「今回もまた、謎ですね。やはり、真央さんの線が太いですが」

精神病院の外に出た警察の女性『由姫』は、同じく警察の男性『琴葉』に視線を向けた。
琴葉は苦笑しながら彼女を見下ろす。

「校内大量虐殺事件もそうだけど、遺体がおかしいんだよね。体があったり無かったり。ない場合は、どこかしらにあるはずだけど、見つからないし。それに真央さんが線が太いって訳でもないと僕は思うよ」

「と、言うと?」

「理人くんの推定死亡時刻は夜12時~2時。その前に看護師からの目撃情報もあるしね。彼女が彼を殺したとして、死体をバラバラにしても引きちぎられたようにして無くなった体の部位はどこに隠したんだろうってなるよね。院内をくまなく探しても見つからなかったし」

「確かにそうですが…」

「それに彼女、校内大量虐殺事件後の事情聴取と同じように震えていたしね。そう言えば今回は『お母さん』って言わなかったな」

「そうですね。何故でしょうか。あ!それに真央さんの首!見ましたか?」

「うん。指の痕がついてたね。しかも、今締め付けられているみたいに」

「深くは聴きませんでしたが、あれは一体…」

「気になるね。しばらくあの病院で調査してみようか」

「はい!」










警察の2人が出て行った病室で、真央と冬馬は肩をなで下ろしていた。
極度の緊張が全身から抜け出たのか、2人ともベッドや椅子に倒れ込んでいる。

「ヤバかった…なんだよあの警察。しつこい」

「今回はまだマシだよ。前はもっと酷かったし、長かったんだから」

「ま、今回はなんとか逃れたけど、これからどうするんだ?」

考えていなかった。
おそらく、『お母さん』は理人だけの犠牲では満足しない。つまりはまた、悲劇が繰り返されるということ。
目をつけられている以上、動きにくいし『お母さん』を抑えることもできない。
犠牲者が増えるのを見ているしか出来ないのだろうか。

「どうしよう。犠牲は免れない…かな。理人くんみたいに死んじゃう人があと何人も出ると思う」

「お前もか?」

「わからない。でも理人くん『お母さん』が取り憑いていて死んだって事は、次は私かもしれない」

死にたくない。その一心なのに…
自然と涙が溢れてくる。

「お、おい!泣くなよ。な?」

焦ったようにティッシュを差し出す冬馬。

「死なないって!前も生き抜いたんだろ?な?大丈夫大丈夫」

まったく大丈夫だとは思えない。けれど、必死に励まそうとする姿はなんだか面白く感じて、笑みがこぼれた。

「うん。大丈夫だよね。なんとか生きるための方法を考えるよ」



「何を考えるの?俺にも教えてくれない?」

突如聞こえた第三者の声。
冬馬は驚いて振り返ってみるとそこにいたのはメフィスだった。
耳の聞こえない真央はその冬馬の様子を見てようやくメフィスの存在に気づく。

聴かれていた。