は思ったんですけど・・・・
 
 
そうそう、キャストの設定はなし、とさっき書きましたが、ひとりだけ例外が・・・・
それは小林稔侍。
彼は「東京家族」「家族はつらいよ」では、修造の親友の沼田役でしたが、
「家族はつらいよⅡ」では、長らく音信不通でみじめな老後を送っている丸太で登場しました。
彼は修造の部屋で死んでしまうんですが、
「次回作でまた小林稔侍が違うキャラでしれっと登場しそうで・・・」
と、私が予想した通り、今回も親友の角田役でほんとに「しれっと」登場していました。
今回の彼は医師(今は非常勤)で、
愛車のクラウンを軽自動車に乗り換えて、免許返上した修造を迎えにきてくれます。
今までの中では一番の人格者で、史枝の一番の理解者でもあります。
「丸」が「角」になってるところも笑えるんですが、彼のことについては、すべてのプロモーションでスルー。
なんか気の毒~汗
 
 
 
原案 山田洋次  → 共同脚本  山田洋次・平松恵美子 →ノベライズ 小路幸也
で書かれた、ノベライズ本ですが、むしろこっちがおすすめです。
章ごとに富子や修造や史枝、幸之助、泰蔵、庄太の立場で語られるので、共感度高い!
映画ではなんかもやもやしたところも解消できます。
映画のほうは、別に映画館で見るほどのこともない気もするけれど、
夫婦で観たら、きっといろいろ会話が弾むように思います。