もう数十年前の話ですが、事実を詳細に述べることは控えます。ただ、この時期になると、ある小学生の死が思い出されるのです。

 

 現場に出向いて、夕方の田園に流れる「カラスも一緒に帰りましょう」の音楽を聴き、少年が自殺したのはこの時間だ、と確信しました。新聞記者時代の出張取材の事です。

 

 警察署の担当刑事に会って「死亡時刻は午後5時でしょう」とぶつけました。「よく分かったな」と褒めてくれた老刑事は「全部教えてやるよ」と死亡した小学生の顔写真を見せてくれました。あどけない顔に目を背けましたが、刑事が言うには見事な覚悟の自殺だったと言うのです。首吊りの縄の跡目が真一文字に一本通っていたと。

 

 もがいて首をひっかくなどして、何らかの跡は残るものなのに、今度のような真一文字は珍しいようです。そして刑事は言いました。「子供だからできたわけで、人生に未練のある大人では真一文字はほとんどない」と。そして言いました。「動機はお前さんが調べたのであっているように思うが、警察がそう見ているとは書くな」と。遠い思い出です。