補論1-1 国家として成立するとはどういうことか | 中国について調べたことを書いています

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(1)国家として成立するとはどういうことか

国家であることにこだわるとすれば、そこには何らかのメリットがあるからに違いない。そのメリットを以下、3つ考えてみた。

 

①国際法上の主体としての権利義務

国家として認められれば、その政治実体は国際法上の主体として認められ、国家平等の原則の下で平等に扱われる。そして国際法の主体として一般的な権利義務を持つことになる。一般的な権利義務というのは、慣習国際法及びその国家が締結する条約における権利義務であると考えられる。この権利義務の中で重要なのは、主権、平等権、管轄権、裁判権免除といった権利であり、領土保全義務、国内問題不干渉義務、平和的解決義務といった義務である。もっともわかりやすいのは、国家と国家という対等の関係で国際条約を結ぶことができるということである。また、その国民にとってはパスポートであろう。国家として成立していれば、国民はパスポートを持ち、自国以外の国へ行くことができ、そこで国際社会の一つの国家の国民として扱われる。

 

一方、国家として認められない場合は、国際法上の主体として主権が認められない。主権が認められない限り、他の国はその政治実体とは対等な関係での条約は結べない可能性がある。安全保障条約などは結べないし、その政治実体が国際機関に入りたいと言っても国家でないことを理由に拒否することは十分に考えられる。

 

②国連加盟

国家として認められれば、国連に加盟する重要な条件をクリアすることになる。これは、あるいは①の範疇に含まれるかもしれないが、特に象徴的なことなので、分けて書いておく。少なくとも国連に加盟しているならば、そこは他の国連加盟国から国家として認められていると考えてもよい。国連総会の決議で一票を投じる権利を持つ。

ただし、バチカンのように多くの国が国家として承認しているにもかかわらず自らの意志で国連に加盟していない国もあるし、パレスチナのように多くの国が国家として承認していても国連に加盟できないでいる国もある。北朝鮮のように、日本が国家承認していないにもかかわらず国連に加盟している「国家」もある。

 

③国益の最大化

3つめとして本稿は以下のような考えを示しておく。

国家であることは、国益を最大化するのに有利な条件であるという考えである。

 

国益とは、様々な定義がありうるし、一義的に決まるものではない。しかし、国家の目的が国益の最大化にあることは間違いない。

国益として考えられるものは、例えば、以下のような事項である。

(a)主権独立の維持

(b)領域(領土、領海、領空)の保全

(c)国民の生命と財産に安全

(d)文化・伝統の継承

(e)経済発展・国民の繁栄

(f)自由貿易体制の維持

(g)安定・透明な国際環境

(h)国際秩序(自由民主主義、法の支配、基本的人権の尊重)

20131217日(平成二十五年十二月十七日)閣議決定「国家安全保障戦略について」を参照)

 

このうち、国家と認められないことで、もっとも容易に侵害されそうなものは、(a)主権独立の維持、(b)領域(領土、領海、領空)の保全ではないだろうか。国家でないということは、その政治実体はある国の一部だとみなされることである。政治実体BがあるA国の一部だとみなされれば、Bが主張する国境という概念は無視される。したがって、法的親国であるAが、その実効支配地域内であるBに軍隊を送りこんでも、それは侵略だとみなされない。A国がBの政権を「国家転覆をはかる叛乱団体」とでも決めつけて武力で抑え込むことも可能となる。A国がこれを国内の問題だと言えば、他国は容易にはこれに介入することはできない。こうした状況を避けるために、Bは別の国と安全保障条約のような条約を結ぼうとしても、Bが国家でないだけに、国際法上で有効な安全保障条約は結べないことになる。Bは、自らの軍隊などを強化し、自らの身の力でA国と対抗していかなければない。

 

 また、A国はBの独立を強く主張する人々を国家反乱罪のような名目で逮捕監禁し、財産を没収したり、極端な場合は死刑にすることができてしまう。この場合、(c)国民の生命と財産に安全という国益も、大きく失うことになってしまう。また、イデオロギー的な理由で、(d)文化・伝統の継承が難しくなる場合もあるかもしれない。

 

(e)経済発展・国民の繁栄と(f)自由貿易体制の維持については、政治と経済は異なるという考え方から、守ることができる可能性はある。ただし、(g)安定・透明な国際環境、(h)国際秩序(自由民主主義、法の支配、基本的人権の尊重)についても、Bは積極的にかかわることができなくなる場合がある。そうなると、自由貿易体制は制限されることがあるかもしれない。

 

これはあくまでも可能性の問題である。国家として認められなくても、強大な軍隊を持って主権と領土を守ることは可能かもしれないし、領域内の産業を育成して経済力を高めることも可能かもしれない。しかし、国家でないことで、国益の最大化に一定の制限がかけられてしまうことは間違いないだろう。

 

④それ以外

 国家であることを認められれば、承認欲求の満足、国家の誇り、国民のアイデンティティの確立に役立つ、などといった精神的なメリットもあるだろう。