映画「君の名前で僕を呼んで」 平成30年4月公開予定 ★★★★★

原作本「Call Me by Your Name」 Andre Aciman(邦訳 4月発売予定)

(英語・イタリア語 字幕翻訳 松浦美奈)

 

 

 

1983年夏、北イタリアの避暑地で家族と過ごす17歳のエリオ(ティモシー・シャラメ)は、

大学教授の父が招待した年上の大学院生オリヴァー(アーミー・ハマー)と出会う。

一緒に自転車で散策したり泳いだり、読書したり音楽を聴いたりするうちに、

エリオはオリヴァーに恋心を抱く。

やがてその思いは通じるが、夏の終わりが近づくにつれてオリヴァーが避暑地を去る日が近くなり……。

                                                      (シネマ・トゥデイ)

 

避暑地のヴィラにやってきた父のインターンの大学院生と、17歳の息子が同性でありながら恋に落ちる・・・

「甘酸っぱいひと夏の思い出」的な、まあ、よくあるドラマなんですが、何でこんなに心を動かされるのか?

北イタリアにいったこともないし、17歳の少年だった経験もない私でさえ、

17歳のエリオの気持ちとひとつになることができました。

 

カテゴリー的にはLGBT、というか、「ゲイの映画」なんですが、もっと普遍的な

「人を好きになる気持ち」「一緒にいたい気持ち」「無視された時の孤独感」「秘密を共有するドキドキ感」

そして、「心の片隅で自分を苦しめる罪悪感」・・・・

エリオの揺れる心が、愛おしくみずみずしく伝わってきて、

彼を演じた新星ティモシー・シャラメの主演賞ノミネートも納得です。

 

アカデミー賞発表当日、最速試写会に参加。

上映後にはサプライズでトークショーもありました。

プレスシートもいただきました!

 

 

映画評論家の松崎健夫さんと映画解説者の中井圭さんのトークショーでは

気づかなかった映像の解釈とか専門家ならではの情報とか、とても参考になったんですが、

感動的なエンドロールの余韻をもうちょっと味わいたかったかな、というのが本音でした。

 

なので、私のブログなんて読まずに、なんの先入観もなしに観て

エリオとひと夏の経験をしてほしいところですが、

一応これは自分のための忘備録で書いているので、以下、ネタバレ満載です。m(__)m

 

 

LGBT映画では、周囲の冷たい視線や差別と闘う主人公を描くのがメインになっていることが多く、

主人公の少年は気の毒な境遇だったり、暗い過去のトラウマをしょってたりすること多いんですが、

本作の主人公エリオはその限りにあらず。

環境に恵まれた才能豊かな少年で、両親始め、周囲の反応に傷つくこともありません。

 

エリオの父は美術史学の大学教授、母アネラは翻訳家。

夏を過ごす北イタリアの広いヴィラにはメイドや庭師もいて、かなりのセレブファミリーです。

といっても、気どった家ではなく、国籍を問わずいろんな客がやってきては、いろんな言語が飛び交い、

ユーモアにあふれたアカデミックな会話が交わされます。

 

両親はエリオに勉強を押し付けるのではなく、自然に親しめる環境のなかで、人との触れ合いの中から

高い教養を得て欲しいと願っていて、エリオはこの北イタリアでの休暇中に、

たくさんの読書をし、音楽を聴き、ピアノやギターを弾いたり作曲したりしています。

「バッハの曲をリスト風に即興でアレンジして弾く」とか、編曲の才能もすばらしい。

 

昼は川や自宅のプールで泳ぎ、庭でバレーボールしたり、たまに夜遊びをして羽目をはずしたり、

近所に住むマルシアという可愛いフランス人のガールフレンドもいたりで、

これは半端ない「リア充」少年ですよ。

見た目はちょっと自信なさげの華奢な草食男子なんですけどね。

 

ある日、家にアメリカ人の大学院生オリバーがやってきます。

彼は父の研究を手伝うインターンで、エリオは彼のために自分の部屋を明け渡す羽目に。

オリバーは190㎝越えの堂々としたアメリカ人のハンサムガイ。

到着してすぐにエリオのベッドで爆睡し、ウェルカムディナーもパスするといいます。

アプリコットの語源論争では父をやりこめ、彼の「文献学」はみんながひくレベル。

エリオが自転車で街中を案内してあげると、翌日にはもう

イタリア語しか話せない地元のおじさんたちと親しくなって常連客みたいにカードをやっているのをみて

エリオはびっくりします。

 

「何て横柄で自信家なんだ!」

「アメリカ人め!」

エリオはオリバーの口癖「Later(あとで)」も気に入りません。

 

「これから6週間もいるなんて!(イヤだな)」ともらしつつ、

自分のことが好きだとわかってるマルシアと一線を越えそうになったり、

オリバーには(彼のことが大好きな)キアラの身体をほめて、付き合うように仕向けたりするのですが、

自分の気持ちの正直に向き合うと、

やっぱり一番気になっているのはオリバーのこと。

 

ある夜、母が中世のフランスの物語を読んでくれます。

王女に恋をした騎士が自分に二者択一を迫る話です。

「告白するべきか?それとも命を絶つべきか?」

 

そして次の日、勇気をもってオリバーに告白をすると、

なんと彼もまた同じ気持ちだったことを知ります。

「幸い僕らはまだ恥じることはなにもしていない」

「自制しよう」

 

といいつつも、性の衝動はおさえきれず、

勘のいいメイドのマファッダに気付かれるんじゃないかとヒヤヒヤの日々。

オリバーの帰国が近くなったある日、父がなんと、オリバーとエリオふたりの小旅行を提案してくれます。

 

夢のようなひとときはあっという間に過ぎ、オリバーを見送り、

泣きながら母の車で帰宅したエリオに語られた、父の言葉がスゴイ!のです。

 

「彼は旅を楽しみ、お前とも友情を築き、特別な絆で結ばれた」

「二人ともお互いの中に優れていることを見いだせた」

「お前は確かな何かを感じた、美しい友情以上のものを感じた」

「息子が冷静になることを祈る親が多いが、私はちがう」

「感情を無視するのはおかしい」

「お前たちが得た経験を、私は昔、自分の気持ちを抑えて、逃してしまった」

「心も体も一度しか手に入れられない」

「今はひたすら悲しくつらいだろうが、

痛みを葬るな!感じた喜びも忘れるな!」

 

そしてこのあと

「ママは知っているの?」

「しらないだろう」

 

ということばが続くのですが、いやいや、母は知ってると私は直感しました。

一番最初に「オリバーはあなたのことが好きだといってたわ」といってたのは母だし、

あのタイミングで小説を読み聞かせたのも母。

 

私は年齢的に近い母の気持ちを、いつも一番に探ってしまうのですが、

ふたりの関係に夫があれだけ肯定的だったら、むしろ(息子に嫌われたとしても)

私だったら、敢えて反対側に立つと思うけどな。

あそこまで「知らないふりをして見守る」態度は貫けないと思います。

ここまで自分の子どもを信じてあげられるのは、勇気のいることです。

 

その年の12月、突然オリバーから電話があり、婚約したことが告げられます。

おめでたい報告に喜ぶ家族たち。

 

このあとのエンドロールにかけての、エリオ(というか、ティモシー・シャラメ)の表情だけを

何と3分半もアップで獲り続ける、超ロングショットの映像は、映画史にのこりそうな感動的なショットです。

背後にはクリスマス準備をするマファッダたちが忙しく立ち働いているのがぼんやり映っていて

そのなかで、ひっそりと涙を流すエリオ。

「今の感情を無視するのはもったいない」といった父のことばが蘇ってきます。

すぐに割り切って次に進むのではなく、

ちゃんと今自分の感じたことにしっかり向き合わないといけないと・・・

 

エンドロールが終わって、ホールに明かりがともっても

「さ、映画終わったから、どこで食事しよう」とか

「スマホのメールチェックしなくちゃ」なんて気持ちにはとうていなりえませんね。

1時間くらい呆然と余韻に浸っていたいような作品でした。

 

言い忘れましたが、この映画、音楽も素晴らしい。

突然動きを止めたり、不安定な不協和音とかが、エリオの心を表現していて、

脚本に書かれたセリフとか、目に見える動き以外にも、音楽が雄弁に語っていた気がしました。

舞台は80年代なので、その時代のヒット曲も。

私がわかったのは、ディスコのチークタイムのときにかかっていた、

「フラッシュダンス」で使われていた「レディレディ」くらいでしたが。

クラシック音楽も使われていました。

エリオがピアノで弾いたのはバッハとかサティとか?

「目覚めよ、と呼ぶ声あり」は有名なのですぐにわかりましたが。

トークショーの情報によれば、坂本龍一の楽曲もどこかにつかわれていたそうです。

 

ところで、最後に下世話なことをいいますが、これは「ゲイ映画」といわれますけど、

正確には「バイセクシャル」ですよね(オリバーは女性と結婚するし、エリオもマルシアと初体験するし。)

LGBTの4つの中では「バイ」は「トランスジェンダー」なんかに比べたら、

深刻度は低いようにおもってしまうんですが、そんなことないのかな?

 

映画の中では象徴的に、二人が手や足を重ね合わせるシーンが多かったですが、

「ふたりがシンクロして、自分か他人か分からなくなるくらい同一化していく」ってことなんでしょうか。

「君の名前で僕を呼んで(Call me by your Name)」というタイトルもそれを示唆しています。

 

それに対して、男女の愛って、ジグソーパズルがハマるように(卑猥な意味ではありません)

お互いが抜け落ちたところを補完しあうような関係、っていえるかも。

 

男女であっても、結婚して30年もたつと、ウチなんかは、かなりシンクロ度合が高くなって、

「同一化」の傾向にあります。

これはいいことなんだか・・・・??

 

激しく脱線しましたが、とにかくおススメの一作

今は、4月に邦訳が出るという噂の原作を早く手に取りたいです。