僕がこれまで食べた蕎麦の中で一番美味しいです。
いつも仕事でお世話になっているK主任の言葉に驚きました。
この潔い断定。なかなか出来るものではありません。
彼が教えてくれた蕎麦屋さんは、京王線府中駅とJR中央線武蔵小金井駅の中間にある〝手打ち蕎麦心蕎人 さくら〟。公共交通機関を利用するならどちらかの駅からバス。多磨霊園からは僅か500メートルの近さです。
調べてみると、確かに評判の人気店のようです。それに多磨霊園は義父母が眠っている場所。府中は、三和銀行時代、新任の次長として勤務した府中支店が駅前にありました。現在の自宅からは決して近い距離ではありませんが、土地勘はあり、馴染み深い街です。そして府中といえば、〝桜〟。全国のトップを切って東京の桜が満開となった昨日(3月27日)に念願のお店を訪問です。
入口の横のベンチには好みの日本酒の空き瓶がずらり。ドリンクメニューを見る前から期待が出来ます。
洗い立ての暖簾の白さにお店の清潔感が表れててます。
11時30分の開店前に、既に12人ほど並び、開店と同時に殆どのテーブルが埋まりました。地元密着の人気店のようです。
隣のテーブル横には、4極真空管のプリメインアンプも搭載のマランツのコンポーネントステレオ。きっといい音がでるのだろうな。
早速の乾杯は、好みの猪口を選んで福井の黒龍いっちょらい。福井の方言で「一張羅」のことです。普段着で来ましたが笑
日本酒度+4のフルーティーな吟醸酒を冷酒で。
ツマミに 選んだのは、春の到来を告げる安曇野産の花わさびのお浸し。三杯酢で花わさびの辛さを少しマイルドに。煎りじゃこも。
高知県の海産珍味〝のれそれ〟。穴子の稚魚。ポン酢で味付け。上には菜の花のお浸しが乗ってます。
和歌山の超久(ちょうきゅう)の純米酒を熱燗で。日本酒度+19の超辛口。
焼きみそ。西京味噌の甘さがこの酒にはとても合います。
兵庫産の子持ちイイダコと大根の桜煮。桜煮とはタコの足を酒、醤油、味醂などで柔らかく煮ること。煮上がった様子が桜の花びらに似ているからです。大根炊きも絶品。
確かに子持ちです笑
お酒を栃木の鳳凰美田にしました。燗酒の温度帯は、日本酒が最も美味しいとされる〝上燗(じょうかん)〟。この温度帯を指定すると〝常温〟と聞き間違いがよく起こります。その為に
45度でお願いします
と注文するのが無難。
天ぷらの盛り合わせは、この時期にしか食べられない山菜と春野菜。ゼンマイ、フキノトウ、タラノメ、コシアブラ、タケノコ・・・・。
〆の蕎麦は、1日限定10食の田舎そば。蕎麦は、青森県十和田市の〝階上早生(ハシカミワセ)〟。希少な在来種です。
このお店は喉越しが良くコシが強い二八蕎麦にこだわってますので挽きぐるみの田舎そばも江戸そばの本流の二八。十割にこだわって二八を低く評価する自称そば通は自分の味覚力の確かさを一度試してください。
この店のそばつゆの美味しさには脱帽。やはり江戸そばのキリリとした辛いつゆです。こんなに妥協のない辛さを維持しながら塩辛くないのは鰹節がたっぷり入り、塩なれしてるからでしょう。江戸そばの老舗名店のそれに負けず劣りません。
かつて環七通り沿いにあった豊玉の〝明月庵田中屋〟。伝説の大人気店でしたが、若いお弟子さんに暖簾をゆずって引退した〝田中國安〟さん。以前私に教えてくれたのは、
美味しいそばというのは蕎麦自体の美味しさよりつゆの美味しさが8割なんだよ
さくらの蕎麦屋に行列が絶えないのはもしかしたらこのつゆの美味しさをお客さまが感じてるのかもしれません。
蕎麦湯の湯筒が出て来ました。蓋を取るとポタージュのような蕎麦湯。これは嬉しい。
ご馳走さまでした。評判通りの素晴らしいお店です。
店主の土屋貴広さんは、3代目。お祖父さん、お父さんの蕎麦屋さんを手打ちそば屋にリニューアル。都内の超有名な2店で修業され満を持して開店なんですね。明るく聡明な美人の奥様は常連さんとも上手な距離を取りながら気持ち良い応対をされます。
さくら蕎麦で食べた後は、本物の桜が見たくなり、府中の桜の名所・桜通りと公園通りを散策。
桜通りの桜は昭和31年に188本のソメイヨシノが植えられたのが始まりです。現在は約300本。樹齢は今年で66年になっており、都内のソメイヨシノと同様に寿命が心配されます。
こうゆうのが多く見られますね。太い幹からいきなり咲く桜。これを〝胴吹き桜〟と言います。
老木に多く見られますが、木にエネルギーが不足してくると光合成の不足を補うために急いで葉っぱを増やそうと、幹の途中から芽を出し、結果として花が咲きます。桜も生きるのに必死です。
ここで拙句を一句。
老いてなほ胴吹きさくらを養ひて 茄子
このオオゼキの店舗。
これが約四半世紀前に私が勤務していた三和銀行府中支店の店舗。二昔前になるのですね。
お口直しに
人生はつかの間の夢よ幻よ
いさぎよく美しく それじゃさよならと
永遠に 永遠に 流れゆく時よ♬♪
(北の大地 松山千春)