1970年6月のこと。
嘉義県阿里山に住む、
先住民である湯一家七人は、
朝食の席についていました。
白米、豚肉炒め、
卵スープなど、
一家は次々平らげて行きますが。
ただ、
13歳の少女・湯春花だけは、
何故かほとんど箸をつけようとしません。
「ママの痛めた豚肉は脂肪が多すぎる」
そう言った彼女は、
豚肉二切れと、
スープ一杯を飲んだだけで、
食卓を離れようとします。
その直後。
平和な朝食の席に、
混乱が起きます。
湯春花以外の六人全てと、
食事を分けて貰った一匹の子猫が。
突然、苦しみ始めたのです。
食中毒です。
医者が呼ばれ、
救急車が呼ばれ。
懸命の措置が施され。
母の汪秋華と、
三人の男児と、
一匹の猫は、
昏睡状態に陥りながらも、
どうにか無事に命を取り留めたのですが。
父親の湯温成と、
弟の湯添福は、
そのまま亡くなってしまうのです。
早速、
警察が調査を始め。
食事に農薬が混入していたことを突き止めます。
事故ではあり得ない。
恐らく、母親の湯秋華が、
キッチンを離れた隙に、
誰かが意図的に食事に混入させたのだろう。
そう結論を出します。
と、なると。
最も疑わしい人間は、
誰の目にも明らかでした。
一人、食事に殆ど手を付けなかった、
結果、農薬を口に入れることのなかった、
湯春花です。
ですが。
13歳の少女が。
そのようなことをするとは、
中々考えづらい。
そこで、警察は、
別の方向にも目を向けます。
湯一家に恨みを持つ人物がいないかどうか、
調査をはじめ。
そして、
すぐに容疑者を見つけ出します。
江文伯というその男性は。
殺された湯温成の長女・湯春美の夫でしたが。
近年、二人の関係は悪化。
江文伯は浮気を疑われたため、
逆上し、湯春美を殴打。
それを知った湯温成が、
江文伯を激しく責めたて。
一触即発の関係になっていました。
さらに。
江文伯は、新しいビジネスを立ち上げるために、
湯温成から借金をしており。
その返済を迫られてもいた。
容疑は濃厚です。
さらに。
警察は、もう一人の容疑者も割り出します。
陳清作という、近所に住むその男性は。
湯温成としょっちゅう喧嘩をしており、
会うたびに、
お互い激しくののしり合うのが常でした。
しかも。
この陳清作は、
毒など持っていない、と証言しておきながら。
警察が家宅捜索をしたところ、
陳清作の家の中から、
大量の農薬が発見されたのです。
十分怪しい存在です。
かくして。
湯温成の13歳の娘、湯春花。
湯温成の婿、江文伯。
湯温成の知人、陳清作。
容疑者は、三人に絞られ。
警察は、この三人に対し、
徹底的な捜査を行うのでした。