台湾の民間信仰の一つに、
「魂を覆い隠す」=「蓋魂」というものがあります。
生命や財産を失うなどの、
不幸な運命から逃れられないというお告げを受けた人が、
法師などに、この「蓋魂」をお願いするのです。
それにより、
その人はその不幸に見舞われずに済み。
一年後、
その「蓋」を開けることで、
再び魂を取り戻すことが出来るのです。
しかし。
この蓋魂に関して、
こんなエピソードがあります。
ある銀行に、
中世の服を着た、
一人の中年男性が入って来ると。
そこにいた銀行員の二人、
陳と張に向かい。
君達は、
年内に降格させられ、
財産を失う、
と予言したのです。
無論、
こんな変な格好のおっさんの、
変な発言。
陳は鼻で笑い飛ばしたのですが。
信心深い張は、
大いに動揺してしまいます。
それを見抜いたのか、その中年男性は、
さらに一歩進み出ると。
もし君が出世をしたのなら、
「蓋魂」をしなければいけない、
と言います。
張は中年男の言葉を受け入れると、
彼の指示した通りに、
爪と髪の毛と、
そして3000元のお金を、
その中年男に渡したのでした。
このように。
同じ予言を受けた、
陳と張は、
その予言に対して、
正反対の対応をしたのです。
張は。
「蓋魂」をしなかった陳を、
嘲笑い。
いずれ陳に不幸が起こるぞ、と。
半ば意地悪い思いで、
見守っていたのですが。
数か月後、
その張自身に、
まるで予想外の知らせが飛び込んできます。
彼に「蓋魂」の儀式を行った、
中年男性が。
強制猥褻の罪で逮捕されたのです。
強制猥褻罪の刑期は、
五年以上。
つまり、
その中年男は、
一年後に必ずしなければならない、
「蓋を開く」儀式が、出来なくなったのです。
そして、その後。
魂に蓋をされたままの、
張は。
降格の憂き目に遭い、
地方の支店に飛ばされ、
鬱になり、
銀行を去って行き。
その後のことは誰も知りません。
一方の。
「蓋魂」をしなかった、陳は。
特に不幸に見舞われることもなく、
着実な人生を送り。
一歩一歩出世を重ね、
ついには、
銀行の支店長にまで上り詰めたそうです。