映画「婚約者の友人」 平成29年10月21日公開 ★★★☆☆

(ドイツ語 フランス語 字幕翻訳 丸山垂穂)

 

 

 

1919年のドイツ。

婚約者のフランツが戦死し悲しみに暮れるアンナは、フランツの墓に花を手向けて泣いているアドリアンと出会う。

フランツと戦前のパリで友情を育んだと語る彼に、アンナとフランツの両親は次第に心を開いていく。

やがてアンナがアドリアンに婚約者の友人以上の感情を抱いたとき、彼は自らの秘密を明かし……。(シネマ・トゥデイ)

 

 

連日の初日鑑賞。

 

ドイツが舞台のモノクロ映画ときいて、ハネケ作品みたいな怖くて後味わるい映画を想像していたら、違っていました。

オゾン監督だったから、娯楽性もあって万人向きでしたね。

 

タイトルからは、三角関係を連想しますが、そういうわけではない。

ハンブルグに住むアンナは婚約者フランツを戦争で失い、

身寄りのない彼女は、診療所を営むフランツの両親とひっそり暮らしていたのでした。

ある日、彼の墓参りに行くと、墓には花が手向けられ、翌日、墓の前で泣いているフランス青年をみつけます。

彼こそが「婚約者の友」、アドリアン・リヴォアールです。

 

1919年といえば、第一次大戦後のパリ講和会議の年。

ドイツは国土はほぼ無事でしたが、ドイツは敗戦国。

息子を失った親たちの敵国フランスを恨む気持ちは強く、フランツの父ハンスもそのひとりでした。

アドリアンがフランス人というだけで、ハンスは訪ねてきたアドリアンを門前払いします。

 

フランツは戦争前、パリに留学していたこともあるフランス好きで、アンナもフランス語は堪能。

アンナも母マグダも、アドリアンは留学中の友人だったと思い込み、パリ時代の想い出を聞き出そうとします。

一緒にルーブル美術館に行ったり、バイオリンを弾いたり、楽しい思い出話のシーンはちょっとだけカラーになります。

「今夜はまるでフランツが家に帰って来たみたいだ」

父のハンスも次第にうちとけ、哀しみ沈んでいた家族は、ひとときの幸せに浸ります。

 

その頃、ハンスの診療所に治療にやってくるクロイツという男はアンナと結婚したいとハンスに申し出ていました。

ハンスも、いつまでもアンナをこの家にしばりつけておくのもいけないと、賛成はしたものの、

アンナにその気はまったくなく、すげなく断られます。

 

クロイツは年齢不詳ですが、オッサン臭がすごくて、頭剥げてるし、

いくら若い男が戦死して人数が少ないとしても、ちょっと勘弁・・・ってレベル。

舞踏会に誘っても「そんな気になれない」といわれたのに、

ちゃっかりおめかしして、アドリアンと一緒に踊りにきたアンナを見つけて、クロイツは腹を立てます。

 

アドリアンは連日アンナの家を訪れ、パリ管弦楽団のバイオリニストの彼のバイオリンに合わせてアンナがピアノで伴奏したり、

フランツの大好きだったヴェルレーヌの詩を暗唱したり、それはそれは楽しい時間をすごします。

みんな知ってるあの有名な詩。訳が違ってましたが、上田敏のが一番知られていますね。

 

     秋の日の   

     ヴィオロンの  

     ためいきの 

     身にしみて 

     ひたぶるに 

     うら悲し・・・・・・

 

両親に聞かれたくない話はフランス語でできるので、これも便利!

 

ところが、アドリアンにはアンナたちには言っていなかった大きな秘密があって・・・・

という流れで、あっと驚く真実がわかるのですが、

(予備知識なくて観た私でも)あんまり驚かなかったなぁ。

それでも一応「ミステリー色」を強調しているので、以下はネタバレということで・・・・

 

 

アドリアンは自分からは「フランツの友人だ」とは言っておらず、アンナとの話もかみ合わないことが多く

なんで誰もおかしいと思わないのか、実はずっといらいらしながら見ていました。

オレオレ詐欺にあったら、一発で騙されるタイプですよ。

 

それはともかく、フランツのことを良く知らないアドリアンがなぜ彼の墓や彼の家を訪ねてきたのか?

①何か思惑があって騙そうとしてる?

②フランツは実は生きていて(彼に頼まれ)家族の情報を探りに来た?

とか、いろいろ考えてみましたが、彼の涙は本物っぽかったので

③瀕死のフランツに出会って、(敵兵とは気づかれずに)婚約者への伝言か遺品を託された?

④もしかしたら、殺したのがアドリアンだとか?

 

と(かなり最初の段階で)推測していたんですが、まあ、実際もこんな感じでした。

 

戦争だから殺し合うのは当然のことで、殺さなきゃ自分が殺されるから、許しを請う必要はないと思うんですが、

繊細なアドリアンはどうしても気がとがめたのかな?

そしてアンナには告白したのですが、両親にも話すという彼に「それは自分から伝える」と。

それを聞いて、アドリアンは安心してフランスに帰っていきます。

 

でも、そんなこと、両親に言える訳ないじゃないですか?

アドリアンの抱えていた苦しみは、そっくりアンナに移ってしまったわけです。

 

 

「夫の戦死の通知が来てもずっとひとりで頑張っていた妻が、再婚した途端に、夫が帰ってきた」とか、

誰ひとり悪い人はいないのに起こる悲劇では、(ここまでベタではないですが)

散々引っ張った割にはフツーの話というか、5分で終わるショートショートのレベルだと思ったんですが、

話はこれだけではありません。

 

ここから後半戦突入!

 

絶望したアンナは入水自殺を試み、罪を懺悔し、もうハゲのクロイツをと結婚して家を出るしかないと思っていた頃、

アドリアンからアンナあてに手紙が届きます。

フランス語だから両親は読めないですが、秘密がバレやしないかと、アンナは気が気じゃありません。

 

やっと書いたアンナの返事はあて先不明で戻ってきてしまいます。

「アドリアンが心配ね。探しにいかなくちゃ」

心配した両親は、アンナをパリに旅立たせます。

 

新婚旅行に行こうと思っていたパリ。

フランツが大好きだった街ですが、実際に訪れると、戦争で荒れ果てた建物や負傷した人であふれ、

ラ・マルセイエーズの歌が響き渡り、ドイツ人のアンナはいたたれません。

アドリアンが話していたマネの「若者があおむけになってる絵」というのは「自殺」というタイトルでした。

これもショック!

 

関連画像

 

前の住所には手がかりがなく、パリ管弦団のステージにも彼はいません。

A.リヴォアールをいう人物を病院のリストに発見するも、連絡先が墓地になっていて、またショック!

でもその人物は彼の親戚で、ついにそこからようやくアドリアンの居場所をつきとめるのです。

ところが、彼には幼なじみで親がすすめるマギーという婚約者がいて・・・・

 

「ああ勘違い ハンブルグ・パート」の第1部と、「人探し パリ・パート」の第2部の二本立て。

ストーリーは分かりやすく、すべてセリフで進むから、あんまり画面を見る必要ないくらいです。

アンナを池から救ってくれた人やアンナの懺悔を聞いた神父とか、1回しか登場しないのはもったいない。

あと、クロイツがもっといろいろやらかしてくれたら、もうひとひねり出来たような気がしますが・・・・

 

オゾン作品にはちょっと訳ありふうな人たちが登場する、軽めのミステリー調のモノが多いですが

本作も心をゆさぶられるほどの場面はなかったなぁ・・・・

あえて言えば、フランス人を憎むことで息子の死を乗り越えようとしていた父ハンスが、

「入隊して祖国のために戦えといって送り出したのは私たちだ。

敵国の若者たちも、同じようにそうやって送り出されただけ。恨むのはやめよう」

と仲間をいさめるのはちょといいシーンでした。

 

主役のふたりは美男美女。文学や絵画、音楽とアート要素も満載です。

ショパンのノクターン20番とか、ドビュッシーの美しい調べ・・・

ただ、演奏の方はちょっとポンコツでがっかり。

 

 

シネスイッチで初日に観ると、なんかもらえる確率が結構高いのですが、

今回はなぜか養命酒が出している美容ドリンクをいただきました。

映画とどんな関係があるのかわからず。 でも美味しくいただきました。