愛知県美術館
『華麗なる英国美術の殿堂 ロイヤル・アカデミー展』(2015年)



まず、「ロイヤル・アカデミー」とはなんぞや…?

ロイヤル・アカデミーの歴史は1768年、英国王ジョージ3世によるアカデミー創立文書への署名に端を発します。
経済的に豊かとはいえなかった芸術家の財政的支援を目的として、芸術家による年次の展覧会を開くとともに、芸術家に専門的訓練を提供する教育機関として、その役割を果たすべく活動を始めました。
英国最古の美術学校であり、ターナー、コンスタブル、ブレイク、ミレイ、ハント、ロセッティといった才能豊かな人材が学んでいます。

ロイヤル・アカデミーのコレクションの中核は、アカデミーの歴代会員による「ディプロマ・ワーク」と呼ばれる寄託作品で、これらの作品は、各会員が自作を自ら選んで提出することになっており、自身の才能を示す証ともいえ、個性あふれる内容となっています。

(展覧会公式サイトより)

全4章、展示総数96点でもって18世紀半ば~20世紀初めの英国美術を堪能しました音符


イチ押しは、展覧会のチラシにもなっているこの作品キラキラ


ジョン・エヴァレット・ミレイ
《ベラスケスの想い出》
キャンバスに油彩 1868年 102.7×82.4
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ

史上最年少の11歳でロイヤル・アカデミー・スクールへの入学を許されたミレイ。
これは、ベラスケスが描いたスペイン王女マルガリータ・テレサの肖像画からインスピレーションを得たものだそう。
いや~、今までにワタシが見た女の子の絵の中で3本の指に入る美しさです!ピンクハート

ちなみに、ミレイのWikipediaには次のような彼の言葉が。

ただ、微妙で静かな表情のみが完璧な美と両立する。
誰が見ても美しい顔を描くなら、人格が形成され表情が決まる前の8歳前後の少女が一番よい。


……ははーっ、ごもっともで。
ミレイは、当時の英国で巻き起こった少女画ブームの火付け役だったそうな。


And、そのほかのお気に入り~音符


◆ Ⅰ章 設立 : 名声への道、1768-1837

モラルの向上や知的価値を高めるように制作された芸術を「ハイ・アート」と呼ぶそうです。
この章には、アカデミー草創期の高尚な理念や固い信念を感じさせるハイ・アートが並びます。


ジョシュア・レノルズ
《セオリー》
キャンバスに油彩 1779-80年 178×179
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ

初代会長の作(図書室の天井画のためのデザイン)。
ロイヤル・アカデミーの向かうところは "知" であると示唆したものです。


ヘンリー・フューズリ
《大蛇ミズガルズと闘う雷神トール》
キャンバスに油彩 1790年 133×94.6
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ

北欧神話じゃ~音符
海の巨人ヒュミルとともに船で釣りに出た雷神トール。
やがて彼の釣り糸には、ミズガルズの巨大な毒蛇ヨルムンガンドがかかるのでした。
この作品は、その大蛇の頭めがけて、今まさに神の鉄槌が下らんとする一瞬を描いたもの。
画面左上の天空からは最高神オーディンが眺めてます。
トールを海面から見上げるという迫力満点の構図がGood!グッ
(トールは大蛇に一撃を加えようとするも、船が沈没するのを恐れたヒュミルがトールの釣り糸を切断したため、大蛇は海中に逃げてしまい……怒ったトールはヒュミルを海に突き落とした、というようなお話)


ヘンリー・レイバーン
《少年とうさぎ》
キャンバスに油彩 1814年頃 103×79.3
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ

今回の、イチ押し美少年ピンクハート
厳かな雰囲気の作品が並ぶなか、ほっと息をつける一枚。


◆ Ⅱ章 国家的地位の確立、1837-1867

ハイ・アートが日常的な画題や文学的な主題、またオリエンタリズムへと多様に変わっていくさまを紹介しています。

オリエンタリズムの絵画、好みですワ音符


デイヴィッド・ロバーツ
《バールベックの大神殿入り口》
板に油彩 1841年 75.8×61.8
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ


フレデリック・グドール
《ヌビア人奴隷の唄》
キャンバスに油彩 1863年 71.2×92
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ


◆ Ⅲ章 名声と繁栄、1867-1895

1866年に会長に選出されたフランシス・グラント、1878年に会長に就任したフレデリック・レイトンらの経営手腕により、年次展覧会は成功をおさめ、最上の画家たちがアカデミー展に参加するようになった時代の作品を紹介。
先に掲載したミレイの《ベラスケスの想い出》も、この章にあります。


ジョージ・ヘンリー・ボートン
《追憶》
キャンバスに油彩 1896年 54.6×80
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ

海峡の近くで対岸のフランスの風景を見つめる乙女。
昔の恋人を想うのか…との解説が。
どこか非現実的な薫り漂う魅惑の一枚です。


ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス
《人魚》
キャンバスに油彩 1900年 96.5×66
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ
ジョン・ウィリアム・ウォーターハウス 人魚

英国の詩人アルフレッド・テニスンの『人魚』(1830年)の中の一節、
「美しき人魚がひとり、髪を梳り」
から着想を得た作品。
美しい歌声で船乗りを惑わし、遭難させたというギリシャ神話の海の精セイレーンになぞらえたもののようです。

同じくテニスンの詩を題材にした、ウォーターハウスの《シャーロット姫》(1888年 : テート美術館)も見てみたい!


◆ Ⅳ章 モダンの受容 : 黙認と妥協、1895-1918

19世紀末……パリをはじめヨーロッパ大陸各地で最新のアートを学んだ英国の画家たちがロンドンに戻り、アカデミー側も印象派的な作風をしぶしぶ受け入れざるを得なくなります。
創立当初34人だった会員は、現在、定員80人と決められ、これまでの歴代会員は700人超。
自身の歴史と自尊心を保ちつつ、柔軟な態度を示しながら、ロイヤル・アカデミーは古今の美術を発信し続けているそうです。


ジョン・シンガー・サージェント
《庭の女性たち、トッレガッリ城》
キャンバスに油彩 1910年 71.1×91.5
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ

"しぶしぶ" 受け入れた一枚でしょうなぁ。


フランク・ブラムリー
《内緒ばなし》
キャンバスに油彩 1911年 89.5×75
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ

わかりにくいけれど、左の少女の膝の上には黒猫が黒猫


ジェイムズ・ジェビューサ・シャノン
《ブラック&シルバー》
キャンバスに油彩 1909年頃 87.3×103.7
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ

モデルは作者の娘さんだそうで。
サージェントの影響を受けたアメリカの画家、との解説を見て納得。


で、、、
Ⅲ章とⅣ章の間に「アーティスト教育」のコーナーがあります。
「アカデミーにおける教育とは、実物そっくりに描くのに必要な基本技術を身につけさせること」
というわけで、18~19世紀にかけてロイヤル・アカデミー・スクールに在籍した学生たちの素描や版画、また、図書室の蔵書が展示されています。

ここでのお気に入りは、こちらキラキラ


チャールズ・ロバート・コッカレル制作と推定
《再生古代ローマのジュリアス・シーザー・フォーラム》
紙に水彩 1845年頃 66.4×99.6
ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ


"実物そっくりに描く" のがゴールではなく、そこからが新たなスタートだものね…(とワタシは思う)。

展示作品は1910年代のものまでですが、その後のアカデミーにも興味ありますな~。
今ではどこまで新たな作風を受け入れているのか……
最近のコレクション&現アカデミー会員の作品も併せて見たかったです。


『華麗なる英国美術の殿堂 ロイヤル・アカデミー展』
◆2015年2月3日(火)-4月5日(日)
 愛知県美術館
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(名古屋市東区東桜1-13-2)

ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ →

【ロンドン : ロイヤル・アカデミー・オブ・アーツ】


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