映画 「私の中のあなた」 平成21年10月9日公開予定 ★★★★☆ → 私の中のあなた②
原作本 「わたしのなかのあなた」 ジョディ・ピコー作 早川書房
 ★★★★★

読んで♪観て♪

重い白血病のケイトのドナーとするために、遺伝子操作で誕生した妹アナ。
臍帯血や骨髄など、幼いアナはたびたび姉のために
その組織の一部を提供してきました。
治療の副作用のために腎不全を起こした姉のために、
今度は片方の腎臓を姉に提供するよういわれます。
13歳になったアナはそれを拒否し、
なんと弁護士を雇って、実の親を相手取って
訴訟を起こす・・・・・
デザイナーベイビーという単語も扇情的で、
医学の技術向上によって増えた選択肢がもたらした
新たな問題点を指摘する社会派ドラマ?
と思ったのですが、
そんな客観的なドラマではありませんでした。

母親サラ、父親ブライアン、兄のジェシー、そしてアナ。
さらにアナの後見人のジュリア、弁護士のキャンベル・・・
それぞれの視点でモノローグのようにストーリーが語られ、
どの人物にも深く共感できるので、
何が正しいのか、誰が攻撃されるべきなのか
分からなくなってきます。

そして、予想もできなかったエンディングへ。
ラストを知った上で、もう一度読み返すと、
最初には気づかなかった、いくつかの表現が、
実は〇〇だったのか!と気づいて、晩年のクリスティ作品のような
心理ミステリー小説の香りもします。

この小説の中には、
ケイトとアナ以外にも、母親サラと姉のスザンヌ、
後見人のジュリアと双子の姉のイザベルという
三組の姉妹が登場します。
姉妹という、同じ両親の遺伝子をひきついだ宿命的な関係が、
内部からあぶりだされるような文章もすばらしい。

映画のほうは「泣ける映画」として宣伝してるみたいですが、
これ、かなり重い題材です。
「泣いてすっきり」なんてことはないと思う。

一人の人間の命が何より大切、といいながら、
実際には日常的にトリアージが行われています。
母体を守るための堕胎、多胎妊娠の間引き、
災害現場では、救助される人より救助する人の命が優先されるし、
同様に、レシピエントよりドナーの安全が優先されるのも常識です。
なのに、「そのために生まれてきた」アナは自分の意思も確認されないまま
姉の犠牲になってきました。
13歳の少女が親を訴えるなんて、日本では考えられないけれど、
裁判にならないと見えてこないこともあります。
ともかく、何度も何度も
「あなたはどう考えるの?」「なんでそう思うの?」
と問われているように感じました。
なんだか裁判員として自分も参加しているようでした。

映画では、スザンヌやイザベラまで登場するかはわかりませんが、
もうすこし整理して「わかりやすい」ストーリーになっているのかな?

映画を見て、また原作に戻ってみたい・・・そんな本でした。