映画「あゝ荒野(前篇)」平成29年10月7日公開  ★★★★☆

映画「あゝ荒野(後篇)」平成29年10月21日公開 ★★★☆☆

原作本「あゝ荒野」 寺山修司 角川文庫

 

 

 

(前篇)

2021年。少年院に入っていたことのある沢村新次(菅田将暉)は、

昔の仲間でボクサーの山本裕二(山田裕貴)を恨んでいた。

一方、吃音(きつおん)と赤面症に悩む二木建二(ヤン・イクチュン)は、

あるとき新次と共に片目こと堀口(ユースケ・サンタマリア)からボクシングジムに誘われる。

彼らは、それぞれの思いを胸にトレーニングに励み……。

 

(後篇)

プロデビュー戦を終えた後、トレーニングに打ち込む沢村新次(菅田将暉)と二木建二(ヤン・イクチュン)。

因縁のある山本裕二(山田裕貴)との試合が決まって一層トレーニングに励む新次は、

建二が自分の父親の死に関わっていたことを知る。

一方の建二は図書館で出会った君塚京子(木村多江)に心惹(ひ)かれるが、孤独を消せずにいた。

そんな自分を変えようと、彼は兄弟のような絆で結ばれてきた新次と決別することを心に誓う。(シネマ・トゥデイ)

 

 

原作は50年前の寺山修司の唯一の長編小説(未読)です。

前後編合わせて5時間越えのため、劇場鑑賞は見送っていたんですが、

先日「報知映画賞」でメジャータイトル制覇したのを知り、DVDを一気見しました。(DVDになるの早っ!)

 

2021年の設定、っていうことは、ずいぶん原作とはかけ離れた展開になりそうですが、

読んでないからわかりません・・・・

 

1965年も2021年も、前の年に東京オリンピックが開かれた

そして、

1965年は広島・長崎の原爆投下から20年

2021年は原発事故から10年の節目の年・・・・

 

このあたりが共通していますが、2021年だったら新宿の街はもっと整然としてそうだし、

登場人物の名前を変えてないから、思いっきり昭和テイストです。

ただ、「オレオレ詐欺」とか「社会奉仕プログラム」とか「原発問題」とか「高齢者施設の乱立」とか、

50年前には考えられないようなアイテムがいろいろ出てきています。

 

父が自殺して母にも捨てられ、犯罪に手を染めて少年院に入れられていた新宿新次と

父からの永年のDVを受けた挙句に、吃音で会話もままならないバリカン健二。

不遇な家庭に育った二人の青年が、不穏な社会の中で、ボクシングに打ち込むことで

人や社会と繋がっていこうとするんですが、

二人を捨てた親たちも不思議な因縁で結ばれていた・・・という、複雑そうにみえて明解な話です。

 

 

 

 

前篇は、とにかく話の展開が早くて、2時間半があっという間で、後篇に期待したんですが、

後篇はリングで殴り合うシーンが延々続き、「あしたのジョー」の実写版みたいでした。

ノーガード戦法とか、「立て!立つんだ!」と叫ぶところとか、

コーチが「片目」って、丹下段平じゃないですか!

 

殴り合いを見るだけで満足、と言う人にはいいですが、

普通に映画を楽しみたい人には、パンチの数が増えるほど、気持ちがひいてしまいます。

ベッドシーンも必要以上に多くて、なにも、そこまでやらなくても…と思ってしまいます。

 

汚れ役も裸もいとわない・・・そんな感じのキャストが勢ぞろいしているから、

相乗効果で、当初よりもエスカレートしちゃいました・・・って感じですかね。

 

報知映画賞では本作が作品賞、そして、菅田将暉が主演男優賞を受賞しています。

彼は今年公開の映画だけでも「キセキ」「帝一の國」「あゝ荒野」「火花」と主演を務め、

テレビドラマでも大活躍。

ボクシングのほかにも、歌を歌ったり、漫才をしたり、ピアノを弾いたり、ホントに頑張りました。

ただ、どんな役をやっても、「熱血でしばしば狂気をはらむ」菅田将暉そのもので、

俳優としてはどうなんでしょ?

役の方を自分に寄せてOKなのもまたその人の力量なのかもしれませんが。

 

これだけ活躍していれば、主演男優賞に文句はないですが、すくなくともこの作品に関しては

バリカン健二役のヤン・イクチュンにはとうてい及びません。

酷いことを書いてる割にたくさん★をつけたのは、ひたすら彼の演技に酔いしれていたからです。

名作「息もできない」の監督・脚本・主演で知られる彼は、役柄によって容姿から佇まいから

すべてを合わせてくるカメレオン俳優で、本作のおどおどキャラにも萌えてしまいました。

申し訳ないけど、私にとって本作は「ヤン・イクチュンを堪能する作品」以外の何物でもありません。

 

日本公開は決まっていないけれど、次回作は「詩人の恋」。今度は売れない詩人だそうです。

 

 

楽しみ!!