映画「ホース・ソルジャー」 平成30年5月4日公開 ★★★★☆

原作本「ホースソルジャー 米特殊騎馬隊、アフガンの死闘」 ダグ・スタントン 早川書房

(英語 ほか 字幕翻訳 風間綾平)

 

アメリカ同時多発テロ翌日の2001年9月12日。

対テロ戦争の最前線部隊に志願したミッチ・ネルソン大尉(クリス・ヘムズワース)は、

12名から成る特殊作戦実行部隊の隊長に任命され、アフガニスタンへと乗り込む。

反タリバン勢力を率いるドスタム将軍と協力し、

テロ集団の拠点マザーリシャリーフ制圧に動きだすミッチたち。

だが、タリバンの軍勢が予想を大きく上回ることが判明し、山岳地帯の厳しい自然も立ちはだかる。

ドスタムは、山岳地帯では馬が最大の武器になることを彼らに教えるが……。(シネマ・トゥデイ)

 

アメリカ同時多発テロのあの日、2001年9月11日。

ミッチ・ネルソンは休暇を取って家族とすごし、休み明けには内勤になるはずが、

同じく退役申請中だったハル・スペンサー准尉とともに志願してアフガニスタンの最前線へ。

チームは全部で12名。実践経験豊かな兵士たちですが、

実はネルソンは、優れた指揮官ではあるけれど、実戦経験はなし。

「今まではマラリアとヘリの墜落の心配だけでよかったけれど、今度は違う」

大変な覚悟で任務へと向かいます。

 

「ビンラディンが脳なら、手足はタリバン」

「テロ集団の拠点マザーリシャリフを制圧することが、敵側に痛手となる」

「現地では、反タリバンの地元勢力を率いるドスタム将軍が地上戦の指揮をしている」

 

そこで、

「ドスタム将軍に接触し、共に戦い、

マザーリシャリフ奪還を支援すること」

これが今回の任務となります。

「雪に閉ざされる11月半ばまでの3か月間にそれを実行する」

「君ら12人がタリバンへの最初の反撃一番乗りとなる」

そして、タワーのがれきのかけらを「怒りの動機付け」として携え、

大型輸送ヘリ、チヌークに乗り込みますが、無酸素で7600メートル上空を飛ぶだけで

普通の人間は気絶してしまうほどの過酷さがまず彼らを襲います。

おまけに、寒冷地用の装備が支給されなかったので、寒いこと、寒いこと・・・・

 

マザーリから南へ65キロ地点に降り、

CIAの潜入工作員のガイドで無事ドスタム将軍には会えますが、

彼の情報では、

北部同盟はドスタム、アタ、モハケタの3つの軍閥に分かれていて、互いに敵対して殺し合って おり、

彼らは出会えば、タリバンそっちのけで殺しあっている。

また将軍は英語は話さず、

できるのはダリー語、ウズベク語、タジク語、ロシア語など。

語学堪能で優秀な工作員はすぐに自分の任務に戻り、のこされた12人は不安だらけ。

ネルソンは、なんとか話せるロシア語で将軍と会話をすることになります。

 

「君は人を殺した目をしていない。」

将軍にすぐにネルソンの実戦経験のないことを見抜き

「そんな男がこのチームを率いているのが意味わからん」と言われてしまいます。

そして馬での移動を指示されますが、12人に対して6頭しかないので、

チームを2つに分けて、ネルソンの率いるAチームが将軍に馬で帯同し、

スペンサーの率いるBチームは残留することになります。

「騎馬隊」というから、優秀な騎手を想像していたら、彼らのほとんどが乗馬未経験者。

そんな彼らが、険しい山岳地帯を馬で駆け抜けることになるのです!

 

一応私が理解できた範囲で書きますけど、

地上戦では将軍に従い、空はアメリカが制しているので、

敵を見つけたら無線で報告すると、爆撃機がやってきて、空爆して「敵を排除する」という具合。

ただ、最初のうちは誤爆ばかりで、より正確な座標軸を報告するために、

敵に接近しようとすると、将軍に制止されます。

 

「私の部下が500人死ぬより、君たちがかすり傷を負うことのほうが痛手だ」

「君たちがちょっとでもケガすると、米軍の軍事支援が受けられなくなるから」

 

ネルソンのチームは全員志願兵で、覚悟もできており、(タリバンの捕虜の扱いを考えると)

「降伏、投降はありえない」と考えているのですが、それでも随所で

「アメリカ人と現地人の命の重みの違い」を感じました。

 

ある時、空爆が収まったあとで、いきなり敵側から戦車があらわれ、

燃料切れで航空支援も受けられないなかで、戦車vs馬で戦うことになってしまいます。

「敵の補給線をしっているなら教えてほしかった」

「情報は共有しておかないとタリバンには勝てない」

というネルソンに将軍はひとこと

「知る勇気はあるのか?」と。

「君たちは兵士ではなく、死を恐れない戦士になれ」と逆にいわれてしまいます。

 

本当に「神に守られている」としか思えない程、最前線で共に戦って常に無傷の将軍なんですが

同じく(実践に参加したこともないくせに)常に先頭にたって危険なこともいとわないネルソンにたいして

だんだん心を開いて本音を話してくれるようになるんですね。

 

「アメリカ人は今生きている世界がすでに豊かだが

ラザンの部下やタリバンは、死後の世界で豊かになれると信じているから、

死ぬことを全くおそれていないんだ」

「今の攻撃で私の名づけ子が殺されて、私の心はズタズタだ」・・・・・とも。

 

ネルソンたちの動きは、常に本部の報告は必要ですが、

通信が必ずしもうまくいくとは限らず、情報が途切れることも。

そうすると、

「彼らは、いつケツをあげてマザーリにいくんだ?」

なんていうラムズフェルドの言葉が知らされたりして、ショック!

悪口だけならいいんですが、

なんと、アメリカはドスタム将軍のライバルである、

タジク系の軍閥のアタ将軍の支援にまわってしまうのです!

アタに先をこされては、ドスタム将軍の立場は?

やっと少しずつ信頼関係を築き上げてきたネルソンにとっても、大きな痛手です。

さて、ネルソンは外交手腕を発揮して、将軍を説得できるのか???

・・・っていうような話です。

 

とにかく、上映時間の8割くらいが戦闘シーンなんですよ。

ロケット砲の飛び交う中を馬で突き進む・・・みたいな。

西部劇と言うか、ラストサムライというか。

「12人は(重傷を負ったものもいたが)

とにかくネルソンは部下たちをひとりも死なさずに故郷に帰した」

というのを知っていたから、逆にリアリティーがなかったような・・・・

2Dでしたが、かなりの迫力で、ここまで延々とやらなくてもいいような気がちょっとしました。

 

ODA595と呼ばれた彼らのチームの任務は極秘だったため、長らく明らかにされませんでしたが

この小説が出たり、ドスタム将軍がアフガニスタンの副大統領になったことで世間にしれますが

これでやっと、グランドゼロの騎馬像の意味をみんなが知ることになったそうです。

 

中東でのアメリカの空爆って、「アイ・イン・ザ・スカイ」にあったように

自分の身はなにも危険にさらさずに、ただボタンを押すだけ・・・というイメージだったんですが、

こんなに接近して危険な任務にあたっていた特殊部隊の兵士たちがいたことは、大きな驚きです。

 

ただ、

「12人で5万人の敵に立ち向かった現代の騎馬隊」みたいなキャッチコピーは、

大げさでちょっとどうかな、と思います。

キャッチコピーはそんなものでしょうけど、これに惹かれて見に来る人に見てほしい作品ではありません。

 

実際は(ネルソン以外の)乗馬未経験者たちが、そこまで馬には乗らなかった気もして、

タイトル自体にも違和感ありますが、原題は「12storong」なんですよね。

それならそれで、12人の隊員たちがもっと掘り下げられていいような気もしますが、

ほとんどネルソンとスペンサーだけ。

それでも少しは覚えているエピソードをメモしておきます。

 

黒人兵のマイロは、片時も自分から離れないナジーフという少年にずっと付きまとわれていて

ほとほと困っていたんですが、

実はナジーフはマイロを危険から守るボディーガードをするように命じられており、

その「任務」を遂行していた、ということが後でわかります。

 

誰のセリフか忘れたのですが

「殺すことには慣れるが、自分が何も感じなくなることが時々怖くなる」

「弱いから悩むと今までは思っていたが、それは自分が人間だという証拠だ」

 

補給品がヘリで運ばれ投下されますが、

半分くらいは地元民に盗まれ、市場で高値で売られているのを、

若干値切って買い戻す、というおかしな経済が成り立っています。

たしか、「15時17分発パリ行き」でも、補給品を盗まれる話が出てきてましたが、

この辺は現実のあるあるなんでしょうね。

 

そうそう、書き忘れましたが、ドスタム将軍は、実は英語がぺらぺらで、

このおかげで彼らと意思疎通ができたわけですが、

当初、「相手の言葉がわからないふりをする」というのは、

信頼していいのかわからない相手には有効ですね。

結局、将軍は、ネルソンを信頼して英語を使うようになったのですが、

もし共通言語がなかったら、どうやって任務が行えるというのでしょうか?

 

「特殊部隊」というわりには、言葉はできないし、馬にも乗れないし、

結局彼らは「捨て駒の志願兵」って扱いだったんですかね。

寒冷地用の装備すら持たせてもらえないなんて、ほんとに気の毒です。

 

銃撃戦ばかりで、ストーリーがあんまり頭に入ってこないのが難点ですが、

ともかく最後まで見終わったあとの爽快感は格別ではあります。

最近悪役しかやらせてもらっていないマイケル・シャノンが今回はいい人だったのも嬉しい。

「同時テロ直後にタリバン制圧に一番乗りした勇敢な12人」の話。

少なくとも、これは、知るべき事実ではあると思います。