かつて。

 

日本最高峰が、

富士山ではない時代がありました。

 

台湾が日本統治下だった時代、

台湾にある、標高3952mの玉山が、

「新高山」と呼ばれる、

日本最高峰となったのです。

 

日本の統治が終了した後は、

玉山という名前に戻り。

 

多くの登山者が訪れる山となりました。

 

 

この山には、

一つの有名な伝説があります。

 

ある男性が、

数人の友人達と、

山頂目指して登山を始めますが。

 

折からの雨の中で体力を削られてしまい、

友人達から遅れてしまいます。

 

どうにか追いつこうと頑張りますが。

深い山の中、

視界も聞かぬ雨の中、

まるで前に進めず、

 

道もあっているのかどうか分からず、

不安に陥ります。

 

しかしそんな折、不意に彼は、

前方に幾つかの黄色い影を目にします。

 

黄色のレインコートを着た人々が。

その登山者の前方を、

山頂へ向かって進んで行くのです。

 

それが友人達であるか、

或いは別の人々かは分からないけれども。

 

 

とにかく、その人々に追いつこうと、

登山者は足を速めます。

 

しかし、その間の距離はまるで縮まらない。

広がりもしない。

 

不思議に思いながらも、

その黄色いレインコートを

懸命に歩を進めたその登山者は。

 

不意に、足元に違和感を感じ、

視線を落とすと。

 

足元には、断崖があり。

 

彼は、あわや転落しそうな場所に、

立っていたのです。

 

ゾッとしながら、

前方に視線を戻した彼は、

 

黄色い人々が、

霧の中に消えて行くのを目にしたのでした。

 

 

 

さらに。

 

玉山山頂にある、

山小屋の管理人には、

こんな経験があります。

 

真夜中にノックの音がしたので、

扉を開けたが、誰もいない。

 

その二週間後、

またも真夜中にノックがした。

 

また誰もいないのではないか、

そう思いながら恐る恐る再び扉を開けたところ、

三人の黄色いレインコートを着た人が立っていた。

 

良かった、今度は人がいた。

そう思った次の瞬間、

 

三人の姿が消え、

目の前には誰もいなくなっていた。

 

 

その数か月後には。

大雨の日、

二十人以上の、

黄色いレインコートを来た集団が、

フロントにやって来た。

 

管理人が急いで宿帳を取りに行き、

戻って来たところ、

 

フロントには、誰一人おらず。

 

外を見ても、

誰一人いない。

 

ただただ、

床がぐっしょりと濡れていたそうです。