映画 「酔いがさめたら、うちに帰ろう」 平成22年11月公開  ★★★★☆

原作本 「酔いがさめたら、うちに帰ろう」 鴨志田 穣 スターツ出版  ★★★☆☆



読んで♪観て♪


戦場カメラマンとして世界中を駆け回ってきた塚原安行(浅野忠信)は、

人気漫画家の園田由紀(永作博美)と結婚し子どもにも恵まれるが、

彼のアルコール依存症が原因で離婚。

やがてアルコール病棟へ入院した安行は、そこで出会った人々との触れ合いに

不思議な安堵(あんど)感を覚える。

家族の深い愛情に支えられ、安行は穏やかな日々を取り戻すが……。 (シネマトゥデイ)



漫画家西原理恵子の私小説的ストーリーの映像化がたてつづけで

ちょっと驚いています。

「いけちゃんとぼく」「女の子ものがたり」に続いて今年は

「パーマネント野ばら」「毎日かあさん」そして本作。

(文句言いながらもすべて観てるわたし・・・・)

テレビで放映された「崖っぷちのエリー」もヒロインのモデルは西原さん本人ですね。


特に「毎日かあさん」と「酔いがさめたら・・・」は

元夫でアルコール依存症の元戦場カメラマンカモシダ氏との

離婚~別れまで、ほぼ同時期のできごとを

妻と夫、それぞれの視点で描いたものです。


漫画やアニメの知名度や元夫婦の小泉永瀬共演で

「毎日かあさん」のスクリーン数のほうが多いのでしょうが、

私は、断然「酔いがさめたら・・・・派」です。



読んで♪観て♪


サイバラ作品の笑いって、あんまりにも悲惨で

もうどうにもならなくて「笑うしかない」

映画「ノーマンズランド」に通じるような笑いだと思うんですが、

「毎日かあさん」では、「劇場内に笑い声をひびかせることをノルマ」

にしてるような、強引なギャグ的笑いをぶちこんでくるので

「ちょっと違うんでないの?」

と何度も思いました。


こちらは、西原→園田 鴨志田→塚原というように実名も使っていないのに

エピソードのひとつひとつがとても実話っぽい。

この実在の夫婦の雰囲気がとても出てると思いました。


冒頭で多量の血を吐き救急車で搬送される主人公。


「ごめん、またやっちゃったよ」

「だいじょうぶ、まだ死なないよ」

電話で呼び出された妻はちょっとも動じずにいいます。

「おしっこ逆流ゲーム」もたぶん実話なんでしょうが、

ある限度までは徹底的にふざけるサイバラさんらしさが出ていて

子どもたちの反応も〇でした。



γGPTの数値(確か正常値は50以下)が1800とか、

食道静脈瘤破裂による出血を内視鏡で止血するのとか、

アル中患者への飲み薬は与えるのではなくて

手のひらに乗せてその場で飲ませる事とか、

病院の対応がいちいち納得いくもので、勉強にもなりました。


アルコール依存症になった原因について

戦場で見聞きした悲惨な体験がトラウマになっているのでは・・との推測に

「地獄を見た人と、その中で暮らしている人。

より苦しいのはどちらでしょう」

という医師の言葉にはドキッとしましたし、

「アルコール依存症が他の病気と決定的に違うのは

誰にも同情してもらえないこと。場合によっては医師にまでも。

その覚悟をまずすることが必要です」


何人かの医師が登場するのですが、

タイプは違っても、それぞれに病気や患者と正面から向き合い

短かくても、患者やその家族を説得できる力をもった言葉を

発することができるのが名医なんだな。と思いました。


どうしても禁酒できない主人公は、自分の意思で

精神病院のアルコール病棟に入院するのですが、

そこの患者たちが個性的でものすごく面白い。



読んで♪観て♪


ほとんど、原作に書いてあるエピソードだから実話だと思うのですが、

長らく映画の世界で脇役を務めてきたようなベテラン役者さんたちの力で

ドキュメンタリーとドラマのせめぎ合いみたいな、不思議な気持ちになりました。

「精神病院」と聞くと、患者をすぐ拘束するとか、

職員が虐待してるんじゃないかとか、よからぬ想像をしてしまうのですが、

患者間で自治会長や書記や食事係がいたり、

退院間際の人は自分の体験をかたるスピーチがあったり、

そういうのも知る事ができました。


主人公夫婦のことだけでなく、関係ない他のアル中患者のストーリーとかが

このドラマにむしろ厚みを与えているように思います。


「毎日かあさん」では、妻が、漫画の連載をかかえながら子どもの世話をし

家事をし、問題児の元夫の世話を一手に引き受けているような印象だったのですが、

実際離婚後は夫の実母の家に住んで、入退院のつきそいなど

ほとんど母親がやっていたのですね(それを聞いて納得しました)


だからといって、サイバラさんの価値が下がるものではなく、

彼女は、カモシダ氏の心のよりどころで、大きな心の支えだったのでしょう。


「悲しみでいっぱいになると、

悲しいんだか嬉しいんだか、わからなくなります。

とにかく心の中が空っぽではなく、なにかで満たされているのですから」


心を満たしているのは悲しみのはずなのに

思わず微笑んでしまうのが彼女の強さなのでしょうか。


「まだあの子には居場所があるのね」


実母と元妻と子どもたちに見守られて旅だった彼はきっと幸福だったのでしょう。


粒ぞろいのいい役者さんたちのお陰で、

ダメ人間の悲惨な最期、のはずが、

とってもハートフルな瞬間に立ち会えたような感覚です。