王という男性が、河原を歩いていた時のこと。

 

道路の上に紅包(ボーナスなどを入れる赤い封筒)を見つけた彼は、

何気なくそれを拾い、中を見た所、

かなりのお金が入っていました。

 

大いに喜んだ王が、

天への感謝の言葉をつぶやいていたところ、

 

突然、道路脇の林の中から、

一人の老婆が走り出て来て。

 

王に向かい、

「おめでとう、おめでとう!」と連呼するのです。

 

戸惑った王が、老婆に事情を尋ねると、

老婆は答えます。

 

「私の娘は早くに死んだのですが、

最近夢に現れて、『結婚したい』と繰り返し言うのです。

結婚できなければ、生まれ変わりが出来ないから、と。


そして昨夜の夢では、

『明日王という男性がこの道を通るから、

その人に紅包を渡してあげて』と言うのです。


そこで私が紅包を道に置いておいたのですが、

今それを拾ったあなたが、

王さんではありませんか?」

 

王はひどく驚きました。

台湾に古くから伝わる習慣、

死者との結婚、いわゆる「冥婚」は知っていましたが、

 

それが自分の身に降りかかるとは思ってもおらず。

 

そもそも、死者との結婚というのは、

決して気持ちの良いものではありません。

 

必死に縋って来る老婆に対し、

王は何とか誤魔化して、逃げ出しますが。

 

それでも、老婆は諦めない。

毎日毎日、王の家に来て、

娘と結婚してくれと言ってくる。

 

勿論、王の両親はこんな結婚に賛成は出来ません。

それでも、信心深い台湾人であったために。

 

王の母親と王は、高名な占い師の所に行き、

対応を尋ねます。

 

占い師は言いました。

 

確かに、前世からの宿縁で、

王は死者と結婚するようになっている、と。

 

さらに続けて告げます、

 

その冥婚は王に幸運をもたらすし、

その上、冥婚をしていたところで、

普通に生者と結婚しても、別に問題はない、と。

 

 

それを聞いた母親は、瞬時に考えを改め、

喜んで冥婚に同意します。

 

王もどうしようもなく。

 

良き日に、

古くからの風習通りの、

結婚の儀式を行いました。

 

その夜、王とその両親は、

一人の花嫁衣裳を着た女性が、

自分達の前でひざまずいて拝礼をする、

という夢を見ました。

 

 

 

その後、王は。

急に金運が良くなってきました。

 

工事現場の労働者だった彼の収入は、

それまでは、月数千元(1万円~3万円程度)がやっと、

一万元(約3万5000円)を超えることは滅多にない、

そんな貧しい暮らしをしていたのですが。

 

現場監督に抜擢されたこともあり、

月給は最低でも五万元(約18万円)を超えるようになりました。

 

しかも。

夢の中で、

その女性と性行為をすることも可能で。

 

冥婚をしたことに、

彼は非常な幸福を感じていました。

 

 

しかし。

 

そんな王にも、一つの大きな悩みがありました。

 

実は。

最初の冥婚の、数年後。

彼は再度、紅包を拾ってしまい。

再度老人が出て来て、「おめでとう!」と連呼した上で、

早く死んだ娘との冥婚を要求されたのです。

 

さらに金運が良くなること、

そしてさらに良い夢を見られることを期待した王は。

 

この冥婚にも同意し、

再度結婚式を行い、

 

望み通り、

金運はさらに良くなり、

夢もさらに楽しくなったのですが。

 

その後、色々と問題が発生してしまったのです。

 

どうやら、二人の妻の折り合いが

非常に良くないらしく。

 

二人はいつでも喧嘩をしているようで。

 

頻繁に、互いに罵り合うような、金切り声が聞こえて来る。

冷たい張り詰めた空気が、家に満ちる。

 

酷い時には、

棚にしまっていた食器が地上に落とされ、

全て粉々に割れてしまうようなこともあり。

 

王はひどく悩まされます。

 

 

そんな時に。

今度は地上に落ちている指輪を拾った王に。

 

三度、老人が、「おめでとう!」と声を掛けて来るのです。

 

二人の妻を持て余していた王は、

三度目の冥婚などとんでもないと、

慌てて断ろうとするのですが。

 

老人に連れられ、その女性の遺影を見てみると。

非常な美人であり、かつ非常に聡明そうな女性。

 

しかも、老人は言うのです。

娘は、人と人の関係を和やかにする名人だった、と。

 

王はついつい頷いてしまい。

 

三度目の冥婚をすることになったのでした。

 

 

すると、不思議なことに。

その日以降、

二人の妻の喧嘩はぴたりと治まり。

 

家には、和やかな空気が流れるようになり。

 

安心して働けるようになった王の仕事は、

ますます順調になり、

 

どんどん出世して行き、

 

やがては、

両親の為に、立派な邸宅を建てるまでになったそうです。

 

 

 

ただ。

それだけの金持ちになっても、

未だに王は生者との結婚はしておらず。

 

毎朝毎朝、

ひどくゲッソリした姿で出勤して行くそうです。