2019年1月24日。

台南の警察に通報が入ります。

 

一人の大学生からのもので。

何週間も母・張と連絡が取れていないので心配だ、

と訴えます。

 

シングルマザーで一人暮らしの母、

行き先に心当たりがない、と息子は言います。

 

そこで、警察が張の勤務先のバーに連絡したところ、

確かに、1月8日以降、二週間以上も無断欠勤が続いていると言う。

 

 

早速捜査が開始されます。

そして一週間が過ぎたある日、

ようやく台南市内の駐車場で、張の車を発見。

 

しかも、車内には何かを洗い流した痕跡がある。

 

ここで張が殺害された可能性がある、

そう考えた警察は。

 

あらかじめマークしていた、

張の交際相手であり、同棲相手でもあった男性、

呉を署に連行。

 

尋問の末、

呉は、張の殺害を認めました。

 

呉の話によると。

 

1月8日、張が別の男性と出かけようとしていたため、

喧嘩となり、カッとして殴り殺してしまった、と言う。

 

そして、

その死体をスーツケースに入れて捨てに行こうと思ったものの、

スーツケースに入り切らなかったため。

 

1月9日、自宅浴室でノコギリを用いて死体を解体。

その上で、それをビニール袋に入れると、

張の車を運転、人気のない草むらに捨て、

 

その後、

1月14日に証拠隠滅のために洗車を行い、

1月15日に、張の携帯電話を破壊し破棄した、と。

 

全面的な自供を行います。

 

 

警察が調査に向かったところ。

呉の証言通りの場所に、

七つに分解された張の死体が、無事発見され。

 

その他の証言も、正確なものであると確認されました。

 

 

呉はさっそく裁判にかけられ、

全ての証拠が自白と一致していたこともあり、

裁判はスムーズに進み。

 

一審では、死刑判決。

二審では、無期懲役の判決。

 

現在、最高裁で争われているところです。

 

 

 

――と、事件そのものは、

十分な解決を見ているのですが。

 

 

それでも、ただ一つ。

 

現場の警察官が、

限りなく不思議に思ったことが一つ、ありました。

 

それは。

 

張を解体した場所の確認をするべく、

二人の住んで居たアパートにて、

周囲住民の聞き込みをした際。

 

口をそろえて、

あのカップルはいつも喧嘩ばかりで、

特に女性の泣き声がしょっちゅう聞こえていた、

 

多くが、そう証言していたのですが。

 

その中の数人が、こう口にしたのです。

 

 

――殺されたのは、日本人だろう?

 

と。

 

何故そう思ったのか、警察が尋ねると、

彼らはこう言ったのです。

 

――その女性の泣き声は、日本語みたいだったから。

 

ですが。

 

遺体や、浴室に残された血痕などのDNA検査などの結果、

殺されたのは間違いなく張であり、

 

張が日本語を話したという事実はありません。

 

 

無論、

日本人女性がその部屋に出入りしていた事実もない。

 

 

 

何故そんな証言が、複数も出たのだろう?

 

そう首を傾げた警察官の中で。

 

 

一人の警察官が、不意に気付くのです。

 

 

そのアパートは。

 

二十九年前である1990年に発生した、

あるバラバラ殺人事件の、遺体が発見された場所と、

 

まさしく同一である、ということに。

 

 

そして、

その時殺され、解体されたのは、

 

台湾を旅していた、一人の外国人。

 

 

――日本人女性、だったことに。