映画「シンゴジラ」 平成28年7月29日公開 ★★★★★

 

東京湾アクアトンネルが崩落する事故が発生。
首相官邸での緊急会議で内閣官房副長官・矢口蘭堂(長谷川博己)が、
海中に潜む謎の生物が事故を起こした可能性を指摘する。
その後、海上に巨大不明生物が出現。さらには鎌倉に上陸し、街を破壊しながら突進していく。
政府の緊急対策本部は自衛隊に対し防衛出動命令を下し、
“ゴジラ”と名付けられた巨大不明生物に立ち向かうが……。    (シネマ・トゥデイ)


シンゴジラのちらしは多分半年以上前から映画館で配っていて、最初のうちはゴジラの横顔だけで
なんの情報もなく、アニメか実写化もわかりませんでした。
公開が近くなってようやく、エヴァの庵野監督にオールスターキャストのかなり大がかりな作品だと判明。

ハリウッドでは、1998年と2004年に「GODZILLA」が実写映画化されましたけど、
もともとの日本ではずいぶんご無沙汰でした。
でも、ゴジラといえば東宝で最大のスターキャラクター。

TOHOシネマズシャンテ前には→   

TOHOシネマズ新宿には→       

 

 

 

 

 

次に気になるのが「シンゴジラ」のシンってなに?っていうこと。
普通に考えたら「新」か「真」ですが、「神」とか「震」もありますよね。
どうやら、いろんな意味を兼ね備えた「シンゴジラ」ってことらしいです。


ゴジラ映画はざっくりいうと「SFパニック映画」に分類され、
いきなり現れた巨大生物に驚きおびえ、でも一部の勇気ある人たちがそいつに立ち向かい
立場の違う何人かの人生に光をあてつつ、みんなで力をあわせつつ、大団円にもっていく・・・みたいな。
2年前のハリウッド版もそんな感じでしたね→ こちら

本作は、観客を怖がらせてナンボのありきたりのパニック映画ではなく、
時代設定がまさに現在、ということもあるんでしょうが、やたらリアルです。
「にげまどう人々」は当然登場しますが、みんな避難指示に忠実で、整然と移動します。
すごいヒーローは登場しないかわりに、国民を守る立場にある人たちは
自分の仕事に誇りをもって粛々とこなし、トップダウンの伝達は驚異的に速いです。
とってつけたようなヒール役も登場せず、やたらリアルなんですね。
それでも一瞬たりとも退屈せずにずっと面白いという奇跡的な作品で、文句なしの★5つです!

たぶん先入観なく見たほうが楽しいと思うので、

これから観ようという方は、この先は読まない方がいいと思います。







東京湾アクアラインで謎の崩落が起こり、緊急に招集された閣僚会議では
「大規模熱水噴火口」か「海底火山の爆発」ということになったんですが
テレビ中継で巨大な尻尾が映し出され、巨大生物の出現を認めざるをえなくなります。
「捕獲」か「駆除」か「排除」かと会議でもめて、
「東京湾内の火器使用はNG」ということで手をこまねき、まあそれでも
「巨大水生生物は陸に上がったら自重でつぶれるから、上陸はしない」
と楽観しているうちに、謎の生物は、呑川を溯上して蒲田に上陸してしまいます。

その時の姿は、私たちが認識しているゴジラの姿ではなく、つちのこみたいな感じ。
かわいいお目目のゆるキャラテイストで、予告編でも一度もみてない形です。

大田区から品川区へ建物をなぎ倒しながら時速13kmで進むんですが
(私はこのへん全く土地勘ないんですが)近くに住んでる人にはぞくぞくする画面だと思います。

周辺住民を緊急避難させて、いよいよ自衛隊機の出番なんですが、
まさに発射ボタンを押す瞬間に逃げ遅れた住民を発見したことで、発射命令は撤回されます。
日本的~!

幸い巨大生物は京浜運河から東京湾に戻ったものの、またやってくる時に備えて
霞が関は大騒ぎです。
役名忘れたのでキャスト名で書きますけど
総理大臣の大杉連、官房長官の江本明、防衛大臣の余貴美子、農水大臣の平泉成なんかが
喧々諤々やってるんですが、なかなか前向きな議論にならず。

一方、異端な官僚や研究者集団が「巨大不明生物特設災害対策本部」を立ち上げます。
あんまり長い名前なので、「巨災対」と略してますけど、キョサイタイではピンときませんね。
メンバーは、厚労省の津田寛治をトップに、本作の主人公である内閣官房副長官の長谷川博己、
環境省の市川実日子、文科省の高橋一生なんかの主流から外れた変わり者の研究者集団です。
エリートVSオタク集団、の構図ですね。

すでに採取した巨大生物の体液を分析する作業を始めるんですが、
ほとんどのサンプルはアメリカがもっていってしまったのです。
実はアメリカはこの生物にコジラ(呉壐羅)と命名し、ひそかに研究がすすめられていたというのです。
大統領特使のカヨコ・アン・パターソン(石原さとみ)が来日しますが、彼女の存在だけが中途半端で
リアル路線できたこの作品をぶっ壊している、というのが私の正直な感想です。

まあ怪獣映画ですから、つっこみどころ多くて上等なんですが、
政府の緊急対策本部では、防衛大臣の余貴美子は小池百合子みたいだし、

特命防災大臣の中村育二なんて甘利元大臣にびっくりするほどそっくり!
国民に分かりやすい言葉で説明したい首相に、法令遵守を徹底する官僚たち、と、
とても現実的だったのに、カヨコ・アン・パターソンだけが、フィクションの世界から飛び込んできた感じです。

彼女は上院議員の父がいて、祖母が日本人のクオーター。母語は英語という設定です。
なのに見た目はコテコテの日本人で、英語交じりの会話は、「日本語もできるアメリカ人」ではなくて
まるでルー大柴です。
石原さとみのイーオン仕込みの英語力は「風に立つライオン」の看護婦役では良かったけれど
(本人の責任じゃないけれど)今回は脚本ミスか、キャストミスだと思います。

チラシの裏には300人を超える俳優の名前が羅列してあってすごい人数なんですが、
とにかく本作では、セリフの速さが尋常じゃなくて、俳優の滑舌が試される作品と言っていいと思います。
誰とはいわないけど、人気俳優でも全然聞き取れない人や、うわの空でしゃべってる人とか
一目瞭然なので、厳しいなぁ・・・

自然環境局で野生動物の研究をしているオタク女子の市川実日子は、終始感情を表さず
恐ろしい早口でまくしたてる。
仏頂面の彼女がラストでちょっとみせた笑顔がこの映画のキモというか、ものすごい存在感でした。
彼女は、(私が世界一苦手な)あのスールキートス映画の常連なので、
個人的に苦手な女優さんだったんですけど、ぜひぜひあの世界を脱却してこういう役を極めて欲しいと思います。
ホントに適役!

 


「シンゴジラ」の主役は、一応、長谷川博己、竹野内豊、石原さとみ、の3人ということになってますが
男性2人は存在感薄いし、石原さとみはただ邪魔だったし、
私だけじゃなくて、
多分見た人はみんな、この映画のヒロインは彼女だと思うんじゃないかな?



そうこうしているうちに、ゴジラはなんと前回登場したときより格段に巨大化して、鎌倉沖に出現。
これが一番上↑の画像ですが、なんか必要以上に大きいと思いましたが、
都心に近づいたら高層ビルも多いから、60年前のゴジラより大きくないと映えないですよね。
帰ってネットで調べたら、ホントに大きくなってました。

 

 


この辺も私は土地勘ないんですけど、わかったのは江ノ電と武蔵小杉のタワーマンションくらい。
自衛隊の国内の火器使用を承認する臨時立法が成立して、自衛隊が攻撃に向かうのですが
守るのは「東京都内」というみたいで(ヒドイ!)、多摩川を防衛ラインとして東京側で待ち受けます。
重機関銃から対戦車ミサイルとかロケット砲とか次から次へと攻撃しますが
「目標に100%着弾するも効果なし」
めちゃくちゃ撃ちまくるんじゃなくて、すべて命中させるのが、日本の自衛隊!ですね。
それでも相手を倒せなければしょうがないですが、その後の米軍の空爆も結局は効果なく
「残弾なし」
「目標物は防衛ライン通過」
の言葉がむなしく響きます。
栗林中将の「矢弾(やだま)つきはて散るぞ悲しき」の辞世のことばが思い起こされ泣きそうになりました。

ゴジラは世田谷区から目黒区、そして浜松町から新橋・銀座へと移動し、東京の街を破滅させていきます。
このときに流れるBGMはもはや戦闘のシーンでかかるものではなく、美しいレクイエムのような声楽曲です。
(あとで調べたら、クラシックではなく「who will know 悲劇」というオリジナルの曲のようです)
美しいだけに絶望感半端ないですよ。

首都東京もついに全滅、と思った矢先。
なぜかゴジラは東京駅周辺で急に動きをとめ、閣僚や研究者の一部は立川に逃れることに成功します。

自衛隊の力ではこの国を守れないと判断した閣僚たちは、(総理がヘリ墜落で死亡したため)
核攻撃もふくめた援護を(復興支援も含めて)国連の多国籍軍に依頼し、

臨時首相代理になった農水大臣の平泉成がサインします。

一方、巨災対のなかでは、謎の科学者マキ・ゴローの残した解析表を解くのに成功し
ゴジラの体内には原子炉に相当するものがあって、陸ではそれを冷却できないのが弱点だとわかり、
膨大な量の血液凝固剤の製造を国内中のメーカーに依頼します。
住民の避難が終わるまで多国籍軍の攻撃はないので、その間にやってしまおうというのです。

さて、彼らの作戦は上手くいくんでしょうか・・・・・??
ってことで。



この映画をぜひ見て頂きたい人は
①エヴァンゲリオンのファンの人
監督・脚本が庵野秀明だけに、いろんな共通点があるそうですけど、私は全く分からないので割愛。

②鉄道オタクの人
江ノ電とか品川の
八ツ山跨線橋とか、鉄道オタクにはたまらないポイントをちゃんと抑え、
無人の新幹線や在来線の車両をゴジラ襲撃の「武器」につかうなんて、たまりませんよね~

③兵器オタクの人
自衛隊や海上保安庁全面協力ということで、日本が有するいろんな最新兵器、
護衛艦や戦車なんかが次々に登場するから、ファンにはきっとたまらないと思います。

ところで、自衛隊の存在はいつも政治的にビミョーな立場ですが、
本作では「国民を守る自衛隊」が強調されていましたね。
「今回は想定外の前例のないケースだから、志願を募るか?」と聞かれて
國村隼の幕僚長が
「いや、ローテ(ローテーション)で行きます。みんな覚悟はできているから」
と答えるところにグッときました。
そのあとも自衛隊の活躍に感謝すると
「いや、礼はいりません。仕事ですから」というセリフもありました。

まあ、立場が違うから、アプローチの仕方に違いはあっても、みんな日本を愛し、
「与えられた任務を迅速にしっかりこなす」というのが徹底されていて、
とびぬけたヒーローがいなくても、ちゃんとチームプレイが出来るのが日本の強みなのでしょう。

巨災対の血液凝固剤を使う作戦は「ヤシオリ作戦」と呼ばれるんですが、
(映画の中では何の説明もありませんでしたが)これはヤマタノオロチを酔っぱらわせて退治した
八塩折(やしおり)の酒から来てるのは明白です。
たしかに、最初現れた時のゴジラはヤマタノオロチにちょっと似てるかも、と思いましたが、
途中から、もっと似てるのがあるのに気づきました。

それは「ホビット」に登場するスマウグです。

 

 


これ、ベネディクトカンバーバッチが声優とモーションキャプチャーで参加してるのでも有名ですが、
なんと、なんと、エンドロールでひときわ目立っていたビッグネームがなんと
野村萬斎!!!
なんと彼がゴジラのモーションキャプチャーをやってたんですって!
ゴジラの神々しいまでの存在感は、だからだったんですね。
これを知ったうえでもう一度見たいと思いました。
声優で参加してたら、すぐにわかったんでしょうけど、ホントに最後まで気づきませんでした。

ひとつだけ納得いかないことがあったんですが、体内の温度調整できないように凝固剤を注入するなら
最後はゴジラは高熱でどうにかなるのかと思ったら、知らない間に「冷却剤」になって
冷えて固まったような気がしたんですが、逆じゃないの?
この辺ももう一度見て確認したいところです。

結末はあえて割愛しましたが、とにかくスクラップ・アンド・ビルドで復興してきた日本の打たれ強さ、
どんな困難にあっても絶対に立ち直る国だということを実感しました。