映画「幼な子われらに生まれ」 平成29年8月26日公開 ★★★☆☆

原作本「幼な子われらに生まれ」重松清 幻冬舎文庫

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再婚した中年サラリーマンの信(浅野忠信)は、2人目の妻・奈苗(田中麗奈)とその子供たちと、

平凡でも幸せな家庭を築こうと努力していた。

だが、奈苗の妊娠をきっかけに実の父親に会いたいと言いだした長女が反抗的な態度を取り始め、

父親としての信の存在を否定する。

長女を実の父親の沢田(宮藤官九郎)に会わせる信だったが、現在の家族に息苦しさを感じ……。(シネマ・トゥデイ)

 

 

ずいぶん前に観たのですが、原作をもう一度読んでから…と思っているうちに、ほったらかしになってしまいました。

映画の方をすでに忘れかけているので、思いつくことだけメモしておくことにします。

 

ひとことで言えば、「ステップファミリー」子連れ再婚の話です。

ドラマではよく「設定」として、再婚した夫婦のどちらかか両方に子どもがいたりすることは多いですが、

本作は、ひたすら、子連れで結婚したあとに(それが原因で)起こりうるあれこれを、

ドキュメンタリーみたいに生々しく描いています。

 

冒頭のシーンは、遊園地で楽し気に遊ぶ父、マコト(浅野忠信)と小6の娘、サオリの姿。

この二人は実の親子ですが、母のユカ(寺島しのぶ)とは離婚していて、今日は3か月に一度の面会日だったのです。

 

マコトは4年前に、再婚同士で子連れのナナエ(田中麗奈)と結婚し、彼女の二人の娘、カオリとエリコと暮らしています。

家に帰ると、エリコが赤ちゃんの絵を描いていて、妻が自分との子どもを妊娠していることをはじめて聞かされます。

自分に何の報告もないまま、先に子どもに話したことに動揺しますが、

それ以上に長女のカオリはショックを受けていて、マコトに対してあからさまに反抗的な態度をとってきます。

小6のカオリにしてみれば、次に生まれてくるのはマコトと血のつながった子どもだということ、

それに、同じ年のサオリと会って嬉しそうにしているマコトが許せなかったのでしょう。

 

マコトは有給をしっかり使い切り、休日出勤も断り、

会社帰りに毎日ケーキを買って帰るようなマイホームパパなんですが、

不景気になってくるとそういう人からリストラ対象になってしまい、本社勤務から倉庫への出向を命じられます。

それは注文データをみながら商品をピックアップしていく作業で、

当然、プロパーの作業員並みの仕事量はとうていこなせません。

「出向組はもっと頑張れ」とプレッシャーをかけられ、いつクビになるのか・・・ここでも針のむしろです。

 

「この先どうなるかわからないこの状態で、俺の子どもなんて欲しい?」

とブチ切れるマコトにナナエはおろおろするばかり。

 

元妻のユカは大学教授と再婚していたのですが、その夫が末期がんで余命いくばくもなく、

父との時間を大事にさせたいから、サオリとはしばらく会わないで・・・と連絡がはいります。

ユカはもともと上昇志向の高い女性で、マコトと結婚していたとき、

仕事が続けられなくなると、自分の判断で中絶したことがあります。

そのときの苦しんだ自分の気持ちをわかろうとせず

「あなたはいつも理由は聞くけど、気持ちは聞かないのね」というユカ。

 

マコトは二度目の結婚では、家庭的な女性を選んだ結果、

自分ひとりでは決められない「ぶら下がり系」のナナエと結婚。

物静かで優しい女性で、マコトに反抗的なカオリを制御することもできず、

カオリの態度は日増しにひどくなっていきます。

「関係ない人が家にいる」

「お父さん面して命令する権利とかあるの?」

「私の本当のお父さんに会いたい。(あんただっていつも会ってるでしょ?)」

 

カオリとエリコの実の父、ナナエの元夫の沢田(宮藤官九郎)は、クズのDV亭主で、それが原因で分かれたのです。

カオリも殴られて歯が折れたりもしてるのに、それでも「本当のパパに会いたい」という。

 

マコトは沢田の勤務先を突き止め、カオリに会ってくれるよう頼むのですが、つれない返事。

「ナナエはすがってくるでしょ?それがうるさくて鬱陶しくて別れた」と妻への不満まで聞かされます。

こんな男には会わせたくないと思うマコトでしたが、カオリはあんまり強情なので、再度沢田を訪れると

しぶしぶ了承されますが、会う代償で、10万円を要求されます。

 

翌日、家のそばに実の娘のサオリの姿が。

「新しい父が死にそうなのに、どうしても泣けない」と苦しんでいます。

そのとき父の危篤の知らせが入り、病院まで車で送ることになりますが、

たまたまナナエとエリコと出会ってしまい、気まずい思いをして、

さらに、マコトの子どもが生まれることも知ってしまいます。

 

そして、カオリが沢田とあう日曜日。

待ち合わせ場所にカオリは現れず・・・・・・・

 

と、こんな感じの話です。

原作が書かれたのは約20年前ですが、映画では現代の設定。

「倉庫のピッキング作業」とかはいかにも「今」ですが、ストーリーには大きな変更はありません。

「なさぬ仲」の親子関係は、20年くらいでは変わらないのでしょうか。

 

私は身近に子連れ再婚した人がいないので、ドキュメンタリーとか芸能人の話からしか想像できないんですが、

「みんな集まってにぎやかにパーティーをしたりしてます」とかいうでしょ?

でもそういうのも、心から打ち解けているわけじゃなくて、気まずいことがいろいろありそうな気がします。

 

ステップファミリーは、再婚する夫婦の間では、それぞれにWINWINだと思うんですよ。

ナナエは暴力夫から逃れて、子どもにけっして手をあげないちゃんとしたサラリーマンと結婚して生活も安定したし、

マコトにとっても、自分を頼ってくれるナナエは、「守ってあげたい存在」で、当初はきっと幸せだったんだと思う。

最初の結婚の失敗に学んで、よりよい結婚相手を選んだはずが、年月がたつうちに、だんだんそうとも言えなくなってくる。

 

可哀そうなのは子どものほうで、自分はなんにも選択できず、運命にながされるだけ。

死別ならともかく、親の都合で振り回されるのは、気の毒です。

言葉をつくして説明し、実の子ども以上に愛情深く育てなくてはね。

 

沢田は、どこからどうみてもクズで、非常に分かりやすいんですが、

じゃあマコトはどうなのか?

これはきっと男女で受け止め方はずいぶん違う気がします。

 

公私ともにストレスをかかえて、キレそうになるのをギリギリこらえているマコトに

男性はきっと共感するかもしれませんが

私の目から見たら、マコトもまた、「ちょっと見、わかりづらいクズ」だと思います。

 

地に足がついていなくて、フラフラ浮遊しているような彼にはずっとイライラしていました。

現実に向かい合わずに、すぐ逃げるんですよね。

ちょっと嫌なことがあると、タバコ吸ったり、ビールを飲んだり、一人カラオケにいったり・・・・

(原作本では、風俗行って赤ちゃんプレイにハマっていましたが、

映画ではヒトカラに変更になってて、ちょっとホッとしました)

 

きっと自分でも気づかないうちに

「とりあえず逃げる」というのが沁みついてるんでしょうね。

 

ただ、「いつも理由ばかり聞いて気持ちが聞かない」といわれていたマコトが、

せっかく大金払って設定した沢田との待ち合わせをすっぽかしたカオリに対して

「怒って理由を問いただす」のではなく、行かなかった気持ちを受け止めようとしたのは

「偉い!!」と思いました。

 

なんとなくプチハッピーなエンディングには安心しましたけど、

リストラ問題は解決してないし、このあともいろいろ紆余曲折ありそう・・・

 

 

映像的に一番気になったがこの「斜行エレベーター」

最寄駅と高台のマンションを繋いでいるんですが、こんなの見たことないと思ったら

兵庫県の西宮名塩駅でロケしたそうです。

 

倉庫のピッキング作業もですが、機械に制御された無機質な空間と

家庭内のドロドロした人間の営みとを対比させる意図だったんでしょうか。

 

本作は、モントリオール世界映画祭のコンペティション部門で審査員特別賞グランプリ受賞というわりには

それほど話題になってない気もしますが、

浅野忠信のつかみどころのない演技で、人によって感想も違いそうだし、2度3度と見てみたい作品です。

幼いエリコ役の子役が場数踏んでる達者な演技だったのにたいして、

一番演技力の必要なカオリ役の子がド素人だった気がします。

子役に文句つけたくないけど、この役が良かったら、さらに評価が上がったんじゃないかと思います。