映画 「きっとここが帰る場所」 平成24年6月30日公開 ★★★★



読んで♪観て♪

元ロックスターのシャイアン(ショーン・ペン)は引きこもり生活を送っていたある日、

故郷アメリカから30年も疎遠だった父親が危篤(きとく)だという知らせが届く。

飛行機が苦手な彼は船でニューヨークへ向かうが、臨終には間に合わなかった。

そして、かつて強制収容所にいた父が元ナチス親衛隊員の男を捜していたことを知ると、

シャイアンは父の代わりに男を捜す旅に出る。          (シネマ・トゥデイ)


私は予告編を見ていなかったので、ジョニー・デップみたいな異様なショーンペンの姿を見て

性的にも精神的にも、もしかしてあっち側の人?なんて思っていたのですが、

今まで彼が演じたキャラクターの中でも一番好きかもしれないです。


真黒なネイルにアイライン、魔女の様な口紅、大きく膨らませたヅラっぽい髪型・・・

ロックに詳しい方だったらピンとくるんでしょうが、

ぼろいカートを引いてすこすこ歩くさまは私には最初、

ちょっとおかしなオバサンホームレスにみえてしまいました。


でも実は彼はかつて一世を風靡したロック・スター、シャイアン。

彼が街を歩けば、すばやく写メとられたり、音楽のプロデュースを頼まれたり、

まんざら忘れられた存在でもないみたいなんですが、

当の本人は不思議なトーンの声で相手を煙に巻いてゆっくり立ち去ります。


彼のまわりの人たちも、ゴスロリメイクの少女メアリーや彼女に片思いのカフェ店員、

一人息子の帰りをひたすら待ちつづけるメアリーの母、

デブで暑苦しいのになぜか女にもてるジェフリーとか、

なんかちょっと変わってる人ばっかり。


シャイアンは豪邸で35年間、妻ジェーンと二人暮らし。

ジェーンは、シャイアンとは真逆の、明るくて活動的な女性で

スポーツ万能の消防士。

水を抜いたプールでやるハイアライ(スカッシュみたいな競技)では

シャイアンはいつも負けてばかりです。


解説ではシャイアンは「ひきこもり」とありましたが、

表舞台に出ていないだけで、ちゃんと外出もするし、コミュ障でもないし、

人の心配もするし、短パンはいてハイアライもするし、

何よりジェーンとすごく愛し合っているから、引きこもりでも鬱でもないと思います。


このジェーンがメイクを欠かせない夫とは対照的なノーメイク。

演じるフランシス・マグドーマンドは、「バーン・アフター・リーディング」でのジムの元気なおばちゃんでしたね。

メイクだけではなく、ほんとに潔い(女優とは思えない)すっぴんぶりはとっても素敵でした。


ある日、30年も音信不通だったアメリカに住む父が危篤だと聞き、

(飛行機が苦手で)アイルランドから船でニューヨークに渡ったため

ついた時にももう、父は帰らぬ人となっていました。


父の腕にきざまれた「212603」の数字。

そこは典型的なユダヤ人のコミュニティで、生前父は、アウシュビッツで酷い目にあわせられた

SSのアロイス・ランゲという男を探していたことを知ります。


そして、ランゲを探す旅が始まるのです。

彼が生きていたとしても、90歳以上だし、

前半の進展からは、この旅の成功度は限りなく低そうだったのですが
シャイアンの洞察力、推理力、実行力、そして「しつこさ」はかなりのもので、

わずかな手掛かりを元に、なかなかの探偵ぶりで、どんどんランゲの居場所に迫っていきます。


ニューヨーク→ミシガン州バットアクス→ニューメキシコ州アラモゴード→ユタ州ハンツヴィル

大陸横断に匹敵する大移動、父の宿敵を追うロードムービーの間も、

やっぱり風変わりな人たちが登場し、ひとつひとつに必然性は感じないものの

観る者を飽きさせません。

水が怖い肥満児トミーとのセッションは、唯一元ミュージシャンの顔をみせてくれます。

素敵なシーンでした。


ところで、なぜ父との縁を切ったのか。

15歳のとき、父から嫌われたと一方的に思って心を閉ざしてしまった。

子どもは一度思い込んだら後戻りできないこと、

そして自分は長いこと子どもでありすぎた

自分に子どもがいないのがずっと心の痛手だった

もう、遅すぎる・・・・・

そしてざめざめと涙を流すシャイアン。


「私はいつだってお前の一部だ」

この旅は、シャイアンの内なる父の姿に巡り合う旅でもありました。


銃をポケットにしのばせて

老いさらばえた宿敵と対峙したシャイアン。

銃声はカメラのシャッター音へと姿を変えて・・・・

おさまりのいい和解シーンを用意しないこともこの映画らしいです。


80年代のカリスマ的ミュージシャン、トーキング・ヘッズのディヴィッド・バーンを

全く知らなかったのはすごく残念でした。

白髪に全身白づくめの彼本人が歌う「This must be the place」はこの作品のタイトルでもあり、

まずはこの歌ありき、という感じがしたので。


前半の伏線らしきものもほとんど回収されず、脈絡なく脱線しつづける印象が強いんですが

私の大好きなトリビア(多分ホントのこと)もちりばめられていました。

「口紅を一日もたせる裏技」

「ユダヤ人に間違い電話が多い理由」

「旅行バッグに初めて車輪を付けた人はパイロット」・・・


「燃えちゃった高級車(キャデラックでしたっけ?)はどうなったの?」

とか

「テスコ株でもうかったのかな?」

とか気になる事も多いし、

私には意味不明のエピソードもかなりあったので

「すごく良かった」という資格もないんですが、

好きか嫌いかと言えば、「すごく好き」な作品です。


色んな人にオススメしていいものか?

それはちょっと悩みますが、ショーンペンに限っていえば、

「ミルク」のゲイの活動家、ハーヴィー・ミルクを上回る役作りだと思います。

うーん、やっぱりオススメです!