こなもんや三度笠 -3ページ目

こなもんや三度笠

そば、うどん、パスタなどの粉モノが大好き‼

 四十八茶百鼠(しじゅうはっちゃひゃくねずみ)という言葉をご存知でしょうか?

江戸時代、庶民が着られる着物の色は「茶」「鼠」「藍」のみでした。603年に聖徳太子によって制定された〝冠位十二階〟は身分と色をタグ付けしたものでした。身分が高い方から紫,青,赤,黄,白,黒の6色が割り当てられ、その思想は江戸時代まで引き継がれています。江戸時代し使える色に制限がある徹底した身分社会。ならば同じ茶色の中にも48色の茶色、100色の鼠色を探して、少しでも〝粋〟な茶色、〝粋〟な鼠色を求めて着たのが江戸時代です。

 江戸時代の人気最高の色は〝江戸紫〟。助六がハチマキしているこの色に庶民は憧れたものの身に着けることはできません。流行の発信は歌舞伎。流行色は歌舞伎から誕生しています。

 庶民は江戸紫を心に描きながら、〝助六寿司〟をパクついていたのです。江戸紫の鉢巻・はちまき→海苔巻きがのりまき。主人公助六の愛人・揚巻(あげまき)→油揚げ(あげ)の稲荷寿司だったのです。

 茶そばの起源については明確ではありませんが、寛延3年(1750)刊の『料理山海郷』に「玉子蕎麦切」、つまり卵切りの〝変わりそば〟が紹介され、翌年に『蕎麦全書』で〝三色そば〟や〝五色そば〟を売り出しているそば屋があることからこの辺りではないかと考えます。

 胆礬色(たんばいろ)、高麗納戸(こうらいなんど)、萌葱色(もえぎいろ)。緑と言っても様々な緑色がありますがその微妙な色合いを変わりそばで表現できるようになったのは真っ白なさらしな蕎麦を作れる技術が確立してからです。

 蕎麦に関する造詣の深かった故・鈴木啓之氏が生前に記した「変わりそば十二か月」の中で変わりそばの起源について次の三つが考えられるとしています。
① つなぎとしての小麦粉の代用

 今でこそ、蕎麦のつなぎとしては小麦粉が一般的ですが、寒冷な地で生産できない小麦は大変貴重で入手が   難しかった事情がありました。そこで、卵白や芋をつなぎに使い長い蕎麦を打つことが発展しました。
② 四季の移ろいを料理に反映したいと思う強い気持ち

 和食は四季折々の素材を使い季節の変化を料理に表したいという料理人の気持ちが強く反映します。

③ 御殿そばの献進に伴った技の競い合い

 真っ白なさらしな蕎麦は、御膳そばや大名そばと呼ばれ珍重されました。そして将軍にも御殿そばとして寄進 され技術革新が求められた経緯があります。

 

 筆者はもうひとつ茶そばという変わりそばが長く愛されて来た理由があると考えます。それが今からご紹介する八丁堀・あさだの蕎麦を食べながら考えたことです。

 

八丁堀あさだの創業は1892年。都内でも有数の大老舗です。

寒い日だったので、早速熱燗を注文。

茶そばを注文する前に、少々おつまみを。

〝だし巻き玉子〟。あさだのような老舗の玉子焼きは、伝統の甘い玉子焼きが多いですがこちらは、出汁たっぷりのだし巻き。

そして〝焼き鳥〟。蕎麦屋の老舗に多い串の刺さらない焼き鳥。太い根深も添えられてます。

本命の茶そば。

あさだの蕎麦は全て茶そば。季節の〝牡蠣そば〟をせいろで頂きました。

 

 

 

せいろは翡翠色のもりそば。

淡い緑色が爽やかです。

熱いつけ汁にたっぷり浸けて。

大きなぷりぷりの牡蠣がごろごろ入ってます。

 翡翠色の蕎麦を手繰りながら苦い抹茶をさらしな蕎麦に練り込む茶そばの変わりそばが長い間愛され続ける理由は何かなあと。

 ふと思い出したのは、蕎麦の専門家でそば研究者・片山虎之介先生から教えて頂いた『藪粉(やぶこ)』の話。〝かんだやぶそば〟と言えば歴史的にも蕎麦屋の大本山。ここには、〝藪粉〟という料理方法があります。蕎麦の色は、新そばの緑色っぽいのが良いと考えます。ところが、現代のように冷蔵庫がない時代。蕎麦の実の保管方法が難しく新そばも翌年の夏近くになると色も香りも悪くなる〝陳(ひね)そば〟になります。せめて色だけでも新そばらしく。やぶそばが考えたのは蕎麦の若芽を刻んで蕎麦に練り込むこと。これが藪粉の始まりです。現在ではクロレラを練り込んでいます。かんだやぶそばの影響力は大きく、釧路にある老舗名店・竹老園東家もその影響でクロレラの蕎麦を出しています。

 果たして、あさだの若女将さんが・・・。

 確かにそのように蕎麦の品質が落ちる時期がきっかけだと聞いています。うちの抹茶は京都・宇治のをそれほど濃くしないように用いています。

 

 『R=Red(赤)、G=Green(緑)、B=Blue(青)』の光の三原色は混ぜれば混ぜるほど明るくなり最後は白になる特徴があります。真っ白なさらしな蕎麦に季節の素材を練り込み最後は白に同化する素敵な変わりそば。究極の進化蕎麦ではないでしょうか?