1.カリブ海の小国ジャマイカの現実


 

「中南米に沸き起こる反グローバリゼーションのうねり」について報告した8月の合同研修の後で、「ジャマイカ 楽園の真実」というミニシアター系で話題になった映画を借りてみた。ジャマイカというと、さんさん と降り注ぐ太陽の光に紺碧の海と白い砂浜、ゆったりと心地よいリズムを響かせるレゲエが浜辺に流れる、「南の楽園」というイメージがある。日本人にとって の沖縄のリゾートビーチやハワイのワイキキビーチの存在と同じように、アメリカ人にとっては、ジャマイカがそうした「南の楽園」のイメージなのだ。しか し、どこもそうであるように、「楽園」と呼ぶにふさわしい地域は、大手資本によって作られたごく一部の、点ほどの場所に過ぎない。アメリカから来た観光客 は飛行場に降り立つと、車で足早に「楽園」地帯へと運ばれていく。そして、アメリカ資本がつくった「楽園」リゾートで、アメリカから運び込まれた食材を、 多少は現地風にアレンジした料理で食べ、能天気なアメリカ人観光客たちは「南の楽園」を堪能して帰るのだ。


 

この映画が描くのは、こうした「楽園」イメージの裏側に横たわる現実の姿、つまりアメリカを中心としたグローバリゼーションという特大の「ハリケーン」によって、カリブ海の北から押し寄せる巨大資本の「大波」に飲み込まれ、もみくちゃにされる小国の現実なのだ。

 

 

 

2.IMF、WTOがすすめるグローバリゼーション


 

歴史を紐解くと、長い間イギリスの植民地であったジャマイカが独立したのは1962年。同じ頃、中南米やアフリカの諸国の多くも欧米の先進国の桎梏を離れて独立した。しかし、その悲劇の序章はそこから始まっていた。


 

新興の独立国は国を運営しようにも資本がない。そのため、勢い国際的な金融組織からの特別の融資を受ける。というか、受けるように仕向けられるといった方が正確だろう。その組織というのが、第2次大戦後の国際体制の一翼を担ってきたIMF(国際通貨体制)である。 17%の出資を行うアメリカを筆頭に、日本も含め先進国が出資額に応じて理事会の議決権を持つ。戦後復興にそれなりに寄与した国際組織なのだが、次第に変 質し、先進資本主義国(貸し手の国)に有利な理事会運営がされるようになった。


 

たとえば、金利の問題。国同士であろうが、個人同士であろうが、同じ資本主義の体制の中では、同じ道理が働く。つまり貧しくてすぐにで も金がほしいところに対して高金利をつける。ジャマイカが借りた金にも、(日本のサラ金並みの)20%というレベルの高金利が!しかも百数十項目にもおよ ぶ国内経済の規制撤廃の条件もつく。国内の産業の育成どころか、先進国の企業資本が入り込みやすいような地ならしのための「ひも付きの金」なのである。だ から、金を借りるたびに、「安いものを国内の消費者に!」「国際競争力をつけるために!」というような、もっともらいしい主張を楯に、国内農業や産業の育 成のためにとられていた貿易規制の「防波堤」が取り除かれ、国内の農業や産業は壊滅状態に追い込まれる。そこに、たとえばマクドナルドやドールのようなア メリカの巨大資本が入り込み、輸出補助金を受けたアメリカ産の輸入農産物を持ち込み、国内の農産物を駆逐し、資本力が是弱な国内の食品企業をなぎ倒してい く。だから、当然のこと国内に外貨はたまらず、国としての借金ばかりが増えて行き、さらに国内経済は圧迫を受ける。ジャマイカに限らず、このような悪循環 の構図が、現在のWTOという国際自由貿易体制の元で、さらに立場の弱い発展途上国の国々を追い詰めている。

 

 

 

3.中南米諸国の反乱


中南米諸国の多くがおかれる現状は、多かれ少なかれジャマイカと同じである。いまこれらの国々に、反グローバリズムの大きなうねりが沸 き起こり、北からの「大波」をはね返すような、南からの「大波」を北に向けて、また世界に向けて起こしている。アメリカのブッシュ大統領を「悪魔」呼ばわ りするベゼネイラのチャべス大統領のようなキャラクターをマスコミは面白がって取り上げているが、こうした政治家のパフォーマンスの裏には、貧しい庶民の 日々苦しむ現実が横たわっており、そこにはグローバリズムにはっきりと「No!」を突きつけている一人ひとりの庶民の姿がある。こうした国々の現実は、 けっして発展途上にある国々だけの問題ではなく、条件的に弱い立場にある農業を抱える日本の問題にも通じる。だからこそ、こうした中南米諸国の動きに、 もっと目を向けていかなければならないだろう。

 

 

 

4.キューバの歴史が語ること


 

中南米の中には、社会主義体制のキューバがある。キューバは、1962年のキューバ危機をきっかけにアメリカから経済封鎖を受け、植民地時代から強固に築かれてきたモノカルチャー経済が故に大きな打撃を受 けた。が、食料や物資を運んできてくれるパートナーをソ連に代えることで乗り切ってきた。しかし、そのモノカルチャー経済は、その後ソ連崩壊によって大き な痛手を受けることになる。食料のない悲惨な状況に陥ったのである。そのときに、足元から自給していくしかないということで腹をくくって取り組んだのが食 料の自給である。都市の空き地を農園に変えて食料を生産する。結果として今では200万都市の首都ハバナでさえも自給できる体制になっているという。アメリ カの経済封鎖という対応がゆえに、皮肉にもグローバリズムの大波に飲み込まれず、独自の歩みをみせたキューバの自主独立の姿には、大きな示唆が秘められて いる。しかも、キューバの農業を支える農法は、金のかかる資材や機械の投入もなく、土地の力を最大限に引き出すテーヤの農法だという。この点にも非常に学 ぶべきものがある。

 

 

 

5.食を人任せにしない運動を

 

先進国にあって「足元からの自給を」という場合には、途上国とは多少レベルは違うのかもしれな いが、「食を人任せにしない」という自給思想は重要であろう。地域のなかでの食の自給体制を、鳴子の米プロジェクトのように、消費者が当事者になって生産 者との連携によって築けたときには、大きな資本の力は地域にまで入っていけないであろう。政治的な反グローバリズムの運動とともに今まさに必要なのは、こ うした生産者と当事者になった消費者による地域のなかでの取り組みなのであろう。