しんとした木々の合間を縫う様に音が零れ出す
銀盤の奏でる旋律が
その森には何時も音が流れていた
音を愛する森の妖精と一本の老木がその身を差し出し作られたピアノの奏でる音が
だが、その音は何時しか止み、森は再び無音へ帰る
ビーストアーク
広い大陸の中、そう呼ばれる国がある
その国の中心
魔獣の巣窟と人に呼ばれる場所の中央部
獣の臭いが充満している広い道
大通りにとでもいうのだろうか
多くの獣に疎らな多種族で賑わいを見せる通りの一際広くなった場所には何時の間に建てられたのか
人目を引くように大きめの天幕が張られ、周囲に人だかりが出来ていた
その中をシルクハットにタキシード、そして顔を仮面で隠した数人が道行く獣や人へとビラを配る
『移動式幻燈映写館。日々の合間に語られし御伽噺の世界へようこそ。お客様のおいでを一同お待ちしております』
天幕の内部。人々の視線を集めるのは一人の仮面の紳士と古びた映写機と呼ばれる機械
そして大きなスクリーン
中ではまだ何も上映はされていないようだ
一通り客が入った事を確認すると男はゆっくりと口上を始める
『お集まりの紳士淑女の皆様、幻を売る燈籠屋にようこそ御出で下さいました
さて、これから上映致しますは音に魅せられた一匹の獣の物語
どの様な物語を歩むかは皆様次第で御座います
では、始めましょうか
一夜かそれとも一時か、夢か現か幻燈映写の幕開けで御座います』
筆が置かれる
この先は、きっと獣の国へ行った時に綴られるのだろう