二つの月が出会う少し前、
とある映画館にて。

俺たちがお互いの間で何となく
“儀式”と呼んでいるその行為。

生きていくためにどうしてもやらないといけない、
忌まわしいんだか綺麗なんだか
よく分からない
“あれ”。

“その時”が近づくといつも、
それをスマートかつ正確に遂行するに当たっての計画を話し合う為に
俺たちは店以外の場所で落ち合った。

話し合い、と言っても実際は頭のいいスホヒョンがもう九割を決めていて、
残り一割の案を出し合うこともあるけど
殆どは最終確認をするだけの作業。

何故わざわざ店以外の場所で集まるのかと言うと、
その計画は
俺たち以外の誰にも知られてはならないから。

万が一店の客にでも知られると
非常に面倒くさいことになるから。

しかも計画の内容が内容なだけに
“足がつかないよう”
毎回違う場所にしている。

俺自身はそこまでする必要があるのかと疑問に思うこともあるけど、
念には念を
と言うスホヒョンの考えに従っている。

今回は誰が言いだしたのか、
他に観客の全く入って来そうにない
今にも潰れそうなこの小さな映画館が
約束の場所になった。

ここは作りも古めかしくてなんだか野暮ったい。

経営者の趣味で、今時流行らない古い映画ばかりを上映するスタイルなのだと聞いたことがある。

こういうの好きな人は好きなのかも知れないけど...
俺一人だったらまず来ないなと思う。

俺たちが顔見知りで示し合わせて集まった
ということが第三者にバレないように、
毎回集合時間もだいたいでしか決まっていない。

今日はどうやら一番のりだったらしい。

誰もいない館内の席から一つを適当に選んで腰掛けると
ふぅと溜息をつく。

強烈な眠気と渇き、
それにともなう疲労が襲ってくる。


この時期は渇きが酷くて眠れない。

日常生活ではなるべく顔に出さないよう努めているけど、
この時期だけは
どうやったって無理だ。

ダメだ、
耐えられない...

まだ誰も来そうにない。


ゴクリ。


これは渇きを癒すための応急処置。

さっき沸かして抽出した
“花”のエキス。


うん、
やっぱりこれを持ってきて正解だった。


「新鮮なものじゃないと意味がないって
いつも言ってるだろ」

そう言ってふざけつつ目隠ししてくる。

この声は...

あぁ
やっと来たか。


「分かってるよ。
いいんだ気休めでも。」

俺の言葉に納得したのかどうかは分からないが覆っていた手はすぐに離され、
ふと見渡すと
あれ?
もう皆いるじゃないか...

どうやら渇きを癒やすことに気を取られているうちに、
全員揃ってたらしい。


俺は本当はこんな風に他人行儀じゃなく
もっとシンプルに、向き合って皆と会話するのが好きだ。

流れている映画に目をやると、
かつては人気があったものなのか
いつか何処かで観たことがあるような気もするけど
はっきりと思い出せない。

誰か知ってる?

聞きたいけど聞けない。

今はあくまでも表面上
他人のフリ
を通さないといけないから。

生きていくためだから仕方ないとは言え、
こんなのまどろっこしいし
寂しい。

「じゃあ説明するよ」
スホヒョンが言う。

世間からは隔絶されたようなこの空間で、
俺たちだけの特別な時間が始まる...

(つづく)