映画「8月の家族たち」 平成26年4月18日公開 ★★★★★
 
 
オクラホマの片田舎に住む母親バイオレット(メリル・ストリープ)と、
父親がこつぜんと姿を消したことで集まった3姉妹。
一癖ある母バイオレットは病を患い、長女のバーバラ(ジュリア・ロバーツ)は
夫(ユアン・マクレガー)の浮気と娘(アビゲイル・ブレスリン)の反抗期に悩んでいた。
一方、次女アイヴィー(ジュリアンヌ・ニコルソン)はひそかな恋に胸を躍らせており、
三女カレン(ジュリエット・ルイス)は家族の危機に婚約者を伴い帰宅した。(シネマ・トゥデイ)

あることをきっかけに疎遠だった家族が集合、それぞれの抱える秘密が明らかになってくる・・・
まるで舞台劇をみているよう、と思ったら、原作はやはり戯曲だったようです。
それを映画にする意味あるのかはともかく、
メリル・ストリープの玄人芸をはじめ、達者な役者さんたちのアンサンブルをたっぷり楽しめました。

インコも死ぬという摂氏42度のオクラホマの8月。
父の失踪を心配してある家に一族が集合します。
次女アイビーと長女バーバラとその家族、妻の妹マティとその夫・・・
けっこうな人数ですが、
「まあ、バーバラ、久しぶりねぇ~」なんて一人ずつ登場する戯曲方式なので
けっこうわかりやすいです。
「ほ~ら、汗びっしょりよ、ちょっと触ってみなさいよ」
なんていうマティ・フェイ伯母さんもなかなかのものですが、
何と言ってもバイオレットの魔女ぶりには圧倒されます。

喉頭がんを患って体調最悪、
薬の過剰摂取で精神障害か認知症?と思いきや、鋭い一言で娘たちを攻撃します。
ロマンティックでミステリアスな詩人だった夫ベバリーは彼女の唯一の自慢だったのに・・・
保安官が訪れ、彼はなんと失踪後に入水自殺していたのがわかります。

葬儀には三女のカレンが胡散臭い婚約者をつれて登場。
マティの長男リトルチャールズも遅れて加わります。
父が失踪する直前に雇い入れたシャイアン族の家政婦ジョナの料理で、一族が食卓を囲むのですが
この家族、全員が問題を抱えてるのですね。

長女バーバラの家では夫(ユアン・マクレガー)が若い女と浮気して別居状態。
娘ジーン(アビゲイル・ブレスリン)は14歳でタバコは吸うし、反抗期真っ盛りで親の手におえず、
「肉食は殺される時の動物の恐怖の摂取よ」
という、よくわからない理屈で、ベジタリアンを貫いています。

三女のカレンはものを深刻に考えないお気楽な性格で、マイペース。
婚約者はマリファナを餌に14歳のジーンに手をだそうとする、サイテー男なんでした。

結婚もしないで両親の世話をしてきたアイビーにも「秘密の恋人」の存在が明らかに。
なんといとこのリトルチャールズ(ベネディク・トカンバーバッチ)!
寝坊して葬儀に間に合わず
「みんなを失望させてごめんなさい」
とめそめそ泣いちゃうようなトホホな男で、
あのシャーロックと同じ人とは思えません。
「カンバービッチ」の私としては、この情けない彼もとっても好きです。
自作の歌をピアノで弾き語りするサービスシーンまでありますよ。

アイビーとリトルチャールズはそれなりにお似合いのカップルにも見えるのですが
終盤、とんでもない「出生の秘密」が明らかになり、
それを知ったバーバラは慌てふためくのですが、
バイオレットは当然のように知っていて、アイビーに秘密をしゃべってしまいます。
このバイオレットという母親は、へんに勘がするどくて、なんでも御見通しなんですが、
それを隠し玉としていっぱい抱えているんですね。
これは「口が固い」わけではなく、自分の利益になるときや、自分の損失を避けるためだけに
その武器を使う、という、一番人間としてイヤ~なタイプ。

バイオレットの母親はさらに意地悪な女性だったエピソードも語られ、
どうもこの性格、バイオレットの母→バイオレット→バーバラ→ジーンと引き継がれていくようです。

「けんかするほど仲がいい」とよくいいますけど、
バイオレットとバーバラのとっくみあいのけんかをみてると、
けんかしないのに越したことはないよね~、と思ってしまいます。
いくら家族だから、本音で話そうとしたって、もっと和やかに食事しようよって。
せりふにいちいち「FUCK」がくっつく映画はよくありますが、
この映画も「OH SHIT!」の応酬で、字幕の日本語以上にお下劣なやりとりなんでしょうね。

ベバリーの自殺に関しても、家族にしゃべっていないバイオレットの隠しごとがあり、
これもまた自分の保身と利益のためでした。
ほんとに食えないばあさんですね。

長女の家庭はすでに崩壊、次女は恋人との結婚が絶望的になり、三女の結婚もお先真っ暗で
バイオレットのそばにいてくれるのは、さんざん馬鹿にしてきたインディアンのやさしい家政婦だけ。
でもそのうち彼女にも見放されるのかなぁ・・・・

問題をかかえた家族が何かのきっかけで紛糾するも、
なんとか絆が修復して望みが持てる話かと思ったら、
さすがにもう、この家族ダメみたいです。

すっきりしないバッドエンドではありますが、
濃密な芝居が堪能できて、かなり満足できました。
私も勘づいてることをその場でいわない「いやらしい性格」を自覚しておりますが、
バイオレットをみてると、まだまだ修行がたりないな、って思います。