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地獄の裁判官はやさしすぎ

本堂
本堂

閻魔さまをお祀りし、祈願する心根とは何処ぞにあるのだろう。何しろ地獄の裁判官であり、ウソをついたら舌を引っこ抜かれるのである。何かをお願いするにしても、相当な覚悟がいるような気がするのだが、文京区に「こんにゃくえんま」という異名を持つ人気のあるえんまさまが鎮座する。夏目漱石や樋口一葉の小説、落語にも登場する庶民的な地獄の仏さまにはどんなご縁が求められているのだろう。

○片目のえんまさま

正面入口
正面入口

「常光山 向西院 源覚寺」がこんにゃく閻魔の正式名称である。ご本尊は阿弥陀如来、観音菩薩と勢至菩薩を従えた阿弥陀三尊像として祀られている。少し本題からは逸れるが、仏像の祀り方として有名な形である阿弥陀三尊の、左側・観音菩薩は慈悲を、右側・勢至菩薩は智慧を表していて、国宝となっている阿弥陀三尊像も多い。ちなみにこれは善光寺の本尊に倣っているらしい。これ以外でも、釈迦三尊像とか薬師三尊像など三体仏さまを並べて祀るのが日本人はお気に入りである。

絵馬
絵馬

で、ご本尊よりえんまさまが有名になった話は、江戸時代。目を悪くした老婆が、閻魔大王に21日祈願を行ったところ、夢の中に大王が現れ「満願成就の際には自分の片目を与える」と言ったとか。その通り21日目に目の治った老婆は、以来好物だった「こんにゃく」を断って閻魔大王に供え続けた…という言い伝えから「こんにゃくえんま」と呼ばれ親しまれるようになったと言われている。実際、こちらのえんまさまの目は左右で色が違っている。右目が潰れた目ということか。
これを機に、眼病治癒祈願の参拝者が後を断たなくなった。
加えて、境内には塩地蔵も鎮座する。こちらのお地蔵さまは病気平癒祈願として、自分の体の悪い部分と同じところに塩を塗って祈願するとご利益があると言われている。お地蔵さんは塩まみれで、体がほとんど隠れてしまっている。特に歯痛に効果が高いようだ。蛇足だが、「塩」つながりで、お相撲さんも祈願に来られるようだ。

※21日祈願とは、日切祈願のひとつで、1週間(7日)祈願が最も短いバージョン。お願い度の強さによってその2倍(14日)と3倍(21日)が選ばれる。これは毎日休むことなく祈願する、というもので途切れたら始めからやり直しである。最初に「○日祈願を行う!」と宣言して始める。ちなみに、八百屋お七の恋のお相手・吉三は、お七の供養のために一万日!(27.4年)の日切祈願を行った。らしい。

○閻魔信仰は何のため?

塩地蔵
塩地蔵

都内には「こんにゃく閻魔」と呼ばれるえんまさまはいくつか存在している。源覚寺にあやかって祀ったのか、詳細は不明だがいずれもこんにゃくを供えるということからいろいろ調べてみたら、えんまさまは、こんにゃくが好物なのだという。その理由が、裏表がないから。たしかに…そうだけど、もう少し贅沢なものでもよかったんじゃないかと…。こんにゃくの感触が「舌」に似てるからじゃない?と言う人まで…怖いわそれは。
えんまさまは、「閻魔」になる前は人間だったとかで、初めて死んだ人間なのだそうだ。生きている間はすごく人の良い青年だったため、本来は地獄行きの悪人を天界などに送ってしまい、その甘さゆえ10人いる裁判官の中で5番目の地位へと下げられた。最近はマンガなどで地獄の十王たちは、わりかし有名になったが、えんまさま以外が普通に祀られているのをみたことがない。鎌倉の円応寺には十王が祀られるが、これとてえんまさまが有名なお寺である。やっぱり、えんまさまが人がよく、罪を軽くしてくれる…という噂が巷で流れたせいであろう。生前にお知り合いになっておくと万が一の(地獄に堕ちた)時、何かと便宜を図ってもらえるかも…という気持ちから爆発的な閻魔信仰になっていった気がする。

サイパンから戻った鐘
サイパンから戻った鐘

今でもここ源覚寺には、熱心にお参りに来られる人が多い。私が訪ねたのは平日だったが、お堂の前で長いこと手を合わせているご婦人が何人もいらした。今も昔も眼病はやっかいである。むしろ江戸時代以上に、目を患うと生きにくい世の中かもしれない。
忘れていたが、こちらは小石川七福神の毘沙門天も祀っている。また、外人さんが多いなぁと思っていたら、昭和初期サイパン島のお寺に寄進した鐘が、巡り巡って40年近くたってからオークランドから戻ってきたという話もあった。きっとロンリープラネットにでもそのことが載っているのだろう。

毘沙門堂
毘沙門堂