映画 「ワン チャンス」 平成26年3月21日公開 ★★★★☆

 こどもの頃から典型的ないじめられっ子のポール・ポッツ(ジェームズ・コーデン)は、
引っ込み思案で今ひとつな容姿のケータイ販売員。
何をやってもうまくいかない彼の誰にも言えない夢は、オペラ歌手になることだった。
挫折の繰り返しに自信をなくしつつも周囲の励ましに支えられながら、
最後の挑戦としてオーディション番組に挑む。            (シネマ・トゥデイ)

イギリスの素人参加番組で、さえないおじさんが一瞬にして会場を魅了した
あの奇跡的瞬間は、もうYOU TUBEで何度見たことか!→ こちら

彼が歌ってるのって、たかだか1分だったんですね。
それで会場全員を感動させたのはなんでだろう??
オペラにありがちの自信満々の高飛車な歌唱ではなく、
いかにも心優しい暖かな歌声が
「なに、このおっさん?」と小ばかにしてた審査員や観客の心をとろけさせたのでしょう。
蝶ネクタイにタキシードでも、きらびやかなオペラの衣装でもなく、
あのパッとしない容姿と服と声とのギャップがショッキングだったのかもしれませんが・・・

子どもの頃から太ってて鈍くさかったポールはいつもいじめっ子の標的にされてきたけど、
歌うことだけはずっと好きでした。
歌うといじめられ、いじめられると歌った」少年時代。

いつまでたってもパッとしない息子がどうにも我慢できなかった父に対して、
母だけは彼の歌の大ファンで、自分の息子は歌の天才だと溺愛してきました。

マザコン、ということもないんでしょうけど、ポールは女性関係もいつまでたってもオクテで・・・・
それでも永年メル友だったジュルスとの初デート!!
ネットだけのつながりだったから、女性だったというだけで大安心。
「ハードル低くてよかった」というジュルスへのプレゼントは「手回し懐中電灯」!
感心したのは、いくらでも嘘つけるメル友なのに、家族のことも仕事のことも正直つたえてたんですね。
ポールの両親とも打ち解けて、このちょいおデブのカップルの気取らないほほえましい交際がスタートします。
 

これがほんものの二人。
映画よりもさらに太目ですけど、(動画で見たら)ほんとにいい雰囲気。
この彼女がずっとずっとポールを支えるんですけど、
ポールに訪れた最高の「ワンチャンス」は、あのオーディション番組より、ジュルスとの出会いではなかったかと・・・
それくらい彼女のやさしさと明るさで彼は貧しいながら幸せな日をすごしてたわけです。

音大はでていないものの、彼はボイストレーニングや留学などでレッスンはしてたんですね、
ただ、イタリア留学中にあのバパロッティに歌を聴いてもらうチャンスがあり、
そこでまさかの酷評をされて、彼はどん底まで落ち込んでしまいます。
心配するジュルスに話す勇気もなく、いったんは距離をおいてしまうんですが・・・
「その声と、それを信じる彼女がいるなら、
パバロッティなんて、ただの禿げデブだ!」

そして彼らは結ばれます。

パバロッティがまるでポールの将来の可能性をつぶしたかのような描写があるのですが、
これは実話なんでしょうか??
泥棒の図太さがなければ観客の心は盗めない」
という指摘は正しいと思うし、早めに可能性を切ってあげるのもある意味、優しさなんでしょうが、
パバロッティをしても見抜けなかったポールの輝かしい将来を、ひたすら信じて応援してきた
妻ジュルスのパワーはものすごいです。

彼の人生を変えたプッチーニの「誰も寝てはならぬ」、レオン・カヴァッロの「道化師」、ヴェルディの「アイーダ」など
オペラのアリアの部分の歌声はすべてポール・ポッツ本人が吹き替えたそう。やっぱりね。

でも思ったほどはクラシック音楽がたっぷり使われているわけでもなく、
音楽映画というよりは、感じのいいデブカップル(失礼!)のラブストーリーというか・・・
タレントオーディション以来、世界中に有名になってしまいましたが、
彼らは労働者階級のありきたりの夫婦なわけで、(多少の脚色もあるんでしょうが)
両親や友人や留学仲間や携帯電話ショップの店長とか、周りの人たちが(若干の例外はいますが)
みんな魅力的ないい人たちで、有名になってからも同じ目線でポールを観ていてくれるのが嬉しいです。

あのオーディションの初代グランプリに輝いてからは
綺麗な服を着せてもらって、歯並びもきれいになったけれど
「僕は歌の好きなウエールズの少年のままだ」
そういってはにかむポールの歌声はこれからも世界中の心に幸せを運ぶのでしょう。

誰も(少なくとも映画を観ようとしてる人はほぼ全員)がオチをしってる状況で
ドラマもなにもないだろ!と思ったんですが、意外と楽しめました。
でも、件のわずか数分の予選の動画の衝撃度に勝てるものはないです。
だって、出てきたときは完全アウェイ状態だったのが、最初の10秒が20秒で
会場中の人の心をわしづかみししてしまう、なんてこと、そうそうはないことですから。
技術的にあれこれいう人もいるでしょうけれど、パバロッティよりもカレーラスよりも
私は彼の歌が大好きなので、これからも聴いていきたいと思っていますよ。