東京で働いていたころ、まさかドイツに住むことになるなんて想像もしていませんでした。
 
「ドイツで暮らす!」という夢を持っていた夫とともにドイツへ移住してきたのが2005年の12月。どんな人生が待っているのか知る由もなくのんきにやってきた私は、その後数々の洗礼を受けることになるのです。

 

到着の翌日から次々とカルチャーショックを体験してきたわけですが、今日はまず、スーパーでの話を書いてみようと思います。

 
ドイツには「閉店法(Ladenschlussgesetz)」という小売店の営業時間を制限する法律があります。
 
その昔、1997年に旅行でドイツに来た頃は、ほとんどのお店が平日は朝7時から18時半まで、土曜日は14時時で営業終了、日曜・祝日に開いているのはパン屋、キオスク、大きな駅や空港の中にあるお店とガソリンスタンド(コンビニのないドイツではコンビニがわりですが、スーパーに比べると割高)のみでした。
「眠らない街 東京」から来た私には、それだけで十分すぎるカルチャーショックでした。
 
その後、2003年に法律が改正されたことで営業時間が少し延び、2006年のワールドカップ以降に再度緩和されたことで、私の住んでいる地域では土曜日も含め20時、21時、22時、24時まで営業するスーパーが見られるようになりました。私の住んでいる地域では・・・というのは、ドイツは16の自治州からなる連邦共和国で、法改正後は州レベルで法制化されているため、州によって違いがあるからです。
 
とはいえ、クリスマス・イブや大みそかは14時にはほとんどのお店が閉店、世界的に有名なクリスマスマーケットも大体は11月末に始まって12月22日には終了(←コロナ禍がおさまったらクリスマスマーケットに行ってみたい!と思っているあなた、ご注意ください!!)してしまいます。クリスマスに街中がたくさんの人で賑わうということはありません。
 
ドイツに来たばかりの私は、まず、家の中を生活ができるように整える必要がありました。毎週まとめて届けられる近隣のお店の広告とにらめっこをする毎日。ある時、書類を整理する三段引き出しをディスカウントスーパーの広告に見つけ、さっそく売り出しの日に行ってみると・・・私の狙っていた商品は残りあと一つ!私がスーパーの入り口を入った時刻は朝8時。広告に載っていたのだから目玉商品の一つであることに違いはありませんが、開店から1時間後に残り一つとはこれ如何に???私はその最後の一つを購入して家に帰りました。
 
当時の私には、知り合いも友達もいないし、ドイツ語はあいさつ程度しかしゃべれないし(なんと孤独な・・・)、その後もしばらくの間この「スーパーの謎」は解けずにいました。
 
しかし、朝早い時間のスーパーの様子を観察していると、ディスカント系のスーパーでは多少の差はあるものの開店前からお客さんが何人も並んでいます。「夏の大売り出し!!」とか、「決算!棚卸セール!!」といったわけでもないのに、毎週入る広告を見たお客さんが自分の目当ての商品のために朝7時や8時の開店前から行列をなしているのです。
 
そして、その謎はそこから数年後、上の息子が幼稚園に入るころに解けたのでした(←ずいぶん時間がかかったなぁ・・・)。
 
幼稚園に通うためには、いろいろとそろえなければならないものがあります。中でも、「Regenjacke(レーゲンヤッケ)」(雨の日に外で遊ぶために着用するゴム製の上着で、日本人の知っている子供用のレインコートとは違います)、「Regenhose(レーゲンホーゼ)」(釣り人が履いているようなゴム製のズボン)、「Hausschue(室内履き)」の三つは絶対の必需品なのですが、言葉もよくわからず、今ほどインターネットショッピングが普及していなかった(ドイツはIT後進国だと今でも思っています)当時の私にとって、何よりも頼りになるのは近所のスーパーの”写真付きチラシ広告”でした。ゲットするタイミングを逃せば、百貨店か専門店に行って2倍、3倍の値段のつけられた同じような商品を買わなければなりません。しかも、いずれの広告の品にも季節性があり、例えば、夏はドイツでは引っ越しシーズンなのでDIYの商品やあまり大きくない家具類などがチラシ広告に載っています。コロナでテレワークが増えたタイミングでは、パソコン机やいす、ヘッドホンやPC用カメラ、おうちでできるフィットネス器具などが特売品として売り出されました。
 
毎週のようにチラシ広告に目を通し、お目当ての商品を見つけた私は、さっそく特売日当日、出勤途中に開店前のスーパーに並びました。

 

開店と同時に目的の商品を目指すわけですが、お目当ての商品のワゴンにたどり着いて息子のサイズのそれらの三点をがっちり抱えてからゆっくりワゴンの中を見ていくと・・・なんと、私が腕に抱えている商品と同じサイズのものはワゴンに残り一つずつしかないのです。他にも何人か私のようなお母さんがいたので、もしかしたら彼女たちがキープしていたかもしれませんが、それにしても「今週の特売品」としてチラシ広告に載せている商品、例えば「室内履き!男の子用/女の子用(各14センチから18センチまで)」と記載されているものが2個や3個ずつ、中には一つしかお店にない事実に衝撃を受けました(日本だったら、『数量限定!』とか『限定〇〇点!!』などと記載がありますよね)。

 

売れたら終わり。もちろん商品の追加はありません。店員さんに「○○のxxサイズはありますか?」ときいたところで「そこになければありません」以上終了なのです。

 

お客さんの方も、例えば5月頃、夏のバカンス旅行へ向けて大きなスーツケースの特売広告が入っていた日(私のお目当てはほかのものでしたが)、開店と同時に一目散に商品を目指し、購入できたことをお店の外で意気揚々と「買ったわよ!お母さんの分と二つ買ったから!!!」と電話していたりするのです。

 

ドイツ人は朝が早い人が多いようですが、おじいちゃんやおばあちゃんたちが開店前のスーパーに並んでいるのはかつての閉店法の名残もあるのかとは思いますが、実はこういうことだったのか・・・とドイツに住み始めて3年も過ぎたころにようやく腑に落ちた出来事でした。

 

閉店法の背景には、長時間労働からの労働者の保護(ドイツは労働者が非常に手厚く守られ、組合もとても強いところが多いようです)、宗教(日曜日はキリスト教の安息日なので、家で家族と静かに過ごす日となっています)、また、規模の小さい小売店を大規模小売店と競争させないための保護などがあるそうです。

 

また、閉店法では年に4回だけ日曜日に営業することを認めていて、ネットなどでその年のverkaufsoffene Sonntage(お買い物の日曜日)の予定を確認することができます。

 

今ではすっかり慣らされてしまいましたが、当時、日本からやってきた私には何とも衝撃的!!なことでした。

そしてさらに驚いたのは、天気の良い日曜日に街中を通ると、たくさんの人がシャッターの下りた商店街でウインドーショッピングを楽しんでいる光景が目の前に広がっていたことでした。

 

ヨーロッパのハブ空港を持つ経済大国で日曜・祝日に買い物ができないというのはどうなのだろう・・・と思わなくもないのですが、「日曜日は家族と家で過ごす日」として育ったこの国に住む人たちは、日曜・祝日にお店が開くことをそれほど望んでいないようです。

 

日本では日曜・祝日に買い物に行かないっていうのはなかなか難しいと思いますが、月に1回?二か月に1回でもどこにも出かけない「家族で過ごすおうちの日」をやってみると、今まで気が付かなかった子どもの声に気が付けたり、新しい発見があるかもしれないですね♪

 

「人間万事塞翁が馬」(じんかんばんじさいおうがうま)

よいことがありますように😊

 

 

郷に入っては郷に従え

Andere Länder, andere Sitten.

 

雨の日用の上着、なかなか優れものです!

 

ドイツのディスカウントスーパーの一つ、Aldiのチラシ広告。この週の特集は「雨の日」。

 
スーパーに並ぶ人々・・・