映画「ドリームホーム 99%を操る男たち」 平成28年1月30日公開 ★★★☆☆


職のないシングルファーザーのデニス・ナッシュ(アンドリュー・ガーフィールド)は、
ある日、自宅を強制退去させられてしまう。
家を取り戻したいナッシュは、不動産ブローカーのリック・カーバー(マイケル・シャノン)に雇われ、
家を差し押さえて大金をもうけるビジネスに加担。
母親と息子に本当のことを言えない一方で、大金を手にしていくナッシュは……。 (シネマ・トゥデイ)


原作はジョセフ・E・スティグリッツの「世界の99%を貧困にする経済」と聞いたので
さっそく図書館で借りてきて、↓の画像を昨日のページにアップするつもりだったのですが、
読んでみたら、原作という訳ではなく、ノーベル賞受賞の著者による普通の経済学の本でした。


「世界中の富の4分の1をたった1%の最富裕層が所有していて残り99%は貧困である」
という彼の持論からこの映画のタイトルがついた、ということのようです。

たしかに
「箱舟に乗るのは100人にひとりで99人は溺れる」
なんていうマイケル・シャノンのセリフもありましたが、
99人がみんな同じように不幸でも愚かでもないと思うので、なんか説得力ないんですけどね~

10年近く前にアメリカでサブプライムローン破綻で多数の貧困層が家を失い、
さらにリーマンショックへとつながり、日本も大きな影響を受けました。
家を取られて路頭にまよう家族は気の毒とは思うけれど、「自業自得」でもあるから
けっこう私なんかは冷ややかな目でみていました。

「サブプライム」というよりは「プライム」とは真逆の、まったく返済能力ないブラックな層に
ほとんど審査なしにホイホイ貸す方にも責任あるけれど、
現金もなければ返す当てもないのに、ローンを組んで、一国一城の主になった気でいるんでしょうか?

それを思ったら、ずっと右肩上がりだった地価が一気に下落し、不動産相場が担保割れしてしまい、
また景気悪化から(きちんと返済計画をたてていたにもかかわらず)ローンの返済不能になってしまった・・・
日本の「バブル崩壊」に伴うローン破綻者のほうがずっと同情すべきパターンだと思います。

デニスがローン未払いで取り上げられた家は、彼が子どもの時から育った家だというから
サブプライムは関係なさそうですが、何十年も払い続けて、あといくら残ってたんだろう?
日本だったら、競売代金から優先弁済の債権者たちに払われたあと、残金は手元にのこるはずですが
その辺のアメリカの事情がわかりません。
(返済ヤバいと思ったら、競売に賭けられる前に抵当権付きで任意売却するほうが高く売れるしょうけど)

逆にすぐに破たんしてローンが不動産価格を上回ったとしても、アメリカでは明け渡しをすればチャラ・・・
と聞いているので、ローン残額にかかわらず、支払えなくなったらアウト!ということでしょうか。
この辺、不公平感いなめませんが、ほとんど支払いもしなかった人たちは
追い出されるとはいえ、ちょっとでもマイホームの夢心地にひたれたんだから良しとしましょう。

アメリカの住宅ローンのシステムがわからないからモヤモヤしますが、
(「鍵で3500ドル(?)」というのもちょっと理解できなかった)
それにしても、わずか2分の猶予で自分の(と思っていた)家から退去しないと
不法占拠で逮捕・・・というのには驚きです。

裁判で退去命令が出ると、さっそくに武装した郡保安局の保安官と不動産屋が現れ
「現金、小切手帳、薬、大事なものを集めろ、2分間待つ」
「この2分間は温情だ、感謝しろ」
なんてことを言われ、情け容赦なく追い出されます。まるでドッキリですよね。
家財は外に運び出され、何時間かのうちに持って行かないとすべて処分されるなんて血も涙もない感じですが
突然、といってもその前に警告は何度もあったでしょうし、ほとんど支払いもしてない家を飾り立てて
マイホームと思ってリラックスして住んでる神経のほうが私は理解できないけどね~

ストーリーのほうは、家を追い出されて、ローン破綻者たちが吹き溜まるモーテルに移ったデニスが
なんとか日銭を稼ごうと、にっくき不動産ブローカーのカーバーから250ドルの汚れ仕事を請け負い
そのうちに彼の片腕となっていき、「家を取り上げる側」になって大儲けし、豪邸を手に入れるも
家族(母と息子)はそんな彼のもとを去っていきます。
カーバーの仕事は「地域の浄化」といわれて評価されている一方、法すれすれ、というか
完全にアウトの違法行為もやっていて、それが善意の債務者を陥れていることに
デニスの良心がうずきはじめ、ついに・・・
というような話で、私はけっこうイラっとしました。

失業者が全員無気力とは言いませんが、家を失った後のデニスの労働意欲の半端ないこと。
う〇〇まみれの家の掃除を率先してやったり、大工仕事、左官、配管工事・・
職人としてのスキルも高く、こんな人がなんで無職だったのかが理解不能です。

幼い子どものいる家庭や身寄りのない老人を寒空においやる非情な仕事に心折れながらも
ビジネスと割り切って粛々とこなしていた彼がいきなり正義にめざめるというのも、
なんだか脚本に難あり、という感じ。
偽造書類を渡したときの、そこだけ静かになるあざとい演出にもゲンナリ。

最後の男の子のセリフでプチハッピーエンド感ありましたが、結局破綻をちょっと先延ばしにしただけで
逆に立ち直りを遅くしたかもよ。
そして自分を全面的に信頼してくれていたカーバーを犯罪人にすることが、そんなに立派なこととも思えません。

大好きなアンドリュー・ガーフィールド主演なので、デニスにはものすごい思い入れで観てたんですが
むしろ悪徳不動産ブローカー社長カーバーのほうにどんどん引き込まれました。
マイケル・シャノンの語るリック・カーバーのセリフも説得力あります。

「この国は負け犬には手をさしのべない」
「勝者の勝者による勝者のための国だ」
「家への思い入れは捨てろ。だたの箱だ」・・・

彼の屋根職人の父は屋根から落ちて働けなくなって即クビ。
恨みをはらすべくどん底から這い上がった息子のリックの仕事には甘さはなく、
負け犬の気持ちが誰よりわかる彼が弱者から搾取する側にたってるわけで、
皮肉なことに、今度は同じ立場のデニスがその片腕になっていくという・・・

冷酷に見えても、彼らの仕事は基本合法的なんですが、ちょいちょい違法行為に及ぶことも。
カーバーに忠実につくすことで大金を稼いできたデニスは、そんなことにもだんだん慣れっこになるのですが
ラストで対象者に対する同情から急に気がとがめ、一転告発者となる、ブレブレ加減。

金持ちが…貧乏人が・・・ということではなく、
要するに自分の身の程を超えると、ろくなことにならないという話に思えました。
いくら不動産屋に薦められても、頭金なしでマイホームを手に入れるなんて無謀だし、
デニスにしろ、稼いだお金で(手続きに時間はかかっても)元の家を買い戻すか
それに近いレベルの家を買っていたら、家族の心は離れなかったと思いますよ。

わが家も、バブル期の終わりの方に今のマンションを買っているので、資産価値半分になりましたが、
それでも、甘々の破綻者に同情するようなストーリーには、ちっとも共感できませんでした。

ただ、デニスの母役ローラ・ダーンもふくめ、キャストはとてもいいので、観るべき映画ではあると思います。