2019年11月5日。

 

台中駅前のショッピングモール・東協広場は、

いつものような賑わいをみせていました。

 

カラオケ、ビリヤード場、ボーリング場などの店に、

昼間から集う青年達に加え。

 

東南アジア人向けのスーパーやレストラン、雑貨店に、

これまた昼間から集まる東南アジア人労働者達。

 

大勢の男女が集まり、

活気ある声が飛び交うその場所に。

 

 

突如。

 

午前十時、

煙が立ちこめるのです。

 

あちこちから聞こえる、

火事だ、という叫び声。

 

人々はパニックに陥り、

我先へと、

モールの外に飛び出します。

 

すぐさま消防隊が駆け付け、

消火にあたる。

 

大勢の野次馬が集まり、

その消火を見守りますが。

 

やがて、その中で。

人々の間に、

一つの単語がささやかれ始めます。

 

そして。

人々は一様に空を見上げ。

 

煙の中に、

それが浮かんでないかを、探し始めました。

 

――幽霊船が。

 

 

 

 

 

 

東協広場は、

かつては「第一市場」と呼ばれた、

台中随一の賑わいをみせる市場でしたが、

同時に、「台湾第一の不潔市場」とも呼ばれる、

そんな場所でありました。

 

日本統治時代には、

衛生面に力を入れ、

清潔な市場になった時期もあったのですが。

 

敗戦により日本が去り、

中国国民党が統治を始めると、

またも「第一不潔市場」に復帰。

 

無数の人々が集まり、

たくさんの店が集まり。

 

乱雑ではあるものの、

活気のある市場を形成。

 

繁栄を続けたまま、時代が過ぎ。

 

1987年より、

大きなモールの建設が始まり。

 

1993年、ついに、

「第一広場」という名前の、

ショッピングモールが完成します。

 

地下三階、地上十二階、

様々な種類の店舗が入り、

 

常に何千人もの客が行きかう、

巨大施設となりました。

 

 

 

しかし。

その繁栄は、二年ももちませんでした。

 

1995年2月15日、夜。

 

そのショッピングモールに、

やってくるのです。

 

――幽霊船が。