映画 「ジョバンニの島」 平成26年2月22日公開 ★★★☆☆

原作本「ジョバンニの島」 杉田 成道 集英社





・辰夫、祖父・源三と一緒に、北方四島の一つである色丹島に暮らしている10歳の淳平と7歳の寛太の兄弟。

1945年に太平洋戦争が終わり、日本がポツダム宣言を受諾することに。

その直後、ソ連軍が、択捉島、国後島、歯舞群島、色丹島に上陸して進駐し、

淳平と寛太が通う学校にも兵士がなだれ込んでくる。

やがて、二人はロシア人少女と心を通わせるようになるが……。         (シネマ・トゥデイ)


「北方領土は日本固有の領土です」

2月7日は北方領土の日」だそうで、占拠から68年を経た今、安部政権下での解決が待たれますが、

我が国の主張を子どもたちにまで拡散すべくのアジテート映画・・・と思ったら、違ってました。

やっぱり日本はどっかの国とは違いますね~


太平洋戦争は8月15日をもって終結し、敗戦という結果ではあっても、ともかく平和が戻ってきた、という認識ですが

色丹島ではこの日を境にソ連軍に占拠され、やがてそこに住む日本人たちは追い出されてしまうという苦難の歴史の幕開けです。


チラシには

「ソ連軍が進駐し、島民たちから自由と平和を奪った事実を忘れてはならない」

「それを今を生きる大人たち、未来を生きる子どもたちに伝えたい」

・・・って書いてあるんですけど、

あんまりソ連(ロシア)をひどく描いていないところが好ましくもあり、主張の見えにくいところでもあります。


突然やってきて、個人の家や学校を占拠するわけだから、もしかしたら、強奪や女性への暴行なんかもあった、かもしれない。

そのへんを強調して、反ロシア映画にするのはごくごく容易いことなのに、

主人公は自分の家を乗っ取った将校の娘に淡い恋心をいだいちゃったりするのです。

言葉も全然わからなくても、異文化にしなやかに対応できる子どもの心には垣根はなく、

慣れ親しんだ故郷を離れる寂しさと変わらないレベルで、初恋のターニャとの別れを惜しむジュンペイ。


ソ連の支配を受けるわけですから、

小学校にもロシア人の教師や子どもたちがやってきて、教室も半分乗っ取られ、

あっちが「カチューシャ」を歌うと、こっちは負けじと「赤とんぼ」を歌ったりしてたのですが、

聞いてるうちにお互いにだんだん歌詞もメロディーも覚えてしまって、いっしょに唄えるようになって

そして偏見もなしに一緒に外で遊ぶ子どもたち。

これ、絶対実話ですよ!そう思いたいです。


実は私の父は少年兵で戦争に駆り出されてシベリアの収容所に入れられて過酷な経験をしたのですが、

優しくしてくれたロシア人、命を助けてくれたロシア人たちにずっと感謝していて、死ぬまでロシア大好きでした。


チラシや予告編で「反ロシア映画」を期待したひとには物足りないでしょうが、「乗っ取られて追い出された」

という事実はちゃんと描いているのだから、これで納得してもらいましょう。


政治色が薄まっているもう一つの理由は、これが終始「宮澤賢治の銀河鉄道の夜」を踏襲していること。


もう、冒頭から、この童話の引用で始まります。


「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。」ジョバンニが云いました。・・・・


ジュンペイとカンタの亡くなった母がこの童話が大好きで、子どもたちにいつも読んでいて、二人の名前も

ジョバンニ→ジュンペイ

カンパネルラ→カンタ

からつけた、というちょっと信じられない設定です。


色丹には鉄道なんてないから、銀河鉄道に憧れる気持ちも大きく、ふたりは空想を膨らませることで

辛い現実を結果的に乗り越えることができたのかもしれません。

銀河鉄道のモデルは一般的には岩手軽便鉄道と言われますけど、

個人的には現サハリンにあった「樺太鉄道」であってほしいと思っていたので

ジュンペイやカンタと一緒に妄想できて、とっても嬉しかったです。


車掌に切符を求められて適当にだした紙切れがなんとプラチナチケットで、鳥捕りに感心されるところ。

あそこは子ども心に一番記憶に残るシーンですよね。

作中でもなんども登場していました。


「おや、こいつはたいしたもんですぜ。

こいつはもう、ほんとうの天上へさえ行ける切符だ。

天上どこじゃない、どこでもかってにあるける通行券です。

こいつをお持ちになれぁ、なるほど、こんな不完全な幻想第四次の銀河鉄道なんか、

どこまででも行けるはずでさあ、あなた方たいしたもんですね」

「銀河鉄道の夜」もう一度読みたくなりませんか?

(すでに著作権切れてますので)青空文庫から全文読めますよ→こちら


メインテーマはさだまさしの曲で、全然好きにはなれないのですが、

この曲の中に「星めぐりの歌」を挿入したのは感心!


♪ あかいめだまの さそり
  ひろげた鷲の  つばさ
  あをいめだまの 小いぬ、
  ひかりのへびの とぐろ


これはなんと、宮澤賢治作詞作曲です。

賢治は童話作家で詩人でありながらもすごい理系の人だというのは有名ですが

音楽愛好家でチェロも弾き、作曲もしちゃう人なのでした。

この映画のじゃなくて、ぜひ林光編曲ので聞いてみてください。


映画に関係ないことばかり書きましたが、

結局、北方領土云々よりも、「銀河鉄道の夜」好きの人にオススメの作品かもしれません。