介護士として長年、施設に勤めてきた。
数えきれないほどの利用者を見てきたが、どこのフロアーにもだいたいいる。
暴力を振るう利用者。
穏やかな時間? ある。
だが、一度スイッチが入れば地獄だ。
引っ掻かれる。叩かれる。蹴られる。殴られる。噛みつかれる。唾を吐かれる。
――これが、私たちの日常。
そして私たちは、ただ「耐える」ことしか許されない。
やり返したい? 当たり前。
でも一発でも返した瞬間、即アウト。
ニュースで「介護士が虐待」と報じられるのは、利用者の暴力ではなく、介護士の反撃だけだ。
今日耐えても、明日もまたやられる。
それでもケアに入らざるを得ない。
誰も「大変だね」と労ってはくれない。
殴られても、噛まれても、給料は一円も上がらない。
「暴行手当」? そんなもの、どこにもない。
医療と連携しても効果は薄い。鎮静はほぼ失敗。頓用なんて効きもしない。
分かっている。認知症だから。病気だから仕方ない。
……でも。
そのたびに心の中で叫ぶ。
「利用者の尊厳、利用者の尊厳」と繰り返すけれど――
介護士の尊厳は、どこにある?
暴力も暴言も、結局は「仕事のうち」で片付けられる。
私たちが守っているのは「利用者の尊厳」。
じゃあ、介護士の尊厳は?
答えは簡単だ。
そんなもの、最初から存在しないことにされている。
最近言われてる、「カスハラ撲滅」。
介護業界でどれほどのものになるのか気になるところ。
ーーま、これっぽっちも期待はしてないけど。
