かつて古の夜空には二つの月が浮かんでいたらしい。
元々二つだったものが一つに合わさって今の形になったのか、
はたまた
どちらか片方が何処かに消え去ってしまったのか、
今となっては分からない。

ただ“最初に目覚めた”頃から彼らの脳裏には、
確かに二つの月の姿がしっかりと刻まれていた。

彼らが目覚めたのは深い森で、
最初に目にしたのは生い茂る木々と互いの姿。

目覚める前に何処にいたのか
自らは一体何者でこれから何処へ行くのかも、
実は彼ら自身よく分かっていない。

一つだけ漠然とだがしかしこれ以上ないくらいはっきりしているのは、
普通の人間とは違う
ということ。

彼らは個々に異なる特別な能力を有していると同時に、
定期的に
生きていくためのある“儀式”
を行う必要があった。

そこが普通の人間とは違っていた。

それに加え普通の人間だったらきっと、
月が二つある夜空なんて
想像したこともないはずだ。





「そろそろだな」
ベッキョンが呟く。

丑虎(北東)と未申(南西)の方角に二つの月が現れやがて出会う時、
幾度となく繰り返されてきた彼らの儀式がまた始まる。

何故その時なのかは彼ら自身にも分からない。

ただその時が近づくと、
必ず彼らの体が求め始める。

だから分かるのだ。

その時が近づくと、
体中から水分という水分が無くなって
どんどん渇いて干からびていくような感覚を覚える。

“ただの水”を飲んでも
その渇きが癒えることは
決してない。




もっと特別な“何か”
が彼らには必要だった。

“何か”が無ければ生きていけないと
本能で知っていた。

その“何か”を手に入れる方法にしても、
頭で考えずとも
誰に教わらずとも
彼らの体が知っていた。

初めて目覚めた時に傍にあった透明の銃に似た道具を使えば、
手に入れることが出来るのだと知っていた。





(つづく)