映画「ネクスト・ゴール!世界最弱のサッカー代表チーム 0対31からの挑戦」平成26年5月17日公開予定 ★★★★☆

 
長きにわたってFIFAランキング最下位ということもあり、
世界で最も弱いといわれてきたアメリカ領サモアのサッカー代表チーム。
そこへアメリカサッカー
連盟に任命されたトーマス・ロンゲン監督がチームに合流し、
その指導によりチームは成長を遂げていく。
やがて2014年ワールドカップブラジル大会の予選が始まり、
2009年サモア沖地震で被災した故郷のためチームは初勝利を目指す。(シネマ・トゥデイ)

弱小チームが熱血コーチを得ていきなり強いチームになる話って、けっこう定番。
「コーチカーター」とか「タイタンズを忘れない」とか国の代表チームだと「クールランニング」とか。
↑のあらすじを見る限り、これもまさにそんな映画の一つだと思ってみたのですが、
これが全然違う!
サッカーにほとんど興味ない私なのに、映画でほとんど泣いたことない私なのに
気が付くと胸元がびしょびしょになっていました。
最初に書いちゃいますが、ほんとにおススメ。

だいたい、↑の紹介はヘンです。「地震の被災から立ち直るために頑張る」って・・・
そう書けば東日本大震災がらみで注目されるとおもってるんでしょうか?
これ書いた人はホントに映画を観たんでしょうか?

地震があったのは確かに事実ですが、
彼らメンバーがそれぞれのモチベーションで自らの誇りを勝ち取るために、全霊をささげるって話です。
そして、サモアの伝統文化を大切にする気持ちと外部からの新しい考えかた・・・
衝突しながらもお互いを受け入れ尊重しあって、初勝利という目標に立ち向かうのです。
単なるスポ魂ものとはちょっとちがうなぁ・・・・

まず「米領サモアってどこよ?」って話ですが、
別にイギリスから独立したサモアがあって、民族も文化も同じ。
東サモア(アメリカ領)が約200平方キロ、7万人にたいして
西サモア(独立国)は約3000平方キロ、18万人。
私たちが普通サモアと呼ぶときはどっちを指すのでしょう?
というか、サモアもフィジーもパラオもトンガもツバルも・・・太平洋に浮かぶ小さい島国を
完全に区別できる日本人はどれだけいることでしょう。
「米領サモア」というのがあるのを知っただけで一つ賢くなった気がします。

で、今度はFIFAの話ですが、ここにはオリンピックをもしのぐ208もの国と地域が加盟しています。
もちろん本選の32チームまで勝ち上がるのは大変なことですが、そのチャンスは208の国と地域に与えられているわけ。
オセアニアは出場枠0.5だからかなり厳しい道のりですが、サイトを見たらちゃんとサモアもありました。
でも当時は予選で1勝もできない米領サモアがFIFAランキング最下位だったのです。
なにせ2002年のオセアニア予選のオーストラリア戦では31対0という屈辱的な敗北。
これは驚きの世界記録で、なんとwikiのトピックにもなっていました→ こちら

プロ野球なんかも30点くらい差がついたことはありますけど、
アウトをとるまでずっと攻撃は続くから、これはこれでしんどいんですが、
45分x2の間に31ゴールって、なんなんだろう。
映画の冒頭でそのときのゴールシーンが連続して映っていましたが、
もうゲームというより、ゴールキーパーにたいしての「いじめ」みたいでした。
このときのGKはニッキー・サラプ。
彼はその時のトラウマからずっと逃れられずに、シアトルへと移住してしまいます。

彼らはけっしてこの万年最下位の不名誉な状態に甘んじていたわけではないものの
弱いからスポンサーもつかないので、
国を代表するナショナルチームだというのに、メンバーは全員ほかに仕事をもつアマチュア。
これではとうてい勝てそうもありません。
「エベレストに挑戦した盲人だって、他の人と同じように一歩ずつ進んだだけ」
「他のチームに警戒されずノーマークだからこそ、危険なチームになれる」
とか、スポーツ心理学者が励ましてくれて多少意識がかわったところで
なかなか一勝はできません。
サッカー連盟のタビタは、本国アメリカの協会に助けを求め、テコ入れすることを決意。
そして、オランダ人の熱血監督トーマス・ロンゲンがやってきます。
それまでのボランティアコーチ、ラリーは、サモア文化を理解し、
信仰心が篤く家族を大事にするサモア人を尊重していましたが、
このしゃがれ声のべらんめいの新監督は何かにつけリーダーシップをとりたがるので、衝突することばかり。
練習時間に教会にいくなとか、タバコは室内で吸うな、とか、なんでも自分に了解をとれとか、
ついに「君はだたの雇われ監督だ」とタビタに云われる始末。

それにしてもピッチで90分間、体力がもたない選手がほとんどで、
さすがにこれではマズイと、外から助っ人を呼ぶことになります。
アメリカ在住のロールストンは、見た目は完全に黒人ですが
祖父の故郷がサモアで、W杯への出場資格を有する優秀なプレイヤーです。
ロールストンにしてみれば、ワールドカップの予選にナショナルチーム一員として出場できるわけで
アメリカでは決してかなわないと思っていた夢がかなうわけで、テンションアップ!

そしてもうひとり、結婚して生活のために米軍の兵士になっていた元トップ選手のラミン。
彼もトーマスの誘いに応じ、再度WC予選に出場するために妻子をおいて戻ってきました。

「プレイしたくてたまらない」この二人の加入に、45分走り続けるための基礎体力づくり。
チームの力はわずか3週間で格段にアップしていきます。
もともとがサッカーが大好きな「できる子たち」ですからね。
サモアは(武蔵丸の故郷でもあり)とてつもなく太った住民をイメージしていたのですが、
さすがに彼らは筋肉質のアスリート体質です。

そして、チームのなかでも異彩を放っているのがトランスジェンダーのジャイア。
女性の登場しないこの作品の中での完璧ヒロイン枠です。


きれいにメークして髪を気にして、心は完全に女性なのに、ホイッスルが鳴ると闘争心がわくという。
筋肉質で体は男性なのに、走り方はホントに女子みたいなのがかわいらしいというか・・・
本名はジョニーなんですが、誰からもジャイアと呼ばれて愛されています。
これ、フィクションじゃなくて、彼というか彼女は正真正銘、実在の選手なんですよね。
それ以上に素晴らしいと思ったのは、彼女のように二つの魂をもつファファフィーネはサモアにはたくさんいるそう。
昔からちゃんと存在を認められていて、トランスジェンダーゆえの差別はないといいます。
そういえば、協会幹部のタビタも(見かけはオジサンですが)なんかちょっとそっち系だったような・・・?
そしてあの31ゴールされたGKのニッキ―もまた、リベンジのためにサモアに戻ってきます。

そしてついにW杯予選の日。
対戦相手はトンガ、クック諸島、そして西サモア。
結果は書きませんが、ともかく彼らは感動的なメイクドラマをしてくれます。
ト―マスはスキルよりメンタルの強さ重視で、いつもは控えのジャイアを先発で起用するのですが、
対戦相手の屈強な男たちの中につっこみ身を挺してボールを守るディフェンスの彼女の姿がとにかく感動的。
そして、ゴールライン上での見事なクリア!
ルールなんて全然わからない私でさえ、もう試合に入り込んでしまいました。


試合結果は「勝ったり負けたり引き分けたり」と言っておきますが
オセアニアの弱小チームとはいえ、相手も国の威信をかけたナショナルチーム。
対するはアマチュアの寄せ集めとはいえ、愛と情熱に満ちたサモアの戦士たち。
そしてサモアの神もまた、常に彼らとともにあります。

かつて負け犬だった彼らは名監督の叱咤激励で強いチームになるんですが、
勝利至上主義だったトーマスもまたサモアの戦士たちから人間としての強さを学んでいく。
生きてきた環境も文化もなにもかもちがう彼らがお互いを信頼し尊重し
ひとつのことに向き合った時の強さはまさに本物です。
なんというか、もう、、、、涙、です。

同じ試写会場にいた人たち、泣いていたのは私だけと思ったら、
ツイートを見たらけっこうみんな泣いてたんですね。ちょっとホッとしました。