映画「ショコラ~君がいて、僕がいる~」平成29年1月公開 ★★★★☆
原作本「ショコラ 歴史から消し去られたある黒人芸人の数奇な生涯」ジェラール・ノワリエル 集英社
19世紀末のフランス。
サーカス団員のカナンガ(オマール・シー)は、落ち目の芸人フティット(ジェームズ・ティエレ)に誘われてコンビを組み、
ショコラという芸名で活動を開始。
瞬く間に人気が出たが、ある日、不法滞在の罪で収監され、拷問を受ける。
釈放後、ショコラはますます酒やギャンブルに溺れ、フティットとの溝も深まっていき……。(シネマ・トゥデイ)
19世紀末のパリに当代一の黒人の人気芸人がいた!
フランスの歴史学者が発掘した忘れ去られた黒人道化師のショコラについて書かれた原作本はこんなに厚いのです。
写真も地図もほどんどなくて571ぺージぎっしり文字なので、さすがにこれは降参で、
まずは先に映画をみることにしました。
ショコラを演じるのはオマール・シー。
彼の主演で大ヒットした「最強のふたり」のスタッフが作った作品なので、埋もれた歴史をひも解くというよりは
コンビの白人芸人フティットとの絆がメインの「道化師版最強のふたり」って感じでした。
1897年、田舎のサーカス団のデルヴォー一座で、チンパンジーを連れて野蛮な人食い族のキャラで
なまはげ的に観客を怖がらせては会場を盛り上げていた「黒んぼカナンガ」。
落ち目の白人道化師フティットは、彼を相方にしてコンビで道化をやろうと提案します。
フティットはかつては大人気で芸の熟練度も高いんですけど、デブやノッポやへび女や、
強烈な奇想天外なビジュアルが受ける世の中になってしまい、鳴かず飛ばずになってしまいました。
カナンガ改めショコラと組んだ「白い道化と愚かな道化、フティット&ショコラ」は最初から大うけ!
ケチなデルヴォー夫妻とギャラで揉めて、一座を飛び出し、パリのヌーヴォシルク大劇場で公演するようになっても
1500人の大観衆は拍手喝采で、この奇妙な道化のドタバタ芸は老若男女問わず大人気となります。
「二人の芸を10年後もみられるように」と、あのリュミエール兄弟がフィルムに残しているんですね。
(これは本物がエンドロールで流れます)
それくらい時代の寵児となってしまいますが、フティットが一生懸命新ネタを考えてる一方で
ショコラは酒やギャンブルに溺れ、車買ったり浪費三昧の毎日。
意外だったのは、ショコラは女性に何故かモテるのです。
人気の出る前からデルフォー一座の美人曲乗り娘のカミーユ(白人)という恋人がいたし
パリにでてきてからも女性をとっかえひっかえなのです。
未亡人の看護婦のマリー(白人)とも親しくなって、なんとこのあと結婚までしてしまうんですね。
マリーのことは原作本にもあったので、これ、史実なんですよ。(写真が残ってないのでここまで美人かはわからないけど)
当然彼らの人気をねたむものも多くて、同じ劇団でキャラがかぶってるオーティスたちに楽屋を荒されたり
身分証をもたない不法入国者であることをデルフォーの妻がたれこんで、投獄されて拷問をうけたり
植民地博覧会に「展示」されてる土人のなかの知り合いに声をかけられたり、
楽しくないことばっかりが続きます。
獄中で知り合ったハイチ人の活動家ビクトールに
「シェイクスピアのオセロは君にぴったりだ、この国で未だ誰も黒人が演じていない」
「誰もやってないことをやって風穴を開けるのが芸術家だ」
とかいわれて、すっかりその気になりますが、そのことを告げると、
全然新ネタの練習をしようとしないショコラにフティットは大激怒。
これ幸いに一座を飛び出し、マリーのつてで、アントワーヌ劇場の支配人を紹介され
なんといきなりオセロの主役に抜擢されたものの、セリフのある劇なんてやったことないし、
ギャンブルでたまった借金の取り立てに追われたり、どんどん身を滅ぼしていき・・・・・・
というような話です。
まずショコラの出自ですが、映画の中では
「8歳でスペイン人に買われ農園で働き給仕や炭鉱やいろいろ働いて・・・」といってましたが
原作を読むと、彼はキューバ出身のようです。
フランスにいる黒人、というと、アルジェリアあたりを連想しますけど、スペイン人に買われてフランスに来るなんて
想像もしてませんでした。
ハイチ人とは故郷近かったんですね。
奴隷制度は19世紀の半ばくらいまでに廃止されてるはずなんですけど、差別意識まで解消されたわけではなく、
ただ、ショコラはその差別意識を逆に利用して人気と金を手にした稀有な人物だったわけで
彼の敗因は人種差別ではなく、自分自身のなかにあったのだと思います。
彼らの芸が面白いかというと、正直、知性のかけらもないドタバタで、今だったらPTAから苦情が来そうな感じ。
むしろ最初オーディションでフティットが一人で演じて
「陰気だ、古臭い」とダメ出しされていた一人芸のほうが、私はずっと好きだけどなぁ。
フティットを演じたジェームズ・ティエレは、軽業師のような身のこなしに端正な顔立ち。
とても気になったのですが、何となんと!あのチャップリンの孫だそうです。
エンドロールに流れていたのとは違いますが、実際の画像がYouTube動画があったので、貼っておきます。
https://www.youtube.com/watch?v=8DEArXBHf10
https://www.youtube.com/watch?v=qpYTanqDzvc
映画ではオマール・シーが大男なので、細身のフティットに振り回されてるギャップが楽しかったのですが
実際はむしろショコラのほうが小柄なくらいで驚きました。(顔はサッチモに似てますね)
まあ、今見て面白いかどうかはともかく、貴重なフィルムを彼らのために何本も使ってるわけだから
それだけの価値のある芸だった、ということは確かです。
日本でも体を張る芸って一発屋で終わることが多い傾向にありますが、世間に飽きられたリ忘れられたりしても
彼らの人生はまだ続くわけで、新しいジャンルに挑戦したり相方を替えたり、いろいろやるんでしょうね。
「じゃない方芸人」てよく言われますが、このコンビではフティットがそれにあたるのかな?
でも実際にネタを考えるのは彼の方だし、プロの道化は彼のほうなんですよね。
結局おちぶれたショコラを最後まで支えるのはフティットだし・・・
ところで浪費家のショコラにくらべて、フティットは堅実でしたが、彼の楽しみはなんだったのか?
女性に興味なさそうだったし、オカマにからまれてるシーンがありましたが、そっち系だったんでしょうか?
フティットのことはほとんどスルーだったので、そっちのほうが知りたいです。
原作本のどこかに書いてあるのかな?これから読んでみようと思います。