(10-7)婚姻法の改正と党員への公開書簡(1980年9月) | 中国について調べたことを書いています

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2.香港・六七暴動
3.農業生産責任制と一人っ子政策
4.浦東新区から雄安新区へ
5.尖閣問題の解決策を探る
6,台湾は国家か

 

 

1980年9月10日に、婚姻法の改正が第五期全人代第3回会議で承認された。

第二条では、婚姻の自由・一夫一婦制・男女平等と、婦女・児童・お年寄りの権益の保護にならんで、計画生育が実行されることが謳われた。そして第12条では夫婦双方が計画生育を実行する義務があることが記された。これらは憲法に定められている内容を敷衍したものである。

そして第5条は「結婚年齢は、男は満22歳より早くてはならず、女は満20歳より早くてはならない。結婚を遅くし、出産を遅くすることが奨励される」となっている。

結婚年齢は男女ともに2歳引き上げられ、22歳と20歳となった。ただし、改定前は数え年だったのに対して改定後は満年齢であるため、実際には2歳以上の引き上げとなった。

 

これが、憲法に引き続き「計画生育」に法的な根拠を与える物である。

このあと、これを実行段階に移すのは、各地方に任される。各地方がそれぞれ具体的な実施方法などを条例で決め、それを実施してゆく。この時点で天津や上海ではすでに具体策が出されている。地方によっては、結婚年齢は婚姻法の規定にさらに2歳程度上乗せされていたという。

 

婚姻法の制定により、中国の一人っ子政策は法的には「憲法」「婚姻法」「地方ごとの条例」という3段階で構成されることになった。このあとは、各地においてそれぞれの地方が実施してゆくこととなる。

ただし、ここで注意しておかなければならないのは、実施は各地方に任せられている点である。実際には地方によって実施状況は異なっていた。

若林によれば、「人口法」「計画生育法」とでもいうべき全国的な法律や条例を作るべきだという議論は1979年以降から繰り返し審議されていた。各地の意見を集約し、具体的な草案も何度も作られたという。しかし、そのたびに反対され、実現しなかった。そして1990年末になって、全国的な法は作らないという結論に至ったとのことである。全国的な法を作れなかった最も大きな理由は、各地の事情であった。特に都市、農村と、少数民族が問題となった。(若林p65-68、湯p167-169

そうした全国性の法律や条例を作る代わりに、各地で各自の事情にあった形で地方性の条例(人口と計画生育条例)を作っていったのである。湯兆雲によれば、1980年2月に広東省で作られたのが最初で、1981年4月に陝西省、1982年3月に浙江省で作られ、1988年~1989年ごろに一気に増えている。もっとも遅かったチベット自治区と新疆ウイグル自治区で、制定は1992年3月と4月である。(湯p169-170)少数民族の問題が大きかったのが原因であろう。

条例の主な内容は、出産制限と出産管理である。出産制限は基本的には「晩、稀、少」に加え「優生」という要素が加えられた。「優生」とは、障害のある子どもを産まないということである。出産管理は計画とその実行管理、奨励や処罰である。

 

1980年9月25日「中共中央の我が国の人口増加抑制問題についての共産党員と共産党青年団への公開書簡」(中共中央关于控制我国人口增长问题致全体共共青团员的公开信)が出された。

これは広く一般の党員に対しての呼びかけである。内容は、今世紀末(つまり2000年)の人口を12億人以内に抑えることを目標とし、そのためには「1組の夫婦が子供を一人しか産まない」ことを呼びかけるというものである。

内容は多岐にわたるが、ごく簡単にまとめると以下のようになる。

 

・もし現在から30~40年特に、20~30年の時間内に普遍的に一組の夫婦に一人の子供を提唱して人口の増加を抑制しなければ、現在夫婦が平均2.2人の子供を産むと計算すると、我が国の人口は20年後(2000年)に13億、40年後(2020年)には15億になる。

・人口増加は人民の生活水準への影響が大きい。食糧だけでなく就学、就職、エネルギー、水、環境汚染への影響がある。

・30年後、人口増加が緩和されれば、異なる人口政策も可能。

・男の比率が多くなるかもしれない。この問題は、男尊女卑の古い思想を克服することで解決する。男女同一労働同一賃金を実現する。

・老人を養う人がいなくなる問題。生産が増え、生活が改善され、社会福祉と社会保険が改善されれば、大丈夫である。

・一人っ子家庭は優遇する。託児所、入学、医療、就職、都市と農村の住宅で援助をする。

・優生と出産抑制の科学的研究の推進。出産抑制の技術員の養成。

・出産抑制の方法は、避妊指導、品質の良い避妊薬と避妊具の生産による。避妊方法は自分の意思で選択させる。

・国家の前途、人民の利益、後代の幸せのために必要なことだという説得教育が大切。

 

http://www.chinalawedu.com/falvfagui/fg22598/11983.shtml

 

 

この公開書簡は、中央の文献としてではなく、党員への公開書簡という形で公開された。それは、おそらくこの「一人っ子政策」が上からの強制ではなく、あくまでも人民が自主的に行うものであることを強調するためだと思われる。結婚や出産というのは極めて個人的な事情である。そして、一人っ子政策はその個人的な事情に対して国家全体の都合で介入し、制限を加えるものである。それをできるだけ穏やかに、不満が噴出しない形で進めたかったのではないか。それは、実際の政策の実施を各地方に任せたことと同じ事情だろう。