映画「セルフレス/覚醒した記憶」 平成28年9月1日公開 ★★☆☆☆



ニューヨークの超セレブの建築家ダミアン(ベン・キングズレー)は、ある日余命半年を言い渡される。
一人娘との関係もぎくしゃくしたままの彼は自らの運命を呪うが、
天才科学者オルブライト(マシュー・グード)がダミアンにある提案をする。
それは遺伝子操作で新たに創造した肉体に、68歳のダミアンの頭脳を転送するというものだったが……。
                                         (シネマ・トゥデイ)

ほとんどのものはお金さえあれば新調することができないけれど、どうにもならないのが自分の肉体。
アポカリプスもエジプトで若い肉体に魂を入れ替えて、永遠の命を保っていましたが、
ベン・キングスレー➡ライアン・レイノルズへの肉体
に映しかえる作業(↑)は、まさに「アポカリプス」でした。



ニューヨークの「建築王」といわれたダミアン(ベン・キングスレー)は、末期がんで半年の余命宣告を受けます。
知力・財力・カリスマ性を持ち合わせてもどうにもならない自分の運命。
心残りは唯一の肉親である一人娘のクレアのことです。
仕事でまったく接することのなかったクレアは自分を恨んでおり、
NPOを立ち上げて第一線で働く彼女に小切手でしか愛情を示せないのですが、
その都度、クレアから冷たく突き放されるのでした。


ある日、友人から「シェイディング(脱皮精神学)」のことを聞かせられます。
それは、自分の身体から脱皮して、新しい肉体に入れ替える研究で、すでに実用化されていること。
ラボには、遺伝子培養で作られた若い肉体(これがライアン・レイノルズ)が眠っており
オルブライト博士(マシュー・グード)の施術で、ダミアンはこの体にうつることに成功。
2億5000万ドルの高い対価を払って、若くて健康な日々をエンジョイしますが、
ところが、「新たな神経構造に慣れるための拒絶反応抑制剤」が切れるたびに
不思議な幻覚に襲われるようになります。
軍隊での訓練だったり、ラテン系の家族がいたり・・・・

そのなかでも印象的だったかぼちゃの形の給水塔をネットでさがし、そこをたずねると、
なんと自分(ライアン・レイノルズ)はそこで実際に生きていた人物だということがわかってしまいます。
つまり、「新品の白ロム」だとおもってかったスマホが「中古」だったわけ。

自分の肉体の本当の名前はマークで、かれは幼い娘のアナの治療費のために
自分の身体をフェニックス社に提供したようなのです。
妻のマデリンはそのことを知らず、行方不明だった夫が(中身は68歳の建築王だけど
急に帰ってきたのを喜びますが、
友人だと思っていたアントンは実はフェニックス社の監視役で、彼が手下を連れて追ってきて、
口封じのためにマデリンも一緒に火炎放射器で家ごと焼かれそうになりますが、
マークはもともと特殊部隊の兵士だから、すごい勢いで応戦して、
マデリンとアナを連れて逃げることに成功。
このへんは普通のアクション映画です。

マーク(中身はダミアン)の抑制剤が切れそうになりますが、フェニックス社に行くわけにいかないから、
やむを得ず、開発者のジェンセン博士の家に行ってその妻と面会するのですが、
亡くなっていたはずの彼は別の肉体に移動していた、
つまり、オルブライト博士と思ってた人が実はジェンセン博士だったのです。

ダミアンにシェイディングを教えてくれた親友のオニールも、
病死した息子の身体を新しい体にいれかえてたり、
ダミアン(というかマーク)を攻撃して大やけどしたアントンも今度は別の身体に入れ替えて・・・・
と、「肉体と中身が別々」の人間が次から次に現れます。

ひと昔前では考えられないことですが、自分のSIMカードを入れ替えて、ぼろぼろのスマホが
新品の機種になったりすることとか、前にその電話番号を使ってた人の知り合いから電話がかかったりとか・・・
実生活でもある、そんなこんなの人間バージョン!
って感じで、ちょっと展開がたのしみなSFドラマですが、
やっぱりそれを長編映画にしようとなると、いろいろ粗がでてきますよね。

脳の中は年寄りのダミアンなのに、マークの戦闘スキルがそのままだったり、
そうだとしても、脳と体のミスマッチが面白くならなきゃいけないのに、
乗り換えた後、ベン・キングスレイ要素が全く消えてしまったのは、ライアン・レイノルズの演技力の問題?

あと、「シェイディング」というのは、そもそも建築王といわれたダミアンのような優れた頭脳を保存するために
研究されたものなのに、建築家としての彼の資質がストーリー上全く生かされていないのも
なんだかねえ。べつに建築家でなくてもよかったんじゃないの??

娘との確執を冒頭で示すのも、どんな形であれ、「最後に和解する」という結末が見え見えです。

ターセム・シン監督についても、あまりに「落下の王国」のビジュアルがインパクトありすぎて
彼の映画を観る時はいつも美術や衣装が気になるんですが、けっこう普通で拍子抜けしました。
白雪姫と鏡の女王」もつまらなかったけど、衣装だけは素晴らしかった!
やっぱり石岡瑛子さんがお亡くなりになってしまったのは、本当に残念です。