面倒見のいい加州さん | 怪奇な僻地

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川谷圭による二次創作小説中心のブログです。

Attention!! まごむつ前提

「加州、すまないが少しいいか」
「いいよ、何?」
「先程確認したら陸奥守の唇が荒れていてな。お前さんはその辺りのことに詳しいだろう? 何かいい方法はないか」
「あー……はい、これ」
「これは?」
「りっぷくりーむ。唇が荒れるのは大抵乾燥が原因だから、これを塗って水分が逃げないようにするの」
「ほぉ」
「あと、念の為に言っとく。さっきみたいな惚気じみた説明は言う相手を選びなよ」
 孫六と陸奥守が恋仲になったことは周知の事実だが、本丸の男士全員がそのことを祝福している訳ではない。
 特に陸奥守の同郷刀二振りは、未だに孫六に対する当たりが強いままだ。
「心配してくれるのか」
「また母屋を壊されるのはごめんだって話」
 なお、先日は南海が孫六の部屋の前に仕掛けた罠が発動し、縁側の一部が陥没した。
 それについては南海が後で自分が修理すると張り切っていたが、嫌な予感しかしなかった為、他の男士たちで応急処置をした状態である。
(その前は、肥前が壁に穴をあけてそのままだし)
 一見孫六は単なる被害者であるかのように聞こえるが、そもそもこの刀がここぞとばかりに陸奥守との仲を見せびらかすのが原因なのだ。
 肉体的な距離が近いのは当たり前で、ある時は公衆の面前で陸奥守の耳元で何事かを囁いて赤面させ、またある時は濃厚な接吻をかました。
 それを見せれば陸奥守に対して過保護な二振りがどうなるかを分かった上でそんなことをするのだから、孫六も同罪である。

 ――これだから愉快犯は性質が悪い。

「ところで、この『りっぷくりーむ』は借りていいのか?」
「あげる。多分大丈夫だと思うけど、万が一却って唇が荒れるようならそれ以上使わないでね」
「ああ、分かった。感謝する」
「どーいたしまして」

 結局、孫六は最後まで「今後は気を付ける」とは言わなかった。

 《終わり》
(ほんと、ぜよも厄介な奴に捕まったよね)