歩行が不安定な男性利用者がいた。

やがて転倒事故が増え、車椅子を使用することになった。

しかし認知症もあり、車椅子から立ち上がっては転ぶー何度も何度も。


そこで施設お決まりの対応。

車椅子に座面センサーを取り付け、立ち上がると同時にけたたましいアラームが鳴り響く。

まるで「犯罪者脱走!」と言わんばかりだ。

職員はダッシュで駆け寄り、怒鳴り気味に「座ってください!」。

こうして利用者の自由は日常的に封じられた。


だが職員の苦労は日中だけでは終わらない。

夜は夜で落ち着かない。

ベッドから頻回に立ち上がり歩こうとし、相変わらずセンサーが鳴りまくる。

おまけにオムツを外しベッドで放尿のオンパレード。

服は総着替え、シーツは総取り替え、ベッドを動かして床掃除。まるで毎晩が“水害対応訓練”。


24時間落ち着かないこの男性利用者のケアだけでも職員の体力も精神も削られていった。


そんなある日、ケアの方針を思い切って転換。

転倒のリスクは覚悟のうえで、職員が付き添いながら好きに歩いてもらうことにした。

すると数日後、立ち上がりは減り、夜間の放尿もピタリと止まった。


ケアの方向性は十人十色。

ケアの変更はこの利用者にとっての正解だったのだろう。


安全の確保 と 権利擁護

その両立の難しさを、改めて思い知らされた。

介護とは、海のように深いものだ。