日本人女子大生、Mさん失踪事件に関して。
事件から一年後、
重要参考人として、劉学強の身柄を確保しますが、
劉の供述は二転三転。
殺人の証拠を得られないまま、
数日が過ぎますが。
3月10日、ようやく、劉の供述通りの場所から、
Mさんの特徴とほぼ完璧に合致する、
人骨が見つかった上に。
その後も、
彼の犯行を裏付ける証拠が、
立て続けに発見されます。
まず。
遺体発見直後。
Mさんの持っていたバックパックと
その中に入っていた、懐中電灯、雨傘、
スイスアーミーナイフ(十徳ナイフ)が、
綺麗なままで発見された上に。
Mさん失踪事件直後の深夜、
劉そっくりの男性がそれを破棄しに来た、という。
明確な証言が取れたのです。
事件から一年も経ったのに、
何故突然、
そんな物が見つかり、
そんな証言が得られたのか。
そこには、こんな理由がありました。
高雄に住むゴミ収集作業員である、
黄と徐の二人は。
その夜、いつものゴミ収集の仕事をしていました。
酷暑の環境であるため、
すぐに物が腐り、悪臭を発してしまう台湾では、
ゴミ収集は、日に何度も行われます。
通常、台湾のゴミ収集車は、
派手な音楽を鳴らしながら街を走ります。
その音楽を聞いた住民達は、
急いで家のゴミ袋を持って道に出て、
やってきた収集車にゴミを放り込む、という形で、
ゴミ収集が行われるのですが。
夜中に動くゴミ収集車は
無論、音楽など鳴らしませんし、
人々がかけつけてゴミを放り込む、ということもありません。
マンションや公園、レストラン前など、
決まった場所に置かれたゴミを収集して回るだけです。
その日の黄と徐も、静かに街を走り、
ゴミ収集を行っていたのですが。
突然、バイクに乗った眼鏡の男が現れると、
何も言わず、収集車の荷台にゴミを放り込んでいったのです。
不思議に思い、そのゴミをチェックした所。
非常に綺麗なバックパックである上に。
その中には、
イタリアのブランド・フィオルッチの赤い折り畳み傘など、
中々の高級品が入っている。
これを捨てるのは勿体ない、そう感じた二人は、
それらを山分けし、自宅へと持ち去ったのでした。
無論、窃盗です。
犯罪行為です。
しかも、その直後。
Mさんの母親が、台湾に来て配布していたビラに、
Mさんの所持品として、
まさしく、彼らの持って帰ったものが記載されているのです。
それに気付いた二人は、
一旦、これを通報しようかとも考えましたが。
自分達の窃盗が露見することを恐れた上に。
下手をすれば、Mさん殺害の容疑者にされる可能性まである。
そう考えて。
通報することはせず。
でも勿論、それらの物を使うことも、捨てることも出来ず、
結局、それらを、家の奥に大事に保管することしか出来ませんでした。
ですが、ようように遺体が発見され、劉学強が逮捕されるに至り。
ずっと良心の呵責を抱えていた彼らも、
もう、殺人の容疑者にされることはないだろう、と判断。
当局に連絡、それらの所持品を提出。
それに加え、一連の経緯からはっきり記憶に残っていた、
深夜にそれらを捨てに来ていた男性の容貌も、
警察に詳しく伝えたのでした。
さらに。
遺体が掘り出された三日後には、
凶器の捜索が行われることになったのですが。
劉の証言によると、
犯行に用いたクロスボウは、
犯行直後、橋の上から川の中に投げ捨てた、とのこと。
それは幅50mもある大きな川であり、
水深2.5mある上に、
川底には1メートルほどの汚泥が積もっている。
しかも、探す対象は、一年も前に投げ入れられたもの。
見つけるのに、相当な時間がかかるだろう。
そういう覚悟の上で、
30名のダイバーが、一斉に川に飛び込んだのですが。
なんと、捜査開始から、僅か一分後。
浮上したダイバーの右手に、
一つのクロスボウが握られていたのです。
弦はなくなっていましたが、
間違いなく、
劉の所持していたクロスボウでした。
捜査を見守るために押しかけていた、
マスコミや、野次馬は、
流石にこの出来事が信じられず。
警察があらかじめ、
似たクロスボウを放り込んでいたのだろう、
などと噂し合ったりもしましたが。
同時に。
この余りに早いクロスボウの発見と。
バックパック等の遺品の発見という、
二つの奇妙な事実。
これらこそ、
劉の罪を憎む、天の意思である、
と考える人々も多くいました。
自供に伴う、
遺体の発見、遺品の発見、そして凶器の発見。
最早、劉学強の犯行は疑いようのない事実である、
そう判断した検察は、
ついに、劉の起訴に踏み切ろうと考えますが。
それでも。
まだ、不足する証拠がありました。
発見された肝心の遺体が、
Mさんの物ではない、という可能性が残るのです。
年齢身長血液型などの鑑定結果だけでは、
それらが偶然一致しただけの別の人物であるという可能性は、
決して否定しきれないのです。
そこで、警察は。
当時開発されたばかりである技術、
DNA鑑定を行うことを決定。
その手配を進めようとしますが。
そこに、思わぬ障害が立ちはだかりました。
DNA鑑定を拒否する人物が現れたのです。
――Mさんの、母親。