原作本「青天の霹靂」 劇団ひとり 幻冬舎 ★★★★☆
場末のマジックバーで働く、さえないマジシャンの轟晴夫(大泉洋)。
ある日、彼は10年以上も関係を絶っていた父親・正太郎がホームレスになった果てに死んだのを知る。
父が住んでいたダンボールハウスを訪れ、惨めな日々を生きる自分との姿を重ね合わせて涙する晴夫。
すると、突如として青空を割って光る稲妻が彼を直撃する。
目を覚ますや、40年前にタイムスリップしたことにがくぜんとする晴夫。
さまよった果てに足を踏み入れた浅草ホールで、マジシャンだった父と助手を務める母(柴咲コウ)と出会い……。(シネマ・トゥデイ)
自分の生まれる前の時代にタイムスリップして若き日の親や自分の出自を知る・・・
浅田次郎の「地下鉄に乗って」と似ていますが、バックに壮大なドラマなどありません。
後輩マジシャンにも先を越され、いつまでも芽が出ないマジシャンのハルオ。
ぼろアパートの部屋は水道管の破裂で水浸しになってしまい
警察からホームレスの父が死んだ通知を受けます。
遺骨を引き取りに行き、帰りに父の住んでいたという河川敷へ行くと
そこには色あせた若い時の父と赤ん坊の自分の写真が・・・
「なんでこんなもん大切に持ってんだよ~!」
「おやじ~生きるって難しいよな、毎日みじめでよぉ、」
「俺、何のためにいきてんのかわかんなくなってきた」
「なんで俺なんか生きてんだよ~!」
そこで「青天の霹靂」
落雷をうけ、気を失った瞬間にタイムスリップします。
そこは昭和48年の浅草で、ハルオは「浅草雷門ホール」でマジシャンとして働くことになり
アシスタントの悦子とその元相方のチン(正ちゃん)と知り合います。
悦子はチンとの子どもを宿しており、予想通りこれがハルオの両親です。
ハルオは父から
「自分の浮気でお前が生まれてすぐに母は家を出た」
と聞いていて、自分のダメな人生は「ろくでもない父と置き去りにした母のせい」
と思い込んでいたので、
なんでこんな美人でやさしい女性がそんなことをしたのか信じられなかったのが
次第に自分の出自が明らかになっていく・・・
だらだらとあらすじを書いてみましたが、ネタバレ全開で書いてよければ
2行くらいで書けるような単純なお話ですが、小さな笑えるポイントを作って
そこそこ飽きずに見られる96分。
ほぼひねりなしの展開はまあ安心して見られます。
トークが最高に面白い大泉洋が「トーク苦手なダメ芸人」というのは気の毒。
マジックも吹き替えなしだというのでかなり練習したんでしょうが
それでも当然手さばきはプロのマジシャンのレベルではないので、なんかビミョーです。
別に吹き替えでもよかったんじゃないの?
昭和40年代の浅草。
小さいころ私もよく連れて行ってもらった場所でとても懐かしいですが、もちろん今の浅草ではなく
長野県の上田市でロケをしたそうです。
いかにもセットっぽいですが、本来は「上田映劇」という映画館だそうです
↓
この映画が町おこしの一助になるのかな?そうだったら、嬉しいことですね。
作者で監督の劇団ひとりはまだ30代なので、この時代には生まれていないからか、
タイムスリップの場面は違和感ありありでしたね。
一見レトロっぽかったですが、たぶん突っ込みどころ多いと思います。
本格的に時代考証するには予算の都合もあるでしょうけど、
たとえば、芸人同士の言葉づかいとか、間の取り方とかは完璧に平成でした。
「ペペとチン」のコンビがだんだん人気者になって
表の看板の位置がどんどん上がってきて、客の入りも増えてくる・・・
視覚的には面白かったけど、
相撲の番付じゃないんだから、手品みたいな「色もの」はだいたい定位置だと思うんですが。
そのなかで風間杜夫はひとり昭和のたたずまいで、昔リアルにこういうオジサンいたよな~
小劇場出身の生き字引みたいなベテラン俳優が脇を固めてくれて幸せな映画です。
前作「陰日向に咲く」では原作だけだったのが、今回は脚本と監督、出演までしている劇団ひとり。
悪い人間ではないけど、自己表現がへたくそで、そのくせ変な見栄っ張り。
ハルオも父もこんな性格で、人前に出る芸人には一番不適格な人種なんですよね。
劇団ひとりは賢い人だから、これを自分の「芸風」にして成功していますけど、
これを大泉洋にやらせるのは無茶ブリのような・・・・
監督自身は至ってのびのび「自分」を演じてましたけどね。
来週の公開に向けて「泣ける映画」を強調したプロモーションのようですが、
たしかに、美しい(いや、無駄に美しすぎる)柴崎コウの熱演で「泣ける」要素はけっこうあります。
今お産で死ぬお母さんは少ないですが、(特に病気がなくても)お産は命がけの仕事ですからね。
昔は「お母さんがお腹を痛めて産んでくれた恩を忘れちゃいけない」とよくいわれたのですが、
今は無痛分娩とかもあるし、出産の苦しみよりも、生まれてからのお金のやりくり重視のような気がして
ちょっと残念な感じ。
私ごとですが、先日、私が生まれた時の古い母子手帳が出てきて、
そこには出産時かなりの裂傷を負った旨の記述があって、出血量まで書いてありました。
母の口からは「安産だった」としか聞いていなかったので、驚きました。
もう母からはその時のことは聞けないだけに、
「痛い思いをさせてごめんね」と思ったことを思い出してちょっと泣いてしまいました。
陰日向・・・よりはずいぶんシンプルな話なので、記憶には残る映画です。
母の日に観たい映画だと思ったんですが、その時期をあえて避けたのも
ラストであえて「いい話路線」をちょっと外したのも、監督の照れなのかな、と思いました。