王道の怪談です。
その場所で死んだ人物の霊が、
生者に向かって呼びかけて来る。
言わば「皿屋敷」パターンと言っていいでしょう。
「古く暗い学生寮」「鏡の中」「黒い液体」など、
不気味な要素がいくつかあるので、
例えば学生同士の怪談大会では、
それなりに盛り上がる可能性はあるのでしょうか。
ただ。
この話には、大きな問題があります。
例えば、「皿屋敷」では、
古井戸から聞こえる、
「一枚、二枚、三枚……」という部分を、
おどろおどろしく発声することで、
相手に恐怖感を抱かせることが可能でしょう。
でも、この話では。
霊の発する言葉の内容が、
「夜食に行かないか」
です。
無論、「死者の世界に連れて行くぞ」という意味を考えれば、
十分に怖い発言内容ではあるのですが。
「夜食」って。
深夜に食べる、ラーメンだとか、スイーツだとか。
そのおいしさと、罪悪感とが相まって、
別のイメージが先に立って、
その「夜食」という言葉から、
不気味な雰囲気は、一切感じられません。
どれだけ発声に工夫をしようとしても、
「夜食に行かないか」
という言葉で誰かを怖がらせることは、相当困難でしょう。
ところが、中国語だと。
「夜食」=「消夜」。
夜を消す、と書いて夜食。
日本語とは一転、
十分に、不気味な言葉になるのです。
しかも、
昼間がひどく暑い分、
夜に活動する人も多い台湾。
かつ、学生の勉強も楽ではない台湾。
夜中まで開いている屋台は非常に多く、
夜通し賑わう店も数多く、
夜食に行く、という行為には、何の特別感もない。
おかしみだとか罪悪感などは、そこに付随しない。
そんなこんなで、台湾では、
「夜食に行かないか」が、
不気味なフレーズになり得るのでしょう。
台湾だから成立する怪談、ということでしょうか。
日本に輸入出来ない話ですね。