バク 第12話 白昼夢(2)
ブランコっていうものは好きだ。
たまに、ついつい乗ってみたくなる。小学生の頃、よく靴を飛ばして遊んでいた。誰が一番遠くまで飛ばせるかを競うのだ。俺らが小学校の時はすでにあった遊びだったので、昔からある遊びなのだろう。誰が考え出したか分からないが、いいアイディアだ。
しかし、子供っていうのは飽きるともっと楽しいことはないかと考え出す生き物だ。靴飛ばしに飽きると、今度は乗ってる本人が飛ぶ、という遊びになった。今度は飛んでいくのは人間なので、靴飛ばしよりもリスクが伴う。よく転んで擦りむいていたやつがいた。
高校生なのに、ブランコを見つけると俺は乗ってみた。
軽く漕いでみる。
自分の重さも作用して、ブランコが動き出した。不思議なもので、傍から見ると、いじけているように見えてしまう。おそらく、年齢と一人っていうことが助長しているのだろうが。
始めてくる公園のようだ。何かの帰りに立ち寄ったらしい。
ブランコの前の方には、あまり広くもない砂場があり、小さな子供たちが遊んでいる。どうやら、砂の城でも作ろうとしているらしい。
俺はこの時間帯なら大丈夫だと思い、タバコを吸った。だが、失敗だった。これでは、本当にいじけているように見えてしまう。だが、目撃者は小さな子供達だけだ。なんの問題もない。
だが、子供ではない目撃者もいたようだ。
「制服着たまま、タバコ吸っていいんですか?」
気づくと、隣のブランコに見知らぬ女性が腰をかけていた。小さなミニチュアダックスフンドを連れている。小型犬というのは不思議だ。大人になってもあまり大きさが変わらないため、年齢が分からない。
「・・・」
答えると、何かと面倒だと思い、俺はシカトした。シカトする変わりに、犬の行動を見守った。俺の方に寄ってこない様子を見ると、あまり人懐っこいわけではなさそうだ。何かを探しているかのように、忙しくなく地面の匂いを嗅いでいる。
沙希でもいれば、話しかけるのだろうが、俺は黙っていた。俺はやつほど他人に興味がない。
「犬は好きですか?」
困ったことに、隣人は懲りずに話しかけてきた。とりあえず、隣人の姿を見てみる。
美人だった。
けど、どことなく年はくってるような気がした。もしかしたら、既婚者なのかもしれない。家で犬を飼っていて、散歩の途中でこの公園に立ち寄ったのかもしれない。
一度目の問い掛けをシカとすれば、大抵は諦めるものなのだが、この美人さんは二度目の試みに出てきた。ここでまたシカトをすると、俺が嫌な人に見えてしまうかもな。人嫌いな俺らしくなく、問い掛けに答えてみた。
「・・・好きですよ。」
美人さんは若干嬉しそうな感じで笑った。笑うと笑い皴が出来るようで、人懐っこさを感じ取れる。飼い主と犬は逆であるようだ。
「ここに昼間から学生さんがいるなんて珍しいですね。」
「・・・そうですか。」
「珍しいですよ。今は学校の時間のハズだし、その学生さんは堂々とタバコ吸ってるんですもの。」
「学生服着て、タバコ吸えば珍しいんですね?覚えておきます。」
美人さんは笑った。今のは完全に嫌味を言ったわけなのだが、笑ってくれた。天然さんなのだろうか。
そして、ちょっとの間だけ沈黙が訪れた。時間を計っていたわけでもないので、どのくらいの時間が経ったか分からなかった。でも、時間なんて気にならなかった。その理由はこの美人さんが出す、落ち着くような不思議な空間のせいだろう。
「なんて名前の犬なんですか?」
犬のことなんてよく分からないし、名前を聞いたところで、俺の今後の人生に役に立つなんて思えないが、一応聞いてみた。犬を連れているのだから、犬に何かしらの興味を抱けば、本人は喜ぶだろうと思った。
「言っても、あなた忘れそう。」
人妻さんは笑いながら言った。まるで俺の心を読んでるかのような言い方だった。天然に見えるが、逆に頭がキレるのかもしれないな。俺の考えすぎなのかもしれないが。
ブランコから腰を上げて、白と黒のチェックの柄のスカートを調えながら、美人さんは去り際に、こう言った。
「ナルっていう名前なんですよ、このこ。」
ナル、と聞いたら、ナルシストぐらいしか単語が出てこない俺は、語彙力が乏しいのだろう。だが、これで子供の犬ということが今更ながら分かった。まあ、今後会うことはないのかもしれないが。
「ナル・・・」
俺は声に出してみた。すると、さっきまで我関せずのスタンスを取っていた犬、というかナルが尻尾を振りながら、俺に近づいてきた。犬のくせに人見知りなのかな、と思いながらナルの頭を撫でてあげた。
美人さんが首の縄を少し引っ張ると、ナルはすぐに飼い主の下に戻った。しつけがなっているのだろう。
「あなたとまたどこかでお会いしそうですね。」
「俺もそんな気がしますよ。」
美人さんは公園を出て行った。残った俺はブランコから腰を上げ、タバコをもう一本吸い、後を追うようにして、公園から出て行った。
よかったら、クリックお願いします!


たまに、ついつい乗ってみたくなる。小学生の頃、よく靴を飛ばして遊んでいた。誰が一番遠くまで飛ばせるかを競うのだ。俺らが小学校の時はすでにあった遊びだったので、昔からある遊びなのだろう。誰が考え出したか分からないが、いいアイディアだ。
しかし、子供っていうのは飽きるともっと楽しいことはないかと考え出す生き物だ。靴飛ばしに飽きると、今度は乗ってる本人が飛ぶ、という遊びになった。今度は飛んでいくのは人間なので、靴飛ばしよりもリスクが伴う。よく転んで擦りむいていたやつがいた。
高校生なのに、ブランコを見つけると俺は乗ってみた。
軽く漕いでみる。
自分の重さも作用して、ブランコが動き出した。不思議なもので、傍から見ると、いじけているように見えてしまう。おそらく、年齢と一人っていうことが助長しているのだろうが。
始めてくる公園のようだ。何かの帰りに立ち寄ったらしい。
ブランコの前の方には、あまり広くもない砂場があり、小さな子供たちが遊んでいる。どうやら、砂の城でも作ろうとしているらしい。
俺はこの時間帯なら大丈夫だと思い、タバコを吸った。だが、失敗だった。これでは、本当にいじけているように見えてしまう。だが、目撃者は小さな子供達だけだ。なんの問題もない。
だが、子供ではない目撃者もいたようだ。
「制服着たまま、タバコ吸っていいんですか?」
気づくと、隣のブランコに見知らぬ女性が腰をかけていた。小さなミニチュアダックスフンドを連れている。小型犬というのは不思議だ。大人になってもあまり大きさが変わらないため、年齢が分からない。
「・・・」
答えると、何かと面倒だと思い、俺はシカトした。シカトする変わりに、犬の行動を見守った。俺の方に寄ってこない様子を見ると、あまり人懐っこいわけではなさそうだ。何かを探しているかのように、忙しくなく地面の匂いを嗅いでいる。
沙希でもいれば、話しかけるのだろうが、俺は黙っていた。俺はやつほど他人に興味がない。
「犬は好きですか?」
困ったことに、隣人は懲りずに話しかけてきた。とりあえず、隣人の姿を見てみる。
美人だった。
けど、どことなく年はくってるような気がした。もしかしたら、既婚者なのかもしれない。家で犬を飼っていて、散歩の途中でこの公園に立ち寄ったのかもしれない。
一度目の問い掛けをシカとすれば、大抵は諦めるものなのだが、この美人さんは二度目の試みに出てきた。ここでまたシカトをすると、俺が嫌な人に見えてしまうかもな。人嫌いな俺らしくなく、問い掛けに答えてみた。
「・・・好きですよ。」
美人さんは若干嬉しそうな感じで笑った。笑うと笑い皴が出来るようで、人懐っこさを感じ取れる。飼い主と犬は逆であるようだ。
「ここに昼間から学生さんがいるなんて珍しいですね。」
「・・・そうですか。」
「珍しいですよ。今は学校の時間のハズだし、その学生さんは堂々とタバコ吸ってるんですもの。」
「学生服着て、タバコ吸えば珍しいんですね?覚えておきます。」
美人さんは笑った。今のは完全に嫌味を言ったわけなのだが、笑ってくれた。天然さんなのだろうか。
そして、ちょっとの間だけ沈黙が訪れた。時間を計っていたわけでもないので、どのくらいの時間が経ったか分からなかった。でも、時間なんて気にならなかった。その理由はこの美人さんが出す、落ち着くような不思議な空間のせいだろう。
「なんて名前の犬なんですか?」
犬のことなんてよく分からないし、名前を聞いたところで、俺の今後の人生に役に立つなんて思えないが、一応聞いてみた。犬を連れているのだから、犬に何かしらの興味を抱けば、本人は喜ぶだろうと思った。
「言っても、あなた忘れそう。」
人妻さんは笑いながら言った。まるで俺の心を読んでるかのような言い方だった。天然に見えるが、逆に頭がキレるのかもしれないな。俺の考えすぎなのかもしれないが。
ブランコから腰を上げて、白と黒のチェックの柄のスカートを調えながら、美人さんは去り際に、こう言った。
「ナルっていう名前なんですよ、このこ。」
ナル、と聞いたら、ナルシストぐらいしか単語が出てこない俺は、語彙力が乏しいのだろう。だが、これで子供の犬ということが今更ながら分かった。まあ、今後会うことはないのかもしれないが。
「ナル・・・」
俺は声に出してみた。すると、さっきまで我関せずのスタンスを取っていた犬、というかナルが尻尾を振りながら、俺に近づいてきた。犬のくせに人見知りなのかな、と思いながらナルの頭を撫でてあげた。
美人さんが首の縄を少し引っ張ると、ナルはすぐに飼い主の下に戻った。しつけがなっているのだろう。
「あなたとまたどこかでお会いしそうですね。」
「俺もそんな気がしますよ。」
美人さんは公園を出て行った。残った俺はブランコから腰を上げ、タバコをもう一本吸い、後を追うようにして、公園から出て行った。
よかったら、クリックお願いします!
バク 第11話 白昼夢(1)
「それはさー、正夢ってやつじゃないのー?」
相変わらず語尾を伸ばしながら、伸一は言った。こやつと話してると、日常生活という現実がどうでもよくなってくる。のんびりした話し方、やたらと落ち着く空間の共有、さらには綺麗な顔立ち。俺はホモじゃないからまだ大丈夫だが、これらの要素に女の子はやられるのだろう。
今は授業の間にある休み時間だ。俺らの学校は15分の休みがそれぞれの授業の間にある。教室移動、トイレ休憩などに費やすためだ。昼休みは一時間ほどある。深影は1時間の昼休みでさえも短すぎると言っていた。もっとのんびり過ごしたいのだと。顔がふけていることと密接な関係があるのかと思ったが、どうやら関係ないらしい。当たり前といえば当たり前だが。
休み時間に、この前の沙希との一件を話してみたのだが、伸一が言うには正夢ではないのか、ということだ。
「そうなのかなあ。初夢だけどさ、俺あまり覚えてないんだよね。」
「そんなこと言ってー、俺と深影が帰ってきたら、あんさん真っ先に言ったじゃんかー。」
「でもなー、もう結構前のことだし。」
「本人がこの調子だもんなー。」
伸一はさっきから窓の淵に腰をかけている。本人が言うには、一番落ち着く場所らしい。背中からは日光が当たり、体にいいとのことだ。服を着ているのだから、あまり関係のないような気もしないでもないが。俺は机の中から次の授業の教科書とノートを出しながら、正夢って言っても、あまりいいことなかったぞ、と言った。
「いいことあったじゃないー。」
「・・・なにが?」
「愛しの沙希ちゃんとデートしたじゃないー。」
あほか、と伸一の頭をこつき、俺はそそくさと次の教室に向かった。その後から、のっそりと伸一が追いかけてきた。深影はすでに教室に移動していた。昼休みの長さに苦情を抱いているぐらいだから、15分というのはさぞかし短い時間なのだろう。
次の授業は化学だった。科学ではなく化学だ。何が違うのかというと、科学の方は酸素やら水素やら元素の他にも、遺伝とか動物の生態などの生物関係、さらには白亜紀やらジュラ紀やら地震のメカニズムなどの地学などがごっちゃ混ぜになってるわけである。浅く広くという感じが科学だ。伸一などの優等生いわく、科学は難しくないけど、化学ってなると元素とか実験ばっかりだから面白いよねー、と気でも狂ってるような事を言う。こっちにしてみたら、覚えることがたくさんありすぎて死にそうだというのに。
しかし、化学の実験は好きだった。
退屈な教室での黒板との睨めっこと違って、動きが加わることもそうだが、なんと言っても担当の教員がいいキャラをしていたからだ。
田中という教員なのだが、いつも白衣を着ている。別に白衣というのは珍しくはない。この学校では科学関係の教員はすべて白衣を着ている。そして、登山にでも使えばちょうどいいぐらいの長い木の棒を常備している。
別にこれは生徒に対する体罰用の棒ではない。黒板で説明する時に使うものだ。
今日はイオンの実験である。異なる二つの物質を合わせると、ちょっと変わった現象が起こるというやつだ。何の物質と何の物質を合わせるのか忘れたが、その反応は何か白い沈殿物が生じるという不思議な現象である。
田中が説明をする。
「今の沈殿物が起こる現象をチンダル現象といいます。」
チンダル。
たぶん、チンダルという名前の学者が発見したから、このような名前がつけられたのであろうが、ちょっと男にしか分からない卑猥さを感じてしまう。
さすがは男子校。
ところどころで、笑い声が起こる。全部で八つのグループに分かれているのだが、メンツを見てみると誰が下ネタを話したのかが大体分かった。幸い、うちのグループには下ネタが好きなのが俺しかいないため、誰もが言うに言い出せないという感じであった。
「これは非常に重要な現象ですよ。・・・ちなみに、どこがダルい、というわけではありません。」
教室中が爆笑した。
さすがは、田中である。真顔でこのようなギャグを言うところが、ただならぬセンスを感じる。こんなナイスミドルになれたらいいな、などと考える。
化学の授業は俺が唯一始めから最後まで起き続けていられる授業である。しかし、この後昼休みを挟んだ後に行われる、家庭科という授業は本気で寝る。
家庭科とか、女でもないんだから男は別に頑張らなくてもいいじゃないかって思う。男は稼げばいいのだ。女は炊事洗濯を家でやっていてくれればいいのだ。
このようなことを言うと、女々しいほど家庭的な深影はフェミニストを敵に回すぞ、と変な脅しをかけてくるのであった。今は女性の社会進出もうんたらかんたら、などとグダグダと説教を始めるのであった。
日本の社会などどうでもいい。今の俺の一番の問題は家庭科をサボるかどうするか、ということである。とりあえず、化学の実験が終わると、屋上に行った。
「お、魁人じゃんか。」
屋上に行くと、先客がいた。
この黒縁のメガネをかけた男は、鮫島隼人という。茶髪で、前髪の長さが左右で違う、アシンメトリーという髪型をしている。サイドは刈られていて、ツーブロックである。目は綺麗な二重であるが、若干つりあがっているため、ちょっとキツいイメージを抱くかもしれない。
性格はキツくはない。が、かなりのB型特有の性格をしている。興味のあるものには興味を持つが、もたないものに対してはシカトぐらい相手にしない。
最初は絶対に友達になれないだろうな、とか思っていたが、気づいたら家にも遊びに行くほどの友達になっていた。
「珍しいな、お前がここでタバコ吸うなんてよ。」
隼人が学校でタバコを吸うなんて稀だ。
こいつの家は学校のすぐ近くなので、いつも昼休みになったら勝手に抜け出して安全に家で一服するのであるのだが。
「ここにいれば、魁人に会えるって思ってよ。・・・なんてな。」
「俺もここに来れば、隼人に会えるって思ってよ。・・・なんてな。」
「マネするな。」
「真面目な話する時の、お前の癖だろ。その口癖があるから女に持てないんじゃないか?」
「ふん。ヤラハタ迎えそうなお前に言われたくないな。」
ああいえば、こう言う。
いつもの俺と隼人の絡みだ。何の変わりもない。
「まあ、お前にはどっちみち会おうと思ってたんだけどな。」
「そうなのか?」
「お前、柿崎さんって覚えてる?」
「ああ。」
柿崎さんっていうのは、中学校の時の先輩だ。野球部のキャプテンでもあり、当時から喧嘩が強くて有名だった。高校に行くと、怪我か何かで野球を辞めて、それから非行に走ったらしい。元から腕っ節は強かったから、すぐに有名になり、「クローバー」という、いわゆる族というかチームを作ったらしい。
恐喝、暴行、万引き、レイプ、シンナー、ドラッグ。
非行と呼ばれる代表的なものにはほとんど手を出していたらしい。チームの頭ということもあり、警察からはマークされていて、何回か少年院を出入りしているらしいが。
仲良くはないが、有名ということもあり、噂は色々と聞いていた。
「ネンショウから出てきたらしい。」
「出てくるも何も、あの人ネンショウの常連じゃねえか。出てくるだけで、あまり驚きはしないんだが。」
「まあな。でも、何かすごいらしい。」
「・・・すごい?」
「喧嘩したら絶対に負けないらしい。まあ、元から強いから不思議じゃないんだけどさ。すごいのは、喧嘩するんだけど、普通は何発か喰らうわけじゃねえか。でも、柿崎さんはどんなやつが相手でも一発も、かすることもしないで、くらわないんだとさ。全部避けちまうんだと。まるで相手がどこを狙ってくるか知ってるかのように。」
「ほう・・・そりゃすごいな。ボクシングで世界とか楽勝で取れそうだな。」
「・・・まあ、夜とか注意した方がいいと思ってな。お前の場合、沙希ちゃんが心配だと思ってな。大丈夫だとは思うが、一応気をつけるように言っておけよ。」
「たぶん、大丈夫だとは思うが、一応言っておくわ。わざわざサンキューな。」
「はやく童貞すてろよ。」
「大きなお世話じゃ。」
隼人と別れて、俺は教室に戻った。まだ時間があるので、出歩いてるやつも目立つ。
授業が始まると、昼間ということもあり、授業が退屈すぎるということもあり、気がつくと、俺は寝ていた。
よかったら、クリックお願いします!


相変わらず語尾を伸ばしながら、伸一は言った。こやつと話してると、日常生活という現実がどうでもよくなってくる。のんびりした話し方、やたらと落ち着く空間の共有、さらには綺麗な顔立ち。俺はホモじゃないからまだ大丈夫だが、これらの要素に女の子はやられるのだろう。
今は授業の間にある休み時間だ。俺らの学校は15分の休みがそれぞれの授業の間にある。教室移動、トイレ休憩などに費やすためだ。昼休みは一時間ほどある。深影は1時間の昼休みでさえも短すぎると言っていた。もっとのんびり過ごしたいのだと。顔がふけていることと密接な関係があるのかと思ったが、どうやら関係ないらしい。当たり前といえば当たり前だが。
休み時間に、この前の沙希との一件を話してみたのだが、伸一が言うには正夢ではないのか、ということだ。
「そうなのかなあ。初夢だけどさ、俺あまり覚えてないんだよね。」
「そんなこと言ってー、俺と深影が帰ってきたら、あんさん真っ先に言ったじゃんかー。」
「でもなー、もう結構前のことだし。」
「本人がこの調子だもんなー。」
伸一はさっきから窓の淵に腰をかけている。本人が言うには、一番落ち着く場所らしい。背中からは日光が当たり、体にいいとのことだ。服を着ているのだから、あまり関係のないような気もしないでもないが。俺は机の中から次の授業の教科書とノートを出しながら、正夢って言っても、あまりいいことなかったぞ、と言った。
「いいことあったじゃないー。」
「・・・なにが?」
「愛しの沙希ちゃんとデートしたじゃないー。」
あほか、と伸一の頭をこつき、俺はそそくさと次の教室に向かった。その後から、のっそりと伸一が追いかけてきた。深影はすでに教室に移動していた。昼休みの長さに苦情を抱いているぐらいだから、15分というのはさぞかし短い時間なのだろう。
次の授業は化学だった。科学ではなく化学だ。何が違うのかというと、科学の方は酸素やら水素やら元素の他にも、遺伝とか動物の生態などの生物関係、さらには白亜紀やらジュラ紀やら地震のメカニズムなどの地学などがごっちゃ混ぜになってるわけである。浅く広くという感じが科学だ。伸一などの優等生いわく、科学は難しくないけど、化学ってなると元素とか実験ばっかりだから面白いよねー、と気でも狂ってるような事を言う。こっちにしてみたら、覚えることがたくさんありすぎて死にそうだというのに。
しかし、化学の実験は好きだった。
退屈な教室での黒板との睨めっこと違って、動きが加わることもそうだが、なんと言っても担当の教員がいいキャラをしていたからだ。
田中という教員なのだが、いつも白衣を着ている。別に白衣というのは珍しくはない。この学校では科学関係の教員はすべて白衣を着ている。そして、登山にでも使えばちょうどいいぐらいの長い木の棒を常備している。
別にこれは生徒に対する体罰用の棒ではない。黒板で説明する時に使うものだ。
今日はイオンの実験である。異なる二つの物質を合わせると、ちょっと変わった現象が起こるというやつだ。何の物質と何の物質を合わせるのか忘れたが、その反応は何か白い沈殿物が生じるという不思議な現象である。
田中が説明をする。
「今の沈殿物が起こる現象をチンダル現象といいます。」
チンダル。
たぶん、チンダルという名前の学者が発見したから、このような名前がつけられたのであろうが、ちょっと男にしか分からない卑猥さを感じてしまう。
さすがは男子校。
ところどころで、笑い声が起こる。全部で八つのグループに分かれているのだが、メンツを見てみると誰が下ネタを話したのかが大体分かった。幸い、うちのグループには下ネタが好きなのが俺しかいないため、誰もが言うに言い出せないという感じであった。
「これは非常に重要な現象ですよ。・・・ちなみに、どこがダルい、というわけではありません。」
教室中が爆笑した。
さすがは、田中である。真顔でこのようなギャグを言うところが、ただならぬセンスを感じる。こんなナイスミドルになれたらいいな、などと考える。
化学の授業は俺が唯一始めから最後まで起き続けていられる授業である。しかし、この後昼休みを挟んだ後に行われる、家庭科という授業は本気で寝る。
家庭科とか、女でもないんだから男は別に頑張らなくてもいいじゃないかって思う。男は稼げばいいのだ。女は炊事洗濯を家でやっていてくれればいいのだ。
このようなことを言うと、女々しいほど家庭的な深影はフェミニストを敵に回すぞ、と変な脅しをかけてくるのであった。今は女性の社会進出もうんたらかんたら、などとグダグダと説教を始めるのであった。
日本の社会などどうでもいい。今の俺の一番の問題は家庭科をサボるかどうするか、ということである。とりあえず、化学の実験が終わると、屋上に行った。
「お、魁人じゃんか。」
屋上に行くと、先客がいた。
この黒縁のメガネをかけた男は、鮫島隼人という。茶髪で、前髪の長さが左右で違う、アシンメトリーという髪型をしている。サイドは刈られていて、ツーブロックである。目は綺麗な二重であるが、若干つりあがっているため、ちょっとキツいイメージを抱くかもしれない。
性格はキツくはない。が、かなりのB型特有の性格をしている。興味のあるものには興味を持つが、もたないものに対してはシカトぐらい相手にしない。
最初は絶対に友達になれないだろうな、とか思っていたが、気づいたら家にも遊びに行くほどの友達になっていた。
「珍しいな、お前がここでタバコ吸うなんてよ。」
隼人が学校でタバコを吸うなんて稀だ。
こいつの家は学校のすぐ近くなので、いつも昼休みになったら勝手に抜け出して安全に家で一服するのであるのだが。
「ここにいれば、魁人に会えるって思ってよ。・・・なんてな。」
「俺もここに来れば、隼人に会えるって思ってよ。・・・なんてな。」
「マネするな。」
「真面目な話する時の、お前の癖だろ。その口癖があるから女に持てないんじゃないか?」
「ふん。ヤラハタ迎えそうなお前に言われたくないな。」
ああいえば、こう言う。
いつもの俺と隼人の絡みだ。何の変わりもない。
「まあ、お前にはどっちみち会おうと思ってたんだけどな。」
「そうなのか?」
「お前、柿崎さんって覚えてる?」
「ああ。」
柿崎さんっていうのは、中学校の時の先輩だ。野球部のキャプテンでもあり、当時から喧嘩が強くて有名だった。高校に行くと、怪我か何かで野球を辞めて、それから非行に走ったらしい。元から腕っ節は強かったから、すぐに有名になり、「クローバー」という、いわゆる族というかチームを作ったらしい。
恐喝、暴行、万引き、レイプ、シンナー、ドラッグ。
非行と呼ばれる代表的なものにはほとんど手を出していたらしい。チームの頭ということもあり、警察からはマークされていて、何回か少年院を出入りしているらしいが。
仲良くはないが、有名ということもあり、噂は色々と聞いていた。
「ネンショウから出てきたらしい。」
「出てくるも何も、あの人ネンショウの常連じゃねえか。出てくるだけで、あまり驚きはしないんだが。」
「まあな。でも、何かすごいらしい。」
「・・・すごい?」
「喧嘩したら絶対に負けないらしい。まあ、元から強いから不思議じゃないんだけどさ。すごいのは、喧嘩するんだけど、普通は何発か喰らうわけじゃねえか。でも、柿崎さんはどんなやつが相手でも一発も、かすることもしないで、くらわないんだとさ。全部避けちまうんだと。まるで相手がどこを狙ってくるか知ってるかのように。」
「ほう・・・そりゃすごいな。ボクシングで世界とか楽勝で取れそうだな。」
「・・・まあ、夜とか注意した方がいいと思ってな。お前の場合、沙希ちゃんが心配だと思ってな。大丈夫だとは思うが、一応気をつけるように言っておけよ。」
「たぶん、大丈夫だとは思うが、一応言っておくわ。わざわざサンキューな。」
「はやく童貞すてろよ。」
「大きなお世話じゃ。」
隼人と別れて、俺は教室に戻った。まだ時間があるので、出歩いてるやつも目立つ。
授業が始まると、昼間ということもあり、授業が退屈すぎるということもあり、気がつくと、俺は寝ていた。
よかったら、クリックお願いします!
