これまでの分はこちら↓↓↓
脳血管性認知症を患う、74歳・女性の鴨川さん。ご近所で1人暮らしをされているご主人は毎日施設に遊びに来て、なんだか半分、ホームの一員のような感じでした。そのご主人が倒れ、入院してしまったのが前回までのお話です。
しばらくの間入院され、その間病状などはわからなかったのですが(そもそも“利用者さん”ではないのですから当たり前です)、ある日驚くような知らせがスタッフの元に届きました。
ご主人が退院し、奥様のいる、この施設に入居されることになったと言うのです。
「え⁉ そんなことって本当にあるんだ⁉」
ご夫婦で有料老人ホームに入居されると言うのは、現実問題として金銭的に相当厳しいでしょうから、おそらく珍しいことではないかと思います。
ご主人は、もうずっと半分家族。毎日遊びに来られたら「お帰りなさい!」と言いたくなる程のなじみ具合でしたが、まさか本当に“利用者さん”になってしまうとは思ってもいませんでした。
しかし、知らせを聞いて喜んだのも束の間。ご主人の状態は、あまり良くなかったのです。
鴨川さんご主人(82歳・男性)。心不全と腎不全があり、退院はされたものの状態は良いとは言えず、入院中に体力もかなり低下したことから寝たきりに。排泄も全介助=オムツ利用となり、起きるのは食事の時のみ。
リビングで朗らかに笑っていた恵比寿顔は、残念ながら全く見られなくなってしまいました。
私の施設は完全個室でひとり部屋ですから、いくらご夫婦とは言えその部屋にふたりで入って頂くわけにはいきません。第一に、それだけのスペースがありませんから。
ですから本当は隣同士などで入居して頂ければベストなのですが、空室が一切ないことも多い中、そううまく空いているわけもなく、ご主人は違うフロアに入居されることになりました。
そうなると私は直接介助をすることができず、詳細はわかりません。ですが時折顔を見に行くと大抵横になって目をつぶっていて、あまり積極的におしゃべりもできないのがなんとも悲しいものでした。
奥様をお連れすると、いつも無表情な奥様が、笑っておっしゃいました。
『あんた、こんな所でなにやってんの。』
『なにを、こんな所で寝て!』
ご主人は、力なく、かすかに微笑まれました。
認知症の奥様からは、もうそれ以上の発語はありませんでした。
ご主人も入居されると聞いて、一瞬頭に描いた映像。ご夫婦で共に、リビングでご飯を食べ、互いの部屋を行き来し、たまにまた夫婦喧嘩でも繰り広げること。そんな幸せそうな夫婦入居は、残念ながら、叶いませんでした……。